#01-02-01:マリオン(=たぶん主人公)登場

静心 :chapter 01 コメンタリー-静心
第一章ヘッダー

これは「01-02: 二年後――二〇九〇年八月」に対応したコメンタリーです。

というわけで、「#01-01: セイレネス・ロンド」から約2年後のお話。
この物語の主人公たるマリオン(この時点10歳)が盛大に迷子になる……ところから始まります。

(第一話で鬼神の如き威力を見せつけた)ヴェーラとレベッカのライヴ会場を前に、入場券(おそらく何らかの認証デバイス)を管理している施設職員とはぐれてしまったために、にっちもさっちも行かなくなっているマリオンさん。しょんぼりしてます。これ、マリオンが不注意だったわけでもなんでもなくて、そうなるように仕組まれていただけなのですが、マリオン自身は内向的自虐的な傾向があるために、しょんぼり落ち込んでいるという次第です。しかし、いわく「よくあること」とのことなので、「基本的にはぼんやりしている」んでしょうということがわかります。

ちょっと脱線。
ちなみにヴェーラもレベッカも、当初は歌姫セイレーンの名のごとく、「広報活動担当」として活動していました。もちろん、軍は彼女らの本当の威力、使についても承知の上で、そういうポジションを与えました。これは、彼女ら歌姫が国家国民にとって排除することのできないほどの重要さを持つことが狙い。そうして「歌姫としての地位」を確立した後に、あの2088年の戦艦デビュー&三個艦隊殲滅戦が起きるのです。そしてその「副次的効果」、いわば「歌」によるトランス作用によって、人々はますます歌にアディクトし、離れられなくなってしまうわけです。この辺は今後しつこいほど語られるのでアレですね。

閑話休題。
というかですね、マリオンは基本的に他人に関心がないというか、心を開かないタイプなんですね。だから戦災孤児になってから、施設に収容されたのまではいいとして、そこから何年も友達の一人も作らないままにぼんやり一人で生きてきたという背景があったりしますよ。内向的なんだけど意固地というか、頑固というか、そういう一面もあったりします。

ちなみにヴェーラとレベッカのオフラインライヴチケットは、アホみたいな当選倍率を誇ります。ソロライヴのときですらまず当たらないのに、今回は二人のDIVAが揃ってますからね。だからこそ、戦災孤児招待キャンペーンみたいなものを謳っていたりするわけです。露骨かつ効果的な国策ですね。

で、マリオンはまた心の中でぶちぶち言っています。

そして職員さんは、いちいち迷子を探したりしない。私の目覚まし時計を賭けてもいい。

ここで出てくる「目覚まし時計」はマリオンのほとんど唯一の私物なんですが、これは後に士官学校に入学したときにも持ってきています。ヴェーラの歌う「空の女帝エアリアル・エンプレス」という歌が目覚ましSONGとして流れるというものらしいです。

マリオン、淡々と目覚まし時計を賭けたりしてますが、内心穏やかならざるものがあったり。「とっても悔しい!」という気持ち。

マリオンはヴェーラとレベッカの大ファンで、物事に固執しないタイプの彼女が唯一「憧れ」と口にするのが、この二人なのです。
ついさっきまでその生歌・生の姿を目にすることができるかも……と期待していたのに、それが打ち砕かれた~と、しょんぼりなわけです。致し方ない。

で、いじけて座り込んで芝をぶちぶちやってるところに登場するのが、後の親友アルマ・アントネスク。この時点ではまだ三色頭じゃなくて、髪はピンク一色です。彼女が青と黒のメッシュを入れるのは施設を出てから(=士官学校入学のとき)なのです。

アルマはレベッカとヴェーラのプリントされた公式Tシャツを着ていたりして、そういうものを買ってもらえないマリオンとの生活格差を感じさせられる……はず。アルマもまた戦災孤児なので、同じように戦災孤児施設で暮らしているのですが、暮らし向きは随分と違う様子。

アルマはマリオンとは違ってサバサバスカーっとした性格です。ダメなものはダメ。無理なものは無理。そんな具合に理性と理解力がとても高いんですが、その後に「じゃぁ、どうする?」を必ずつなげていく頭の良い子なのです。マリオンみたいに「だめかぁ。しょうがないよね……」では終わらない。

このシーンで初めて「マリオン」の名前が出てくるんですが、

「あたし、アルマっていうんだ。黒髪ちゃん、あんたは?」
「あ、えっと、私、マリオン」

こんな感じで一人称主人公に名乗らせる動機を作っていたりします。と、ドヤ顔で書いてみましたが、これはまぁ、基本ですね。
一人称の主人公が唐突に「俺の名前は~」とか言い出すと(私個人的に)「誰に向かって自己紹介してんだ?」て気持ちになるので、そういうのは避けたいなと。ついでに「黒髪」であることもここで初めて露呈します。

