#01-01-02:戦闘開始

静心 :chapter 01 コメンタリー-静心
第一章ヘッダー

01-01:セイレネス・ロンド」に対応したコメンタリーとなります。

さて、敵の攻撃機がぶわーーーーーっと迫ってくるというところ。
この時代の航空機はアビオニクスが大きく進化しているので、現代航空機とは結構違う形をしているはず。
ドラッツェみたいなシルエットかもしれない(適当

『こいつ、戦艦バトルシップ……なのか?』
『何にしてもヤーグベルテの新兵器様だ。全機、油断するな』

敵の飛行士アビエイターたちは同様を隠せません。戦艦が、しかも2隻だけ。航空戦力が花形となっているこの時代に、艦船、しかも「戦艦」なわけです。驚くのも無理はないし、何かあるかもと勘ぐるのもむべなるかな。
ちなみに、ヤーグベルテ側の飛行士は「パイロット」、アーシュオン側の飛行士は「アビエイター」と呼び分けます。パイロットパイロット言ってると結構紛らわしいことになるので。というか、これ、「セイレネス・ロンド」の第二部に備えた呼び分けなんですけどね。「セイレネス・ロンド」の第二部は、敵国(アーシュオン)の飛行士と、ヤーグベルテのヴェーラとの物語が主軸になってくるので。

あとこれ、「バトルシップ……なのか?」はぜひ無線音声風で。真面目に考えると、実際問題この時代(2088年)の無線にノイズなんて乗らない気もしますが。

『艦長、全FCS火器管制システムこっちに』
『アイ・マム。全武装オール・ウェポンズ、トリガー、ユー・ハヴ』
『サンキュー、アイ・ハヴ! ベッキー、準備はいいアー・ユー・レディ?』
もちろんオフ・コース始めましょうレッツ・ゲット・スターテド、ヴェーラ』
『オーケー……! 幕を上げようレイズ・ザ・カーテン……!』

英語を無理やりカタカナにしたものが並びます。意味はそのまんまなので問題ないでしょう(?)
ここで一番大事なのが最後の「Raise the curtain」のところ。
コレを言わせるためだけに前の4行があります。
文字通り「舞台の幕を上げろ」という意味ですが、この「静心にて、花の散るらむ」は「舞台」を意識して書いています。戯曲と言ってもいいかな。とにかく舞台演劇です。それは進むにつれてハムレットやらオセロやらが出てくるので薄々見えてくるところと思いますが、それら全部ひっくるめて「ここから始まりです!」と宣言しているわけです。ちなみに最終盤「総員退艦」というところで「イッツ・ザ・フィフス・アクト」というルビを振るんですが、これは「終幕」という意味なんですね。その発話者が誰かというところも踏まえて読んでもらえると深くなるかなぁ。作者が深いとか言ってるのはどうかと思うんですが、私は自重しない。

そしてもって、

セイレネス発動アトラクト

です。
これはセイレネス・システムの起動キーのようなもので、この言葉を叫ぶ or 強く意識することで、セイレネス・システムが本気モードに入るんですね。ちなみにセイレネス・システムは基本的にシャットダウンされませんので、常にスタンバイモードにあるんです。で、それぞれの歌姫セイレーン専用にチューニングされたセイレネス・システムが、歌姫セイレーンの強い脳波的なものに接触することで「本気だすぜぇぇぇ!」となるのです。この本気モードが発動すると、艦船がブワッと光るんです。次のように描写されていますね。

白銀の艦の装甲が次々と展開スライドし、中からオーロラグリーンの輝きが火焔のように吹き出した。それは瞬く間に戦艦を中心にして半球状に広がり、それに触れた対艦ミサイルを音もなくさせた。

これ、私も知人に言われて気がついたんですが、ガンダムUCの「ユニコーンガンダム」がアレコレするときのアレにアレです。シャキーンシャキーンバキーンふぁぁぁぁぁぁ! みたいな(わかんねぇよ) オーロラグリーンっていう表現は私としてはとてもお気に入りです。単に「色」だけじゃなくて、オーロラの持つ「得体のしれなさ感」「畏怖すべき美」のようなものも含ませられたらなぁと思った次第。単に緑に光ってるわけじゃねーよ!っていうね。

実際、その光に触れたミサイルはきれいに消滅しているわけです。超バリア。バリバリの実です。

ここで敵の飛行士アビエイターたちが奮闘するんですけども……結果は悲惨なことに。
160機もの攻撃機が一瞬で全滅ですからね。この世界、戦闘用航空機は現代のものよりも遥かに安いんです。現代のように一機数百億円みたいなことにはならず、せいぜい数億円なんですね、これが。下手すれば10式戦車より安い。

