着艦直後に入ってきた情報に、カティは我が耳を疑った。真紅の愛機から飛び降りて、走りながら艦内通信用のヘッドセットを装着する。
「姉さ……じゃない、ルフェーブル大佐が暗殺だって? それは本当なのか。確度は」
『間違いありません。参謀本部も蜂の巣をつついたような騒ぎになっている模様です』
情報管制官が応じてくる。カティは汗をかくのも厭わずに艦内を走る。すれ違うエウロス隊員たちは、カティの鬼気迫る表情を見て、声もかけずに道を開けた。
カティが母艦リビュエの艦橋に上がると、それを待ち構えていたように情報管制官がカティに早足で近づいてきた。
「狙撃です」
開口一番もたらされたその情報に、カティは思わず息を飲む。情報管制官は携帯端末を確認しながら、感情を消した声で説明を続けた。
「ルフェーブル大佐は、胸を撃ち抜かれ即死状態だったとのこと」
「即死……」
呆けたように繰り返すカティ。情報管制官は深刻な表情で頷いた。
「現場には、ヴェーラ・グリエール、レベッカ・アーメリングの二名および、ニ名の警護官が居合わせたとのことで――」
「ヴェーラたちが!?」
カティは弾かれたように我に返る。未だに噴き出し続ける汗を無意識に払い除け、唇を噛みしめる。貼り付く前髪がうざったかった。
「二人は、無事なのか?」
我ながら虚しい問いだと思う。答えはわかっている。二人とも物理的には無事なのだ。だが、二人の、特にヴェーラの心はズタズタになったに違いない。今の薄氷の上に立っているが如きヴェーラの精神には、あまりにも――。
カティは拳を握りしめる。手の甲が軋むほどに強く。
「他に怪我人は出ていないようです、大佐。犯人も未だ見つからず、犯行声明の類も確認されていません。ネットの方の走査も現時点、成果は全く無いようです」
「そう、か……」
カティはイライラとした様子で前髪を掻き上げ、情報管制官に背を向けた。
「少し頭を冷やしたい。自室に戻る。何かあったら連絡をくれ」
「承知いたしました。あの、大佐」
「……なんだ?」
カティの紺色の視線を受け、情報管制官は少し躊躇う。
「ルフェーブル大佐は」
――ご立派な方でした。
カティには、情報管制官が何を言おうとしているのかが直感的に理解できた。だからこそ、敢えて最後まで聞かずに艦橋を後にした。