で、その後で

「マリオン……あー、うん。それなら、マリーって呼ぶよ!」

アルマさん距離が近い。アルマなりになにか直感したんでしょう。後にマリオンとはただならぬ関係になるという直感。

愛称呼び、米国あたりだと初対面からごく当たり前にありますが、日本だとなかなか敷居が高い。ここでは日本的に考えてほしいですね。つまりいきなり愛称呼びされてマリオンさん面食らうというような状況。

二人は(まだこの当時はそういうジャッジは下ってませんが)歌姫セイレーンなのです。しかも後に「次世代最強」と呼ばれるほどのとびきり力のある歌姫なので、そういう事があっても何ら不思議じゃないわけです。あと、実はマリオンよりもアルマのほうが歌姫としての実力そのものは上だったりするので(#03-03に席次順に並ぶシーンが出てきますが、そこでは、アルマ>マリオン>レオン、の順に並んでいます)、アルマのほうがマリオンよりも洞察力があっても不思議じゃないわけですな! アルマさん、最強です。

そしてアルマは肩を抱いてきたりなんだりと、10歳にしてとっても積極的なわけですが、そこで出てくるこの言葉。

あたしさ、とかいうやつの空襲で、家族も友達もみーんな死んじゃってさ。

この「インスマウス(インスマスと呼ぶ人もいる)」は、ヤーグベルテでは後に「ISMT」と呼ばれるようになるんですが、これはアーシュオンの擁する最大最悪の兵器です。とにかく核兵器より圧倒的にやばい兵器でして、これによってヤーグベルテは一夜にして8つもの大都市をクレーターにされたという過去を持ちます。それがマリオン、アルマたちが孤児になった原因なんですけども。ヤーグベルテの人々の多くはこの「インスマウス=ISMT」にトラウマと憎悪を持っています。ちなみにISMTと呼ばれるようになった背景は「インスマウス」という単語に拒否反応を示す人があまりにも多かったから――というのがあったりします。戦争が生中継・生配信される世の中で、しかも超視聴率を確保できる世界ですから、こういうメディア戦略には軍も色々とおもんぱかるところが多いわけです。

でもって、アルマはレピア、マリオンはアレミアという都市の出身ですが、他にもセプテントリオ(後に出てくるレネ・グリーグの故郷)とかがあったりします。セプテントリオは四風飛行隊ボレアスの本拠地でもあったんですが、このISMTにより壊滅。しかし、ボレアス本隊は洋上での警戒行動にあたっていたためにほぼ無傷だったということもあります。ボレアス飛行隊は「セイレネス・ロンド」で色々アレする「異次元の手」エイドゥル・イスランシオ大佐が隊長の飛行隊です。

ちなみにこの「インスマウス」による八都市同時多発的空襲はそのままずばり「八都市空襲」と呼称されています。

それが起きたのが2084年(マリオン4歳)で、第一話「セイレネス・ロンド」の四年前。つまり2084年。で、このときの大被害でヤーグベルテは一気に厭戦えんせんムードになるものの、そうなると都合の悪い軍部や企業(ここでもあの軍産企業複合体コングロマリットであるところのヴァラスキャルヴのジョルジュ・ベルリオーズが暗躍しています)が動いて「大反撃計画」を立てる。その結果が、2088年の「二隻の戦艦のみによる反抗作戦」というわけです。結果、政府や軍部の目論見通りの大勝利、国民世論は一気に「反撃」の機運に出るわけです。それまではアーシュオンの持ち出す、ISMTや航空機ロイガーやナイトゴーント、あるいは潜水艦ナイアーラトテップといった超兵器オーパーツを前になすすべがなかったわけですからね、ヤーグベルテは。絶望的な戦線維持を強いられていたし、時として本土空襲の憂き目にも遭っていた。

2088年の戦艦デビュー戦までは、ヤーグベルテは「専守防衛」を錦の御旗として掲げていたのです。というか逆襲のいとぐちも無ければ余力もなかったと。
(ちょっとこのへん、「セイレネス・ロンド」とは時系列が違っていたりしますが、それはそういうものなので)

ところが、あの第一話のデビュー戦で、「信じがたいほどの圧倒的な戦力」を目の当たりにしたヤーグベルテの人々は、今までの鬱憤を晴らすべしと言わんばかりに……。彼らは何もせず、歌姫だけに負担を強いるわけです。

というわけで、次回はやっと第二話後半戦! 謎の大佐さんが登場!!
――待て、次号!

→次号

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