これは「#08-02: 総力戦――なれど。」に対応するコメンタリーです。
総力戦が始まります。レベッカの戦死から二週間、その傷が癒えることもない。ただ帰ってきて、補給して、また戦場に。イザベラが間髪入れずに戦場を指定してきたと。これはイザベラ側にも悠長にしていられない理由があったからです。補給が(表向きは)受けられない立場ですし、なにより歌姫や乗員だって人間ですし。人間は海だけでは生きられないのです。
対するヤーグベルテ側は歌姫たちに加え、最強の通常艦隊――クロフォード提督率いる第七艦隊、そしてあの「空の女帝」カティ・メラルティン大佐率いるエウロス飛行隊を揃えています。文字通り最強の戦力です。
そしてカティがマリオンに通信を入れてきます。これ、マリオンとカティのファーストコンタクトなんですよね。ぶっちゃけマリオンさんはビビってます。カティさん、雰囲気が怖いから仕方ないね。実際はとってもいい人なんだけど、どうしても威圧感が先に立ってしまう。この人、「セイレネス・ロンド」に於ける主人公ですからね、カティさん。
『エウロスはもういつでも出られる』
「ありがとうございます、大佐」
緊張しながらそう応じると、メラルティン大佐は少し表情を崩した。少しだけ。
カティ、この時表情が上手く作れてないんですよ。元々感情表現が苦手なところのあるカティさんですがここでは「優しい表情」を作ろうとしているんです。
『引き際を誤るなよ、司令官さん。負けるより逃げるほうがマシだ』
歴戦の英雄であるカティだからこそ「逃げていい」という言葉に重みが出ます。そして「エウロスの隊長がそう言った」という記録が残ることによって、万が一退却となった場合にもマリオンたちへの責任追及が弱まるという効果も期待しての言葉です。カティさんも35歳、軍に入って十数年、しかも大佐。そういった駆け引きもいつの間にか上手くなってしまっています。
『勝てるなら徹底的に勝て。さもなくば退け。そのためにアタシたちがいる。容赦なく使い捨てな』
カティのこの言葉の意味も重い。歌姫を想う言葉です。そして同時に自分と部下は(たとえイザベラが相手であっても)簡単には死なない、という自信の表れでもあります。それに対して反論しようとしたマリオンに、カティは言います。
『正義感は自分を焚くぞ、司令官さん』
戒めのように響くその言葉。「正義」とは何かという。
「大佐は……その」
『ヴェーラも、レベッカも、アタシの大事な友人だった』
「大佐は、何も言ってあげないんですか……?」
『声をあげたら叫んでしまうよ――か』
セルフィッシュ・スタンドからの引用だった。
『アタシからアイツに言えることはね、このバカ娘、って言葉だけさ』
「直接伝えてあげてください」
『チャンスがあればね、ビンタの一つくらい張ってやりたいさ』
カティの言葉にできない想いを滲ませようとして書いた部分です。もっともっと言いたいことはあるけど、それが言葉にできない。言葉になんかできない、という方がいいかもしれない。
この後「バイザーを下ろし」って来るんですが、これ、潤んできた目を隠すためなんですよね。まだ出撃には時間があるので、バイザーを下ろす必要はないですから。
ダウェル艦長はそれを悟った上で、
「女帝があそこまで饒舌なのは、始めて見ました」
というわけです。ダウェル艦長だって言いたいことは山程ある。だけど彼は押し隠す。胸のうちに秘める海の漢です。だけど、「自分の思いをカティに語ってもらったのだ」と、それを示すために女帝に言及しているというわけです。しかし、それ以上語らないところがこのダウェル中佐のアツイ所です。
マリオンは色々な思いを感じながら、セイレネスで戦場を奔ります。そしてイザベラ様がそれに気付き――。
『ははは! ヤーグベルテも本気を出してきたみたいだね』
言うなり攻撃を仕掛けてくるあたり、本当に容赦がありません。
『こちら第七艦隊。全艦、応射に参加する。全トリガー、レスコ中佐、ユー・ハヴ』
