なるほどね――。
女と思しきものの声が、カティたちの背中を見送っている。誰にも観測されることのない、銀の揺らぎがそこにあった。
「歌姫計画とは、全く大袈裟な命名だこと。終わらない輪舞曲の管理システム――そんなところね?」
その声はどこにも響かずに消える。
「ところで、死せる戦士の魂たちをどうするつもり?」
深淵の闇の縁で、名状し難いその銀の何かが歌う。それに対して金の応えがある。その音は誰にも聞こえない。
「そう。そうねぇ」
銀はゆったりと肯定する。
「でも私は別に、戦乙女を気取るつもりなんて毛頭ないのだけれど」
銀の言葉に金が何らかの反応を返す。それを受けて銀はカラカラと嗤った。
「アトラク=ナクア――深淵の谷間に巣を張る者、人間はそう解釈していたわね。人間たちの想像力と、無意識的な推察力には関心するわ。集合的無意識の為せる業とはいえ、ね」
闇の中に声が鳴る。どこまでも無窮に続くその世界の裡で、銀だけが強烈に輝きを放っている。しかし、そん眩さは何をも照らしはしない。
「あははは、そうね。ジョルジュ・ベルリオーズ。ジークフリートに逆算的に作り出された奇跡の人。彼ならば、或いは、ティルヴィングを一番うまく扱えるかもしれないわね」
銀は勿体ぶってそう言った。金が何か不満じみた言葉を返す。
「いいえ、初めてよ。私がこんな事を言うのはね。私は今、本当に面白いと思っているわ。そうね、そう。最高級の娯楽よ」
ふふふ、と、また笑う。
「せっかくだもの。興醒めさせてほしくはないわ。楽しみましょうよ。ジークフリートの奏でる牧歌を。あの子たちの舞台をね」
そう。
十年前に幕を上げられた舞台に、音楽がついた。そのメロディが何度繰り返されるかは、私にもわからない。これは何度も何度も同じ旋律を繰り返す、輪舞曲だ。歌姫たちの輪舞曲が、今、静かに響き始めたのだ。
その始まりを感じ取ると、銀は満足して消えた。全くの闇の中に、ほんの微かに揺らぎを残して。