トム・レーマンはヤーグベルテ参謀部第六課のナンバー3である。統括エディット・ルフェーブル、副統括アレキサンドラ・ハーディの下で、縁の下の力持ち的な働きを見せている。初登場時の階級は大尉である。なお、この時のエディットは中佐、ハーディは少佐である。彼の直属の上司はハーディであって、エディットから直接指示を受けることは原則的にはない。
年齢等はおそらくハーディらとさほど変わらず、士官学校襲撃事件(2084年)当時で三十前後と思われる。後輩であるプルースト(当時少尉)には割と厳しく指導をしていた様子ではあるが、基本的には(ぱっと見)人当たりのよい人物である。作戦時には極めて冷静で、それはともすればハーディをも凌ぐ程である。もっとも、ハーディの異常な集中力や忍耐強さには到底太刀打ちはできないのだが、それでも「恐ろしく仕事のできる人物」であるという評価は変わらない。エディットやハーディも相当に頼りにしていたようではある。
来歴は明かされていないが、彼もまたエディット(とハーディ)が探してきて参謀部に引き入れた人材であり、他の主要メンバーと同様に従来の慣習慣例には引きずられない、他課に言わせれば「エキセントリックな」人物ではあるようだ。そもそも第六課自体が異端にして異能集団なのである。その構成員たちもどこかそこか奇特な要素を持ち合わせているのは推して知るべき所である。
なお、参謀部第三課統括アダムス中佐(後、大佐)とは過去に何があったかは不明だが非常に相性が悪く、「アダムスの野郎」と呼んで憚らない。レーマンが他人の悪口を言うことはほぼないが、その至極稀な対象がこのアダムスである。
彼はその本音と建前を自在に操る特技をもって、他課・他部署との交渉役として立つことが多かった。しかしその結果、参謀本部上層部によるエディット暗殺計画の片棒を担がされる羽目になる。上層部により暗殺計画を知らされたレーマンは、即座に上司であるハーディに情報を漏洩している。
当初は軍の狙撃部隊によって暗殺が決行される計画だったが、その情報を聞きつけたハーディが先回りしてエディットを射殺した。実はそのことすら、上層部の計略のうちだった(という説もある) これは、「軍が殺した」という事実を「ハーディが殺した」という事実にすり替えた方が、その後のヴェーラやレベッカの感情コントロールには有利だと計算したからである。ハーディは自らの意志で「有象無象にはやらせまい」と決意したのだが、そのことすら軍は利用した――のかもしれない。
レーマンもまた、ハーディならそうするだろうということをわかった上での漏洩だったのだが、これについては尊敬する上司を敬愛する上司に殺させることになるかもしれない――という、かなりの苦渋の決断だっただろうと思われる。