青年はゆっくりと周囲を見回した。青年の周囲には怯えた様子の人間たちが座らされている。
なすすべもなく、彼らはただその時を待ち望んでいる。逃れようもない、死への恐怖を渇望している。「いっそ早く殺してくれ」と叫びたいのをこらえている。誰が一抜けするかのチキンレースが始まっている。
「さて、始めますか、ね?」
青年は両手首に残った擦り傷を見やりながら、人々の周囲にぽつぽつと立っている仲間の一人に視線を送った。全身を戦闘用重甲冑で覆い尽くしたその兵士は、おもむろに手にした筒状の物を持ち上げる。筒先に、ちらちらと炎が揺れている。その正体に気付いた男が腰を浮かせ――倒れた。頭部が半分吹き飛んでいた。別の仲間が銃撃したのだ。
その凄惨な亡骸を見て、人々は一息に恐慌状態に陥った。立ち上がり、逃げ惑う。青年の仲間たちはそんな人々を射的ゲームのように撃ち殺していく。大口径の弾丸が、大人も子どもも無関係に物体へと変えていく。重甲冑の奥に隠された表情は見えない。
「やめて!」
その声に、青年は「ふむ」と口角を上げる。振り返った青年の視線の先には、幼さの残る少女が一人。顔には誰かが浴びせかけた血液がこびりつき、少女の赤毛を際立たせていた。肉の焼ける香ばしい匂いが青年の嗅覚を刺激する。青年は目を細める。
少女はどこから調達してきたのか、拳銃を手にしていた。青年はおどけて手を上げる。少女が向けてくる銃口はブルブルと震えている。そもそも安全装置すら解除されていない。
「なんでこんなこと!」
懸命に絞り出したその声が愛おしい。青年は「ククッ」と喉を鳴らす。
「理由か? 理由を知りたいのか?」
「やめて! こんなこと、もうやめて!」
その時、一人の少年が飛び出してきた。少年は少女の前に立ち、両手を広げた。
「お兄ちゃん!」
「逃げろ、カティ!」
それが少年の遺言となる。青年がいつの間にか手にしていた大型のナイフで、頸部を切断されたからだ。
吹き上がる鮮血に目を見開き、言葉を失う少女――カティ。その手から拳銃が滑り落ちる。青年は落ちていたコインでも拾うようにそれを持ち上げると、冷静に安全装置を解除した。そしてカティにニコリと微笑みかける。
「おや」
そう言って、近くで呻いていた男の額に銃弾を撃ち込んだ。返り血が青年の顔を汚す。
「君の代わりに殺してあげたよ」
「……!?」
「苦しみから救ってあげたんだ。誇っていい」
青年の言葉は、カティにはまるで理解できなかった。
「苦しむ人を解き放つ。これほど善意に満ちた行為はないだろう?」
「そんなこと……!」
「僕たちが今、こんなことをしていること。君が今、こんな目に遭っていること」
青年の手が少女の赤い髪に触れる。
「なに、悲しまなくていい」
カティはすっかり静かになった広場の中央で震えていた。
「真の世界平和をもたらすための、大いなる計画が始まったんだから」
青年は幾分冷ややかに、そう言った。