そこで出てくるのが第七艦隊。コレを言っているのはクロフォードではないはず。クロフォードは基本的にバリバリ指揮するタイプではなくて、下準備を整えたら「あとは任せた」とやっちゃう人なので。
で、トリガーを同期して、後は全部エディタに任せると。このへんはクロフォード精神が行き渡ってる感じです、第七艦隊。
『エディタ・レスコより第七艦隊、アイ・ハヴ。協力に感謝する』
この”You have”と”I have”については結構お気に入りです。そしてイザベラ艦隊の打ち上げてきたセイレネスの乗った攻撃をエディタが迎え撃ちます――と見せかけて、応射まで引き受けて、その後はマリオンたちに任せます。じゃないとイザベラの攻撃を防ぐのは不可能と判断したエディタの名采配です。エディタはV級なのでマリオンたちには遠く及びませんし、なんなら同じV級のレオンよりもずっと能力は低いですが(というかレオンが高すぎる)、指揮官としては極めて優秀な人なのです。
そしてマリオンは「盾を掲げよ」という防御行動を選択します。この辺、マリオンさんも言ってる通り「身体が勝手に動いている」状態です。一種トランス、一種ゾーンの状態です。
対するイザベラ様が選択してきた攻撃は「タワー・オブ・バベル」。かつてマリオンが使った二個艦隊を吹き飛ばした超必殺技です。イザベラ様ほんとうに容赦ない。
イージスとバベルのぶつかり合いは拮抗。拮抗してるだけマリオンが凄まじい力を発揮していると言えます。戦闘「慣れ」という点ではイザベラが圧倒的に上ですから。
しかし、それだけでは火力が足りないと判断したカティは、母艦である海上機動要塞アドラステイアから核弾頭を搭載した超音速ミサイルをぶっ放します。核はヤーグベルテ的には(名目上)使ってはならない兵器の一つなんですが、重要な作戦では度々登場します。今回は、カティが無理を押し通して核ミサイルを搭載してきたというのが背景事情。
そしてその核をマリオンが超人的な演算能力で上手いことエネルギーに変換して、タワー・オブ・バベルを押し返します……が、イザベラはそんなことは想定済み。むしろタワー・オブ・バベルは囮……。
星が降ってくる。
そしてマリオンの指揮下の艦艇が、この謎の技を受けて次々と爆沈させられていきます。イザベラには脅威になりえないC級歌姫を集中的に狙ったことに、マリオンは驚愕を隠しきれない。
『戦争には犠牲が必要だろう?』
「でも、こんなの――!」
『ならばきみの愛する人を殺そうか』
イザベラ様のこの言葉に、マリオンは大ダメージを受けます。「わたしはそれをするだけの力を持っている」と明言するわけです。マリオンはそれをまざまざと突きつけられたというわけです。
しかし戦場の時間は進んでいきます。
『エディタよりマリオン。第二射、指揮せよ!』
「そ、そうだ。全艦、一斉射! モジュール・ゲイボルグ!」
第一射よりも減った攻撃。私はアルマとともにそれを光の槍へと変じさせる。
『効かん』
たったの一言で、槍は打ち消されてしまう。役者が違った。違いすぎた。
マリオンとアルマ、二人がかりの全力攻撃を「効かん」の一言で払いのける絶対的強者感。「役者」が違うわけです。
『第七艦隊情報索敵艦クレオパトラより歌姫艦隊。反乱軍より対艦ミサイルが多数接近。弾幕の要を認む!』
きましたクレオパトラ。ちょい役なんですけどね。情報索敵艦という情報収集・展開・ハッキングに特化した艦で、この時代は欠かせない艦種です。
そして遅い来る対艦ミサイルを検出していたエウロスも動きます。
『エウロスが出る。発艦。エンプレス最優先、ナルキッソス、ジギタリス、バトコン最大! 後を追ってこい!』
バトコンというのは以前にも出てきていますが、「バトコン最大!」というのは、ガンダム的に言うと「第一種戦闘態勢」ということです。エウロス全部隊一気に行くぞ! いうことなので、カティさんも手を抜くつもりは一つもない。
また、この時点でカティはF108Pから、「エキドナ」に乗り換えてますね。ヤーグベルテ最強の戦闘機です。一機で戦艦並の戦闘力を持つ――と評価されている機体です。勿論「真紅」。
