コア連結室から艦橋まで、私は声を上げて泣きながら歩いた。コア連結室の外でジョンソンさんが待っててくれなかったら、途中で動けなくなっていたに違いなかった。無力感とか絶望感とか、そんな陳腐な言葉では表すことができないほど、胸に空いた穴が冷たくて、痛い。
艦橋では、ダウェル艦長ほか、全要員が敬礼とともに出迎えてくれた。私はそれに応えることもできない。ただ、どうにかこうにかして督戦席に辿り着いて、腰を下ろしてまた泣いた。窓の向こうでは白銀の戦艦が沈もうとしていた。セイレーンEM-AZ、ヤーグベルテの最後の戦艦。
私は涙を拭く。拭いても意味がないほど次から次へと涙はこぼれる。白い手袋は涙で飽和していた。私の顔は多分見れたものじゃなくなっていて、声も出ないし、息も吐けない。そんなありさまだったけど、とにかく少しでも視界を確保しようと涙を拭き続けた。
あの戦艦の中にヴェーラはいる。でも、ヴェーラはもう――。
その時、私の視界に真紅の戦闘機が、エキドナが入ってきた。それは悲しげにセイレーンEM-AZの上を何度も周った。
「さきほど、エウロスのエリオット中佐から連絡がありましてな」
ダウェル艦長が私に背を向けながら言った。
「うちのバカが一機でそっちに行った。間に合ったらよろしく頼む、とね」
「間に合わなかった……間に合わせられなかった」
私は呻く。ダウェル艦長は頷いた。
「それが、ヴェーラ・グリエールという一人の人間の答えだったのでしょう」
戦艦がゆっくりと、海に没していく。
『マリオン、アルマ』
エキドナから空の女帝、カティ・メラルティン大佐が音声のみで通信してくる。
『……見えてたよ、全部』
「見えてた……?」
『感じたって言う方が正しいのかもしれない』
どういうことなのか、よくわからない。けど。
「ヴェーラは、最期に……」
『それも聞いてた。なにが、ほんとにごめん。いままでありがとう、だ。あいつめ……』
その声には本当に僅かだけど、震えがあった。激情を抑えてる――すぐにわかった。
『がんばったな、みんな……』
メラルティン大佐はそう言うと通信を切った。
「大佐……」
聞こえる。メラルティン大佐の慟哭が。エキドナは飛び去ってしまったけど、その声は私の心にダイレクトに突き刺さっている。
私の喉はもはや音を紡げない。嗚咽と落涙。今の私にできるのは、それだけだった。