小説

歌姫は背明の海に

32-1-1:セイレネス・ロンド

 なるほどね、うまくはいかないものだよ。  バルムンクの生み出す闇の中で、ジョルジュ・ベルリオーズは呟いた。朝日の中、沈みゆくセイレーン|EM《イーエム》-|AZ《エイズィ》を酷薄に|睥睨《へいげい》しながら。 「あらあら――...
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31-1-3:あの日の――。

 カティは純白の空間に立っていた。一面の白だ。それはセイレネスの生み出す論理空間の中だった。 「やぁ、カティ」「ヴェーラ……?」  声が聞こえてきたと思ったら、カティの目の前にふわりとヴェーラが降り立った。そう、その姿は|紛《...
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31-1-2:絆

 くそッ!   カティは思わず計器類を拳で叩いた。頑丈なハードウェアたちは鈍い音で抗議し、カティの拳に鈍い痛みを与えた。  イザベラの、否、ヴェーラの覚悟の重さは、カティの想像を遥かに超えていた。悲痛で悲愴な決意の塊だった。 ...
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31-1-1:飛び立つ女帝

 敵艦隊を殲滅し、母艦リビュエに着艦するや否や、カティは|艦橋《ブリッジ》へと急いだ。 「状況は! 状況はどうなってる!」  その怒声に、通信班長が即応する。 「第一艦隊と第二艦隊は、すでに交戦中です。ネーミア提督率いる...
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30-1-2:光

 エディタたち五名の|V級歌姫《ヴォーカリスト》と|C級歌姫《クワイア》たちは、クララとテレサを先頭に押し立てた第一艦隊と対峙していた。 「クララ、テレサ、降伏するんだ。これ以上は、無意味だ」『無意味?』  エディタの祈るよう...
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30-1-1:無力な善意

 薄紙を破るかのように、|C級歌姫《クワイア》たちの小型艦艇が粉砕されていく。マリオンとアルマの|PTC《完全同調コーラス》を前にしては、|C級《クワイア》では文字通り歯が立たなかった。一切の反撃の余地もない。|制海掃討駆逐艦《バスターデ...
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29-2-1:断罪

 二〇九九年一月一日未明――。  イザベラ率いる反乱軍と、マリオンとアルマに率いられた討伐艦隊は、ほんの三十五キロの距離で向かい合っていた。討伐艦隊の索敵ドローンが反乱軍をようやく検知できたのが、この極至近距離だった。一方、イザベラ...
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29-1-2:マリアによる種明かし

 混乱している、と言っても良いだろう。イザベラは半ば呆然と、モニタの中のマサリク大統領を見つめていた。  マサリク大統領は続ける。 『異論があるなら申し出たまえ。その勇気に応え、イザベラ・ネーミア討伐の最先鋒に任じようではない...
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29-1-1:新たなる真実

 二〇九八年十二月二十二日――第二艦隊撤退より一週間後。  マリオンとアルマは航空機によって統合首都へと帰還させられ、査問会を受けていた。本来、非公開であるはずの査問会の様子が、なぜかいろいろなネットのチャネルを経由してヤーグベルテ...
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28-2-1:フィンブルの冬は終わりぬ

 |闇《バルムンク》の中にて、その戦いの一部始終を見下ろしている姿がある。銀髪に赤く輝く左目の持ち主、ジョルジュ・ベルリオーズである。 「レメゲトンは?」「順調よ」  |傍《かたわ》らに現れる《《銀》》の揺らぎ。ベルリオーズは...
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