『第七艦隊情報索敵艦クレオパトラよりエウロス飛行隊。敵ミサイルの数が多すぎる、無茶だ。間に合わない!』
こっからがかっこいいんだ、エウロス。文字にしちゃうとすぐ終わっちゃうんですが、映像的にはヤバイです。作者脳内ではエキドナは踊ってます。
『メラルティンよりクレオパトラ。アタシのエキドナを侮るな!』
カティ! めっちゃかっこいいな!!! ナチュラルに格好いいのよ、この人。
カティがここで出ていっていなければ、マリオンたちは防戦一方になって、対艦ミサイルでやられていたでしょうね。現状、↓の状態なわけで。
私も遊んでいたわけではない。その間、降り注ぎ続ける稲妻のようなエネルギー攻撃をひたすら防いでいた。だけど反撃に転じる余力なんて一つもない。
そこに飛び出すエンプレス隊。二十四機の先行部隊が、対艦ミサイルを撃墜していくわけです。機関砲でミサイルを落とす。相対速度マッハ4にも達する世界ですから、ぶっちゃけ「こいつら何を考えてるんだ!?」ですよ。カティのエキドナはパルスレーザー砲を搭載していて、しかもエネルギーは方程式によって事実上無限に供給されるので、縦横無尽に完膚なきまでにミサイルを撃墜していくのです。
『第七艦隊情報索敵艦クレオパトラより歌姫艦隊、対艦ミサイルの驚異は中程度に低下、各艦CIWSで対処されたし』
対艦ミサイル数百飛んできていたと思うんですが、多分十ちょっとまでは減らされたと思うんですよね。あとはエディタやレオンの重巡たちで対処できるだろうと。
しかし、まだ状況は続きます。
『第七艦隊情報索敵艦クレオパトラより、さらに悪い知らせだ。亜音速魚雷を十二、いや、十三、検知。誘導目標、制海掃討駆逐艦アキレウス!』
ここの「さらに」は、最初のミサイルが飛んできた所を受けてますね。ミサイル襲来からほとんど時間が経過してないことがわかります。
そんなことより、あの最強の対艦兵器「亜音速魚雷」ですよ。それが一ダース以上、マリオンのアキレウス一隻めがけて突っ込んでくるわけです。
そこでマリオンは、あろうことか自分の防御をすべてアルマに任せます。初陣同然のアルマに、自分の命を預けるわけです。
アルマはうろたえながらも「トライデント」というモジュールを発動させてなんとか亜音速魚雷の群れを防ぎます。それだけでは追尾性能に優れる亜音速魚雷は無力化できませんが、エディタやレオンたちがそれらを次々と撃破していきます。マリオンは一人でひたすらイザベラの攻撃を防御するのですが、力及ばず二隻の味方艦が沈みます。
それを見たアルマは「防御しててもジリ貧」と前に出て、マリオンもそれを追う。アルマの適応力や判断力はやはりすごいものがあります。しかし、もうマリオンも負けてない。
「マリオンより全艦。敵艦隊防衛ラインを強行突破する!」
従前のマリオンだったらこうはならなかったと思う。「敵艦隊」とは言えなかったと思う。数年後には正式な艦隊司令官ですから、ここでもうその片鱗が見えているわけです。
そしてエディタたちも反撃に出ます。そこで再び第七艦隊。
『第七艦隊ミサイル巡洋艦ハイペリオン、SRBM、発射! セイレネスにて捕獲されたし!』
ハイペリオンかっこいい。短距離弾道ミサイルをバカスカ打ち上げます。これも弾頭は核です。そしてミサイル一発あたり10の弾頭が放たれるMIRVです。つまり、4発40個の弾頭がイザベラの頭上に降り注ぐと。
『エディタよりアルマ、半数はこちらでもらう。残りはセイレーンEM-AZを!』
『アルマよりエディタ、了解。半数マーク引き渡し。確認願います』
『エディタ、了解。マークアップ確認。軌道調整、V級にて、敵C級に弾幕!』
雨だ。
光の雨がC級歌姫たちの艦船に降り注いだ。駆逐艦、小型砲撃艦、小型雷撃艦が次々と沈んでいく。……もはや当初の三分の一も残っていない。
エディタは有言実行。C級歌姫たちをその手で殺すんですね。マリオンとの約束であり、エディタ自身が決めたことであり。そしてこの連携攻撃が、イザベラの防御力の限界を示しました。
