小説

歌姫は背明の海に

10-1-1:年の瀬、その報せは。

 二〇九五年も間もなく終わろうかという頃、レベッカはまだ慣れてもいない新居の窓から、雪がしんしんと降る様子を眺めている。通りも庭もすっかり雪に覆われていた。雪は窓や街灯の明かりを受け、青白く世界を照らしている。通りに人の姿は見えず、行き交...
歌姫は背明の海に

09-2-3:その手を汚した感想は

 その日の夜、午後八時を過ぎた頃――。  エディタは艦隊旗艦エリニュスへと召喚されていた。|艦橋《ブリッジ》の直下に作られたレベッカの執務室には、レベッカの他にマリアもいた。昼間とは打って変わって、海は大荒れだった。エリニュスほどの...
歌姫は背明の海に

09-2-2:徹底粉砕

 セイレネスによって威力を|増幅《アンプリファイア》された砲撃が、数百キロ彼方のアーシュオン艦隊に大打撃を与えた。レベッカからの一撃だった。その射程は他の|歌姫《セイレーン》たちの誰よりも長く、その使用モジュールの威力も比肩する者はいない...
歌姫は背明の海に

09-2-1:血を流す意味

 エディタたちが軍に正式配備されてから約三ヶ月後、二〇九五年十二月――。  重巡洋艦アルデバランの|艦橋《ブリッジ》にて、エディタはメインスクリーンを睨んでいる。そこには現在の哨戒担当員であるとリーネが送ってきた海域検索情報が表示さ...
歌姫は背明の海に

09-1-1:歌姫養成科第一期卒業生

 ヴェーラの《《事故》》から一週間後、士官学校では卒業式が執り行われていた。この日は、エディタら歌姫養成科第一期生が、正式に軍に入隊する日でもある。 「この場にヴェーラ・グリエール中将の姿がないことを、残念に思います」  講堂...
歌姫は背明の海に

08-4-4:誰の望みなりや

 その|手紙《メッセージ》を読み終えて数分後、参謀部第六課、レーマン少佐からマリアの|携帯端末《モバイル》に着信があった。 『大佐、ジョンソン曹長とタガート軍曹が、グリエール閣下を救出しました!』「えっ、本当ですか!?」『現在、うち...
歌姫は背明の海に

08-4-3:手紙

 親愛なるベッキーへ  わたしは今日、ここでわたしを捨てようと思う。  もしこれで死ぬっていうなら、それはそれで仕方ないと思うし、そのほうが良いともわたしは思っている。  未来への|試金石《タッチストーン》。そんな役割は...
歌姫は背明の海に

08-4-2:燃える、記憶

 巡洋戦艦エリニュスから走り出るなり、マリアはレベッカの手を掴んで自分が乗り付けてきた参謀部の黒いセダンに導いた。一も二もなく助手席に飛び乗ったレベッカは、息を切らしながら|携帯端末《モバイル》を取り出して、ヴェーラにコールした。だが、さ...
歌姫は背明の海に

08-4-1:驕りと怠慢と自己犠牲

 |ASA《反歌姫連盟》という謎の組織による襲撃事件から二週間が経過した、二〇九五年九月。  レベッカは、新型の巡洋戦艦エリニュスのコアウェポンモジュールの最終調整作業を行っていた。 「一段落……と」  呟きながらセイレ...
歌姫は背明の海に

08-3-4:夏の星座と、警鐘

 自宅へと向かう車中では、ヴェーラもレベッカもひたすらに沈思し、ひとつも口を開かなかった。家に送り届けた時も、レベッカからは「おやすみなさい」という言葉があったが、ヴェーラは俯いたまま家に入って行ってしまった。  近くのコンビニの駐...
タイトルとURLをコピーしました