セイレーンEM-AZとウラニアが、持てる火砲のそのすべてを撃ち放つ。極至近距離であるにも関わらず、その尽くが弾かれる。二度目の一斉射も、結果は同じだった。
『残念だけど、それではわたしは倒せないよ、ベッキー』
「あなたにこそ、まだ迷いがあるッ!」
レベッカは断定し、第三射目を放つ。セイレーンEM-AZからも光と炎の帯が伸びてくる。コンマ数秒で到達する弾頭の群れを双方は几帳面に弾き返していく。
が――。
「……ッ!」
先に有効弾を受けたのはウラニアだった。艦体中核、レベッカのいるコア連結室にまで激しい衝撃が伝わってくる。
「中破……!?」
艦体ダメージレポートを見るに、被弾による傾斜はない。しかし、艦橋付近の構造物が軒並み吹き飛ばされていた。艦橋要員を退艦させていなければ全滅していてもおかしくなかった。
対するセイレーンEM-AZの白銀の艦体は、未だ無傷だった。その主砲の砲口が、そして、艦首に備え付けられた粒子ビーム砲――雷霆が、確実にウラニアを狙っていた。
「負け、か」
レベッカは悟る。もう何が起きようとも逆転劇は起きないということを。だが、諾々と自沈を選ぶわけにはいかなかった。レベッカは、ヤーグベルテ国家群を守るために、反逆の徒であるイザベラ・ネーミアと戦い、華々しく散らなければならなかったからだ。それは、イザベラに「レベッカを殺す」という大悪を為させるためにも必要なプロセスだった。
轟音が響き、ウラニアが次々と被弾していく。ウラニアはもはや、艦首ビーム砲、アダマスの鎌を展開することもできなかった。必殺の兵器の使用、それを躊躇した時点でレベッカの負けは決まっていた。
「ヴェーラ」
レベッカは一撃を受けるごとに消耗していく自身の精神力を感じながら、呼びかける。
「あなたと出会えたこと、一緒にいられたこと。どういう出自であれ、あなたがいてくれたから私はここまで生きてこられた。そして最後にお話しできて、本当に良かった。あなたとのキス、忘れない」
『ベッキー……』
ヴェーラの悲痛な声が直接心に染みていく。
『わたしのわがままな戦いにつきあわせてしまって、ごめん』
ウラニアが大きな爆炎に包まれた。主砲が軒並み吹き飛び、上部構造物が無惨にも崩落した。コア連結室もまた、大きなダメージを受けた。
セイレネス、機能停止……。
レベッカは完全に沈黙してしまったコア連結室から這い出る。左腕は動かなかった。腹部には気絶しそうなほどの痛みがあった。視界が半分赤黒く塗りつぶされていた。髪が重く湿っていた。
「致命傷、か」
だけど、これでよかったんだろう。
レベッカは破断した装甲板の隙間から、セイレーンEM-AZを見た。視界はほとんどぼやけていた。眼鏡も喪失していたから、なおだ。
セイレーンEM-AZ――薄緑色に輝く白銀の艦体は神々しかった。あの中にヴェーラがいると思うと、レベッカの胸は確かに高鳴った。
私、死ぬんだ……。
壁に背を押し当てて座り込んだ時、その実感がようやく湧いてきた。しかし、怖くはなかった。不安すら、なかった。全て良い方向に行くだろう――レベッカはそう確信することができていた。
だって、みんながこれだけ悩んで苦しんだんだもの。
その結果が悪いものになるはずがないわ。
『ベッキー』
ぼんやりとしてきた意識の中に、ヴェーラの声が降ってきた。
眩しい視界の中に、確かにヴェーラが立っていた。
『わたしはこれからずっと、きみの隣にいるから』
「……ヴェーラったら」
消火しきれなかった炎が、音もなく忍び寄ってくる。しかし、その死神の輝きでさえ、レベッカの目には美しく映った。
「最期って、覚悟していたほどのものじゃないのね。すごく、優しいんだ……」
『そう、それは良かったよ』
ヴェーラの声は震えていた。その偽りのない意識の中で、ヴェーラは嗚咽を漏らしていた。
『ずっといっしょにいる。生まれ変わっても、きみが嫌だと言っても、しつこいと言われても、わたしはずっときみと一緒だ』
「愛してる」
レベッカはもう息を吸うことが出来なかった。差し迫った炎の熱が、レベッカの意識をかろうじて繋ぎ止めている。
『世界で一番、そして誰よりも、わたしはきみを愛してる、ベッキー!』
「セルフィッシュ・スタンド……。あなたは絶対に、わがままなんかじゃ、ないよ、ヴェーラ」
その直後、ウラニアが大爆発を起こした。
その巨大な艦体が、一瞬で砕け散るほどの巨大な爆発だった。
『ベッキー……!』
ヴェーラの悲痛な絶叫が、暗黒の空に響き渡った。