マリオンたちは一気に勝負を決めようと前に出ます。
が。
しかし、進軍はすぐに阻まれる。四隻の駆逐艦――C級歌姫たちによって。
全く相手になるはずのないC級歌姫たちが立ちはだかるんですね。マリオンたちは「無駄死にするだけだ」と言いますが、彼女たちの決意は昏く固い。
『私たちを殺しなさい。私たちを殺して、提督に挑みなさい』
「なんでそんな事をするの! 死にたいわけじゃないよね!?」
『あなたの手を私たちの血で染め上げられれば満足よ』
C級歌姫たちだって死にたいわけじゃない。しかし事ここに至っては「無駄死に」したくない。だから、その生きた証を遺したい。どんな形であっても。
『私たちはあなたたちS級歌姫なんかとは役者が違う。百も、千も、承知しているわ。でもね、だからこそ、こうしているのよ』
ここでも「役者」が出てきますね。
そこでマリオンは叫びます。
「わかんないよ!」
ここ、完全に碇シンジをイメージしてます。あの状況が理解できず、しかし理不尽なことは分かっていて、結局自分がどうにかしなきゃらないこともわかっていて、だけどそんなことしたくないよ! というときのシンジ君の叫び声です。
しかし歌姫たちは容赦しない。
『兵器のままでは死にたくない。だから、今、こうしているのよ!』
「でもそんなことしたって!」
『虐殺者になるがいいわ。私たちを殺すの。そうしたらあなたは殺人者。そうしたら私たちは人として死ねる!』
この言葉を、イザベラは黙って聞いているんですね。呪いの言葉を、C級歌姫たちに思うままに吐き出させている。それはイザベラ自身の言葉や思いでもあったからです。
「兵器としては死にたくない、人として死にたい」という思いは、多分ものすごくリアルだと思うんです。かつて大日本帝国であった我が国は、有人の航空機に爆弾をくくりつけて敵にぶつけた。「点数」だったんです、このときの特攻機は。「人」じゃなくて「機」。「人」じゃなくて「点」。ちょっと脱線してその辺のお話をします。
「特攻隊」というと「航空機による体当たり攻撃」というところまでは誰もが知っていると思います。勿論「脱出」は考えられておらず、米軍からは「Suicide Attack(自殺攻撃)」と呼ばれています。しかしながら、巨大な艦船が航空機一機が普通にぶつかった程度ではまず沈まないのはおわかりと思います。だからこそ、航空機には250kg、500kg、あるいは800kgという爆弾を搭載して、それと機体の威力で敵の艦船に大ダメージを与えようとしたわけです。この時点でも非道の作戦(私は作戦とすら言いたくない!)です。が、現実はさらに悲惨です。いいですか、特攻機が突っ込むということはパイロットは死ぬわけです。また、陸攻が突っ込んだら何人もが同時に死にます。
軍は、突っ込む機体に「点数」をつけました。
たとえば250kg爆弾を搭載した航空機は「1点」。500kg「2点」、800kg「3点」。そしてあの「桜花」――特攻のためだけに生み出された「人間爆弾」。それは「5点」。
「お前は250kg爆弾。1点の命だ」というわけです。実際にパイロットがそんな事を言われたかは知りませんが、軍としては「1点の命」だったんです。よかったな500kg、お前は2点だ。……これほど命をバカにした話もありません。
この「点数」が何を意味するかと言うと「敵の艦を撃沈せしめるに足るか否か」という指針です。正規空母なら「8点」。8点ですよ? 桜花1+800kg爆弾(を持つとなると複数の要員が必要な陸攻とかになります)搭載特攻機1で8点。極端な話をすれば「今回桜花10機落とすから半数がぶつかれば正規空母2、3隻はいけるな!」という皮算用に使われたというわけです。もはや「人」そして「命」なんてどこにもありません。250kg爆弾をつけられて「生きて帰ってくるな」と言われた飛行士たちの思いはいかばかりだっただろうと、私は思わずにいられません。
