#01-03-02:ディーヴァとのファーストコンタクト

静心 :chapter 01 コメンタリー-静心
第一章ヘッダー

これは「01-03:私たちは、再会の約束をしたんだ」に対応したコメンタリーです。

ヴェーラ、レベッカ。二人の歌姫セイレーンの内側にある痛み。それを感じ取ってしまったマリオンは泣き崩れます。マリオンはここに限らずあちこちで号泣します。そんなふうにマリオンが泣いてしまうから、アルマはいつもマリオンを抱きしめる。再会した後も(レオンが加わりますが)ずっとそういう関係が続くわけです。

マリオンは割と素直に感情を吐き出せるのに、アルマはいつも「お姉さん」になってしまうからそれができない。アルマは10歳にしてそういう自分を是としているのですが、そのアダルトな感じもまた、アルマの生育環境に起因しています。マリオンは常に人から距離をとっていて、だからこそ自分の感情には素直……というか、取り繕いかたがわからないのです。

アルマさんはねぇ、本当に大人なんですよ。感情の制御が極めて巧みだし、他人への自分の見せ方もよく知っている。そうじゃないと暴力やいじめにあったから。マリオンのほうが境遇的にはなかなか切ないものがあるんですが、せいぜいハードモード。アルマはベリーハードかエクストラモードなくらいの生き方をしてきているともいえるのかもしれないですね。その中でも自分という一本芯を通しているアルマさんは、超強者と言ってもいい。ちなみに超絶頭もいいです。誰にも負けない力を手に入れて、その上で敢えて一番には立たないという生き方を選んでいるので。それはこの先もずっとそうです。卑屈になることもへつらうこともなく、スッとその立場を確立する。そういう人ですな。結構分厚い設定があったり、実はver.1.0~2.0くらいまでは割と書き込まれていたんですが、3.0~4.0(静心)ではバッサリカットされていたりしますよ。アルマさんの言動の端々から悟ってくれ! という感じでスパッと――良し悪しはともかく。というのは、アルマやマリオンを細かく描いたところで、いわゆる大人組であるヴェーラ、レベッカ、マリア、カティ、イザベラたちの「濃さ」には到底及ばないと見たためです。視点や比重の分散を避けたかったので、がっつり大人組にリソースを振ったという。

さて話を戻しまして。

泣き崩れるマリオンでしたが、彼女はステージに向かって「歌え!」と叫ぶのです。

その叫び声を聞きつけたヴェーラは……

 動揺する私。私は――ヴェーラの空色の瞳に射すくめられていた。ヴェーラは。息を飲む。呼吸を忘れる。女神の虹彩が私の心臓を止めようとしている。あまりにも透明な矢に射抜かれて、私の膝が震え始める。私は掌でアルマの体温をむさぼった。さもなくば私はきっと冷え切って死んでしまう。そう思ったから。
『きみたちに、何がわかるんだい?』
 私の内側でヴェーラの乾いた声が跳ね回る。
『何がわかっているんだい?』

てな感じで鬼舞辻無惨もびっくりなほどの冷たい声で問いかけてきます。しかも頭の中に。
ここの文章、自分的には結構オシャレな感じがして気に入っていたりする。息を飲む~膝が震え始める。までを現在形で畳み掛けておいて、「むさぼった」の過去形で落とす。というやりかた。時間というかテンポが好きで度々使っています。その後に倒置法つなげるところまでが私の場合セット。
……ここで「ヴェーラ・グリエール」という美しき歌姫、そして最強の兵器の「恐ろしさ」が垣間見えてくれればいいなと。

そして出てくる

 女神が、

きました、イリアス。きました、メーニン・アエイデ・テアー。
この時点ではマリオンは「イリアス」を知らないと思いますが、それでもそう直感してしまうほどに、ヴェーラの内側には憤怒が吹き荒れていいたというわけです。この時期のヴェーラは冷徹な憤怒に満ちているんですな、これが。

そんなヴェーラは尋ねます。

『きみたちには、わたしのこの想いが、わかるというのかい?』

それに対して、マリオンは叫びます。

「どんな事があったって、あなたたちの歌に救われる人がいる!」

この回答を聞いた時に、ヴェーラもレベッカも少なからずガッカリしています。
というのは、あまりにも「普通」な言葉だったから。「アルマだったら何て言っていたかな」ってのは書く時に考えたんですが、アルマは多分何も言わない。言えないというより、言わない。アルマは何を言ってもヴェーラやレベッカを納得させられないということはわかるくらいにさといので、言わないという選択をするだろうなと。だからここには彼女の台詞がないわけです。

『ならば、わたしは歌うのをやめないだろう』
 ヴェーラの声が響く。その残響に、ヴェーラは言葉を重ねた。
『わたしは人々のために、歌い続けるだろう!』
 微笑むヴェーラ。でも私の表情は動かない。人々のために――その言葉が引っかかった。なんでもないただの言葉。それなのに、喉にひりひりと絡みついてくる。

