歌姫は背明の海に

歌姫は背明の海に

02-3-1:地平線上の134340

 カティは紺色のジーンズに黒いタンクトップという軽装で、ソファに深々と沈んでいた。溜まりに溜まった疲労により、ついウトウトしてしまう。うたた寝と覚醒を小刻みに繰り返してしまうが、まだ午後八時にもなっていない。本気で寝るにはあまりにも早すぎ...
歌姫は背明の海に

02-2-3:ディーヴァとの対面

 トリーネの提案に従い、四人はやや暫くの間、自制心というフィルタを除去された空間で意見を交わしあった。その話題の中心にあったのは常にヴェーラやレベッカであり、そしていつ始まったとも知れず、いつ終わるのかもわからない、この戦争のことだった。...
歌姫は背明の海に

02-2-2:嘘のつけない空間、セイレネス・シミュレータ

 その翌日の夕方、エディタたち|V級歌姫《ヴォーカリスト》たちは、技術士官ブルクハルト中佐によって、シミュレータルームへと緊急招集された。四人はその日の講義を全て終えて、すでにクタクタになっていたが、緊急と言われて行かないわけにもいかない...
歌姫は背明の海に

02-2-1:エディタとトリーネ

 それから三ヶ月後、二〇九三年一月初頭――。  エディタは寮の自室に戻るなり、ベッドに倒れ込んだ。 「きっつい。年明け早々もきっつい……」  年末年始にはかろうじて休みはあった。だが、その間もエディタはジムに通い続けてい...
歌姫は背明の海に

02-1-2:四人のペルソナ

 講義室に取り残されてしまった四人の新人|歌姫《セイレーン》たちは、互いにおずおずと顔を見合わせた。昨日の入学式で一応挨拶程度のことはしたが、それきりだった。入学初日からスケジュールが過密で、いまさっきになってようやく一息つけたという状態...
歌姫は背明の海に

02-1-1:四人のヴォーカリスト

 ハーディとヴェーラたちの溝は埋まらない。それどころか急速に拡大しているようにさえ見えた。セイレネスが正常に運用管理されているという現状が奇跡とさえ言える――ハーディ自身はそう認識していた。  もっとも、軍上層部としては本人たちの間...
歌姫は背明の海に

01-3-2:拒否権なんてないから。

 それから一週間後、短い夏の終わりごろ――。  いつもの実験が終了するや否や、ヴェーラとレベッカはハーディの執務室へと召喚された。二人の|歌姫《セイレーン》は硬い表情のまま、プルーストに促されて室内へと入ってくる。プルーストはハーデ...
歌姫は背明の海に

01-3-1:半年間の懊悩と、凍てついた涙

 エディット・ルフェーブルの葬儀から約半年後、二〇九一年八月――。  かつてのエディットの部屋であった参謀部第六課執務室で、ハーディはデスクチェアに身体を深く沈めていた。 「うまくいかないものだ」「そりゃそうでしょう」 ...
歌姫は背明の海に

01-2-3:全部、ノー!

 入って来いよと、カティは静かに呼びかける。レベッカはゆっくりと身を起こし、立ち上がった。そして足音を忍ばせて洗面所へと向かう。涙でぐしゃぐしゃになった顔を洗おうとでもいうのだろう。  カティもおもむろに立ち上がり、ドアのところへと...
歌姫は背明の海に

01-2-2:ブランデー

 二〇九一年二月三日――。  エディット・ルフェーブルの葬儀や手続きの一切が終わり、また普通の日々が動き始めていた。エディットがいないことが普通の日常が、だ。 「姉さん、ブランデーだよ。高いやつ」  カティはエディットの...
タイトルとURLをコピーしました