なぜ兵器がアホみたいに安いかって言うと、それはこの「静心」では触れられてないんですが、この世界は超巨大軍産企業複合体コングロマリット「ヴァラスキャルヴ」っていうのが存在していて、そこにいるジョルジュ・ベルリオーズっていう総帥の野郎が次々と技術革命を起こしまくっているからなのです。彼は超AIと呼ばれる「ジークフリート」を単身で生み出し、世界のすべてのシステムをジークフリートで覆い尽くした。それによって世界の情報資産のすべてがベルリオーズ一人の支配下に収まることとなったという背景があり。で、ベルリオーズという人物こそ、後に出てくる歌姫計画セイレネス・シーケンスの黒幕なんですね。セイレネスの力の衝突コリジョンが生み出す莫大なエネルギーに着目した――とかそういうアレです。だから、ベルリオーズとしてはながーく戦争が続いてくれないと困るわけです。

で、このベルリオーズという人物は実は人間を超越した人間だったり、悪魔がいたり天使がいたりするんですが、それは「セイレネス・ロンド」側の話。同じ世界ではあるものの「静心」には悪魔とか天使は出てきません。後にマリア・カワセ大佐がすこーしその片鱗を見せるけど。

さて、話戻して。

『レベッカよりヴェーラ。AA対空戦闘・第二段階セカンドステージ移行シフト。主目的、全機撃墜』
『第二幕、敵航空戦力の掃滅、了解アイ。逃げる奴らは?』
例外なしノー・エクセプションズ
でいいんだよね』
肯定アファーマティヴ

ここのシーン、ヴェーラが「でいいんだよね」って確認してるんですが、これは「殺す必要はないってことだよね」っていう確認だったりします。ヴェーラやレベッカの力をもってすれば、飛行士たちを皆殺しにすることも可能なわけですが、それが狙ってできる=意識してくびりころす、に他ならないわけで。二人はそれがそうだということを知っていたので、「いいんだよね?」「肯定」というやり取りをしているわけです。後の艦船攻撃を見ると、おそらくヴェーラたちには「皆殺しにしろ」という命令が出ていたんだと思われます。が、参謀部やらは「セイレネス」の【精度】まではよく知らない(※現場に出張っての戦闘としては初陣だから)とわかっていたから「やっつけたをしよう」という提案をしたということになるわけです。

でもって、あっさり殲滅される敵機。

そこでヴェーラはつぶやきます。

『運が良ければ、第七艦隊に助けてもらえる』

この「第七艦隊」というのが重要で。ちょいちょい出てきます、第七艦隊。
リチャード・クロフォード提督率いる、通常艦隊としては最強の艦隊です。(※後にヴェーラたちが率いる艦隊が「歌姫艦隊」なので、それと区別するために、後に「通常艦隊」と呼ばれるようになる)
第七艦隊は超隠蔽能力を持つ「航空母艦ヘスティア」を中心とした縦横無尽に駆け巡る神出鬼没の打撃群なのです。

「潜水艦キラー」とも呼ばれるクロフォード提督は、潜水艦艦隊を大きな戦力としているアーシュオンにとっては驚異。しかもヘスティアの超隠蔽能力があるものだから、潜水艦艦隊を迂闊に動かせない。実際に潜水艦艦隊は何個もこの第七艦隊によって壊滅の憂き目にあっています。

その上、対通常艦隊戦でも恐ろしく強い艦隊なので、アーシュオンとしてはやりにくい相手なのです。銀英伝で言うところのミッターマイヤーとロイエンタールのいいとこ取りをしたくらいの有能な提督、それがクロフォードです。胡散臭さという意味ではオーベルシュタインすら含んでいる。

もっとも、そんな第七艦隊でもアーシュオンが後に繰り出してくる超兵器オーパーツ相手にはほとんど無力なので、その頃からクロフォード提督もやりにくさを感じつつあるはずなんですが、後に第七艦隊&エウロス飛行隊の最強コンビで超兵器オーパーツ攻略しちゃうんですよね。やべぇやつだ、クロフォード。

第七艦隊は後に「静心」主人公であるマリオンたちとも共闘するので、お楽しみに!

そんなわけで、次はいよいよ殲滅戦です。無慈悲よのう……。
――待て、次号!

→次号

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