歌い続けるだろう」ということですが、この「人々のために」というのが割と重要な意味を持っていたりします。どういう意味での「ために」なのかと。これ、後に(#03-03のイザベラの演説とか)で出てくるのでアレですね。本編読んだ人は「あれか!」ってわかる気がしますよ。わかりますよね。わかるよな!?(威圧

でもって、ヴェーラが、

時は来たウェイ・アンカー! 恍惚に酔えゲット・イントゥ・ア・トランス!」

と言いますが、この「恍惚に酔え」というのは、歌姫セイレーンがセイレネスを発動アトラクトした際に、それを目にしている・耳にしている人々の脳波にを与えることを示しています。ヴェーラやレベッカはもちろんその事実を知っていますが、軍・政府関係者の一部を除いては未だ公開されていない情報です。

後に「歌姫の断末魔」が取り沙汰されたりするんですが、歌姫セイレーンたちがセイレネス・システムを使って戦闘をすると、人々の脳に作用して特殊な状態に陥らせます。後にまた出てきますが「麻薬」のような効果があるそうですよ――もちろん、強依存性の。

ライヴなんかでの「歌」にはそれほど大きな作用はないんですが(※なくはない)、戦闘モードだと実にやばい。で、人々が歌姫セイレーンによる「セイレネス」を用いた戦闘を求め、戦争継続をこころのどこかで求め続けるようになると。ヴェーラたちの初陣より2年目のこの時点ですでになりかけているんですが、これがマリオンたちが士官学校に入る頃には完全にそういうモードに。

そこで来るのが本作品のタイトル後半部分「歌姫による戦争継続のメソッド」なわけです。人々がじわじわと歌姫という麻薬に汚染されていって、気がつけば「歌姫なしではいられなくなる」。そして同時に「戦争なしではいられなくなる」ようになっているという。この状態は、ヴァラスキャルヴという超巨大な組織、ひいてはその総帥であるジョルジュ・ベルリオーズにとっては「目論見通り」なわけですね。戦争続いてくれたほうが嬉しいわけですから、ベルリオーズは。

ベルリオーズさんですが、彼の目的は「金儲け」とか「企業の成長」とかそんな俗なもんじゃぁ断じてねぇです。彼はそういったもの全てを超越しているので。望むのは力ある歌姫セイレーンによる衝突コリジョン。セイレネスの激突。そこで生み出される圧倒的な「歌」。……本編最後まで読まれた方なら「ああああ、そういうことかよ」ってなるんじゃないかな!? ヴェーラもレベッカも、そういうことだろうなってのは薄々感じている。だから、あそこであれがああなっているという(わかんねぇよ) 最後もね、そういうことだから、彼女はアレしなかったというアレがね、うん、アレだ。

で、そういう目的があるから、ベルリオーズはそこまで戦争がちゃんと続き、ちゃんと歌姫が生み出され、強力な歌姫が登場することを希望しているわけですね。そこに現れたのがマリオンとアルマだという。

で、これは「セイレネス・ロンド」から引っ張ってくる情報。「静心」も共通の世界なので定義は同じということで。

「歌姫」は「歌姫によって」作られるんですね、これが。2088年の戦艦デビュー戦。あの時に放出されたセイレネスの激烈な力が、多くの人に作用したわけです。ヤーグベルテのほぼ全国民に。セイレーンとして開花する条件に、「ヤーグベルテの血」「女性」というものがあります。「ヤーグベルテの血」というのは抽象的な感じがしますが、「ヤーグベルテ人」として定義されている人々の遺伝情報を受け継いだ人たちということになります。千年とか二千年前のヤーグベルテ系の人々の遺伝情報ということですが、ぶっちゃけそれだけ以前の遺伝情報をもとにするのですから、国際化の進んでいる現在を通り越した未来、西暦2090年ともあればヤーグベルテ因子は「世界中」に拡大しているわけです。だから、「全世界の多くの女性」と読み替えることもできるのです。女性――だいたい十歳くらいまで――で、セイレネス発動時の「歌」を聴いたことのある人ならば、誰もが歌姫セイレーンになりえるという話。男の立場がありませんが、戦争は歌姫だけで成り立っているわけじゃないのでセーフ(何が)

 剥ぎ捨てられる、偶像の仮面ペルソナ。浮かび上がる

でもってここにさりげなフレーズが。
「偶像の仮面」とか「本物の顔」とか。
この辺はイザベラ・ネーミア登壇のところを覚えていらっしゃる方なら「そういうこと!?」とわかっていただけるかと。

さて、次回は#02-01! マリオンたちが士官学校に入学するところまで時間が飛びます!
――待て、次号!

→次号

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