勿論「生きて帰ってくるな」そういう「十死零生」がまかり通っていたことがもう異常でしかありません。が、それにしたって「点数」はないだろうが! と私はこの話を思い出すたびに血が沸騰する思いです。考えてみてくださいよ。我が子が「1点」のために死んでしまったら。恋人が「3点だったって。よかったな」と言われたら。もちろん、特攻機の殆どが大戦末期にはろくな成果を上げられませんでした。米艦隊が特攻機を警戒した陣形を組み、また戦争中にレーダーも急激に発達したからです。500kgの爆弾をくくりつけられていては、さしものゼロ戦(も末期には時代遅れ感があった)でもその防衛ラインをくぐり抜けるのはほとんど不可能。まして護衛機の何倍もの数の敵が「手ぐすね引いて待っている」んです。
これ、誰がなんと言おうと「無駄死に」なんです。私だって兵士たちの命の散華をして「無駄死に」とは思いたくもないし言いたくもない。けどね、「無駄死にじゃなかったんだよ」というのは「慰め」の言葉であって、それ以外に使ってはいけない言葉なんです。ましてや次なる死を生産する口車大義名分同調圧力……そんなもののために使ってはいけない言葉だと。もっとも兵士たちは「無駄に死んだ」のではなく、「無駄に殺された」のだと私は強く信じていますけど。
という私(作者)の怒りの背景を踏まえて、このあたりの歌姫たちのセリフを読んでもらえると嬉しいなと思います、はい。
彼我の距離は数百メートル。もうほとんどぶつかってしまう距離だ。次々撃ち込まれてくる砲弾を、私は機械的に弾き返している。
マリオンにしてみたら「相手にならない」んですね。鎧袖一触というに相応しい。仮にマリオンが棒立ちになっていたとしても、C級歌姫たちは傷一つつけられなかったでしょう。
つらいやり取りの末、イザベラが出てきて言います。
『現実というのはね、こんなものなのさ』
イザベラが言う。
『訴えた。言葉を、歌を、頼って訴え続けた。だけど、わたしの言葉は通じなかった。わたしの思いも、わたしの献身も軽んじられた。時代が変わる。主役も変わる。その時が迫ってきたと、わたしたちは知ってしまった。ゆえに、わたしたちは手にした剣を抜くことを決めた。次世代にこんな呪いを遺してはならないと。人々の思いを変える必要があると』
イザベラが、なぜ「今」それを決意したのか。
「でも! こんな力を使ってまで――」
『剣を持ち、ゆえなる自由の下にて平穏を求む。この行為の何が罪だというのかな?』
この部分は米国マサチューセッツ州の標語 “Ense petit placidam sub libertate quietem” から来ています。wikipediaの翻訳を借りれば「剣をもって平和を求める、ただ自由の下の平和のみを」ということになります。「わたしはわたしのこの権能でもって自由を得、しかして平穏をここに導く」とかそういうニュアンス。
イザベラの正論に身動きが取れなくなったマリオンたちに、C級歌姫たちが突っ込んできます。体当たり――特攻です。
マリオンは叫びます。
「イザベラ! 私は、あなたを恨む!」
これはもうマリオンの本気の本気の本気の叫びです。どんな目的だろうが背景だろうが思いだろうがそんなことどうでもいいくらい、マリオンは怒ってる。
マリオンはしかし、それでもなお迫ってくる格下の歌姫たちを撃てなかった。
そこに飛来するのはカティ・メラルティンのエキドナ。瞬く間に四隻の艦艇を粉砕します。カティは「守るべきもの」を守るためなら、一切の躊躇も容赦もしません。それがカティの強さの真髄です。
そして戦場は仕切り直されることとなります……が、これも、
『全ては政治のお話さ。でもここはきみたちには、この脚本には従ってもらわないと困るんだ』
ということなのです。ここで「終わって」しまっては都合が悪い人たちがいた……ということです。
『わたしの最後の歌劇を、どうぞごゆるりと』
イザベラはそう言って、艦首を返して立ち去ります。
総力戦はこれにて終わりぬ――。