01-2-7:観測者

本文-ヴェーラ編1

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 なるほどね――。

 と思しきものの声が、カティたちの背中を見送っている。誰にも観測されることのない、の揺らぎがそこにあった。

歌姫計画セイレネス・シーケンスとは、全く大袈裟な命名だこと。終わらない輪舞曲ロンドの管理システム――そんなところね?」

 その声はどこにも響かずに消える。

「ところで、死せる戦士の魂エインヘリャルたちをどうするつもり?」

 深淵の闇の縁で、名状し難いそのの何かが歌う。それに対していらえがある。その音は誰にも聞こえない。

「そう。そうねぇ」

 はゆったりと肯定する。

「でも私は別に、戦乙女ヴァルキリーを気取るつもりなんて毛頭ないのだけれど」

 の言葉にが何らかの反応を返す。それを受けてはカラカラとわらった。

「アトラク=ナクア――深淵の谷間に巣を張る者、人間はそう解釈していたわね。人間たちの想像力と、無意識的な推察力には関心するわ。集合的無意識のせるわざとはいえ、ね」

 闇の中に声が鳴る。どこまでも無窮むきゅうに続くその世界のうちで、だけが強烈に輝きを放っている。しかし、そんまばゆさは何をも照らしはしない。

「あははは、そうね。ジョルジュ・ベルリオーズ。ジークフリートに逆算的に作り出された奇跡の人。彼ならば、或いは、ティルヴィングを一番うまく扱えるかもしれないわね」

 は勿体ぶってそう言った。が何か不満じみた言葉を返す。

「いいえ、初めてよ。私がこんな事を言うのはね。私は今、本当にと思っているわ。そうね、そう。最高級の娯楽サーカスよ」

 ふふふ、と、また笑う。

「せっかくだもの。興醒きょうざめさせてほしくはないわ。楽しみましょうよ。ジークフリートの奏でる牧歌を。あの子たちの舞台をね」

 そう。

 十年前に幕を上げられた舞台に、音楽いろがついた。そのメロディが何度繰り返されるかは、私にもわからない。これは何度も何度も同じ旋律を繰り返す、輪舞曲ロンドだ。歌姫たちのセイレネス・輪舞曲ロンドが、今、静かに響き始めたのだ。

 その始まりを感じ取ると、は満足して消えた。全くの闇の中に、ほんのかすかにを残して。

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