小説

歌姫は背明の海に

08-4-3:手紙

 親愛なるベッキーへ  わたしは今日、ここでわたしを捨てようと思う。  もしこれで死ぬっていうなら、それはそれで仕方ないと思うし、そのほうが良いともわたしは思っている。  未来への|試金石《タッチストーン》。そんな役割は...
歌姫は背明の海に

08-4-2:燃える、記憶

 巡洋戦艦エリニュスから走り出るなり、マリアはレベッカの手を掴んで自分が乗り付けてきた参謀部の黒いセダンに導いた。一も二もなく助手席に飛び乗ったレベッカは、息を切らしながら|携帯端末《モバイル》を取り出して、ヴェーラにコールした。だが、さ...
歌姫は背明の海に

08-4-1:驕りと怠慢と自己犠牲

 |ASA《反歌姫連盟》という謎の組織による襲撃事件から二週間が経過した、二〇九五年九月。  レベッカは、新型の巡洋戦艦エリニュスのコアウェポンモジュールの最終調整作業を行っていた。 「一段落……と」  呟きながらセイレ...
歌姫は背明の海に

08-3-4:夏の星座と、警鐘

 自宅へと向かう車中では、ヴェーラもレベッカもひたすらに沈思し、ひとつも口を開かなかった。家に送り届けた時も、レベッカからは「おやすみなさい」という言葉があったが、ヴェーラは俯いたまま家に入って行ってしまった。  近くのコンビニの駐...
歌姫は背明の海に

08-3-3:底の見えぬ願望

 思い当たるフシはなくもない――ヴェーラはそう言い残すと、それきり何も言わず何も応えず、自分の執務室に立て|籠《こも》ってしまった。 「ヴェーラ、どうしたのかしら」  仕方なく、レベッカとマリアは、その隣のレベッカの執務室へと...
歌姫は背明の海に

08-3-2:状況不明

 死ぬかな――それは一種の淡い期待だったのかもしれない。  そう感じたその瞬間、それまでずっとヴェーラの心を侵していた鋭い|漣《さざなみ》の群れは、完全に動きを止めた。明鏡止水、風も波紋もない。ただ静かに空を映す水面。一秒の何分の一...
歌姫は背明の海に

08-3-1:狙われたステージ

 それから約四ヶ月後、新曲「セルフィッシュ・スタンド」がリリースされてから一ヶ月が経過した、二〇九五年八月――。  軍服姿のヴェーラとレベッカは、巨大な野外ステージの中央に立っていた。ほとんど全方位を観客に取り囲まれている、円形のス...
歌姫は背明の海に

08-2-1:わたしたちの時代

 それから数日後、戦艦エラトーを見上げるレベッカは、少し寂しそうな表情だった。エラトーは明日から長期間のメンテナンスに突入することになっており、その間レベッカは巡洋戦艦エリニュスを操ることになる。エラトーに比べ、エリニュスの性能は大幅にダ...
歌姫は背明の海に

08-1-3:完成した詞とご褒美のキス

 レベッカは大いに混乱していた。昨夜着ていたはずのブラウスが、自分の隣にきちんと畳まれて置かれているという事実に。伴い、自分の上半身がほとんど裸で、下着すら用途を|為《な》していないこと。スカートを脱いでいなかったのは幸いだが、それでも着...
歌姫は背明の海に

08-1-2:二人の語らい

 なし崩し的にマリアを加えた三人は、当たり障りのない話題を面白おかしく広げて話し、食事を進めていった。途中でヴェーラがピザを追加注文したり、レベッカがワインに口を付けてグラス半分で酔い潰れたりはしたが、その夜は概ね平和に過ぎていく。 ...
タイトルとURLをコピーしました