05-05-01:マリオンつらすぎ回

静心 :chapter 05 コメンタリー-静心
第五章ヘッダー

これは「#05-05: 血色の海」に対応したコメンタリーです。

ニュータイプめいた直感と確信でもって敵を検知したマリオンレベッカ。それはエディタの検知よりも早い――当然なんですが。エディタだって超人めいた直感力の持ち主ですからね。そしてエディタは明らかに過労状態なんですが、そんなものをおくびにも出しません。はんぱない意志力と体力です。

敵は二個艦隊+ナイアーラトテップが8。大戦力です。エディタはためらったようですが、レベッカは迷わず「殲滅戦」を選択します。

 レベッカはもうアーメリング提督の顔だった。容赦のない、鬼もく司令官だ。

初めての実戦を前にして、マリオンの緊張も高まります。レベッカが言います。

「本戦は多くの歌姫セイレーンにとって初陣にあたります。よって、本作戦のタクトは私が振ります」

この「タクト」という表現は「歌姫」たちならではの表現です。エディタに向かって「ユー・ハヴ・ザ・タクト」と言って指揮を執らせたりしていましたよね。

「マリー」
「は、はいっ」
「この戦いはあなたにとって、とても厳しいものになるでしょう」
「それは……」
「全てはあなたのため。おためごかしといわれようが、これから生まれる全ての犠牲は、あなたのためにある」

レベッカは怖い人ですよね。本人に自覚はないんですが、事実を客観的に論理的に相手に伝えようとするあまりに、その言葉から体温が消えちゃうタイプなんですよ。また「おためごかし」という表現が出てきますが、これ、「静心」だけでも3回以上出てきます。言ってる人はバラバラですが。レオンマリア、レベッカですね。他にも言ってたかな。この「おためごかし」っていう表現は、簡単に言うと「これはあなたのために必要なんだからやれ」みたいに「あなた」のことを思ってるようでありながら、その実は発話者の思い通りの行動をさせたり、そう認識させたりするような言動です。恩着せがましく押し付けがましい、くらいのニュアンスでいいかもしれませんね。

そしてマリオンは「コア連結室」と呼ばれる部屋に移動します。この真っ暗な部屋に椅子一つ、みたいなところが、歌姫セイレーンたちのコックピットです。緊張しきりのマリオンに、ジョークをかます余裕のあるダウェル艦長とか、歴戦の勇士ですね、まさに。ダウェル艦長の見込みでは二時間はボケッとしてられるだろうとのことだったんですが、実際には1時間でレベッカから「セイレネスを発動アトラクトしろ」と命令が下ります。

敵艦隊まで200キロ。航空戦力はともかく、艦隊の戦闘距離ではありません。

その距離で戦闘ができるのは、レベッカと、マリオン。

『マリー、今回の舞台ショー主人公ヒロインはあなたです』

と、言われて、マリオンはそれが「自分の射程範囲内だ」と知るわけですね。そして――。

 見える。見えている。航空母艦で艦載機の整備をしている兵士の顔さえ見えている。どこから見てるのかよくわからないけど、とにかく見えている。この人たちを、これから殺す……の?
 ゾッとした。震えが止まらなくなる。

ですよね、と。「この人たちを今から殺してくださいね」と言われているわけです。しかも「死にもの狂いでやる」のではなく、「圧倒的に一方的に殺す」事を求められている。鋭利な刃物を渡されて(或いはサブマシンガンでもいい)「今からすれ違う人は皆丸腰で決して抵抗はしませんが、皆殺しにしてください」と言われるようなものです。

動揺を隠せないマリオンに、レベッカが言います。

『マリー、私たちは剣となり、盾となる。その力を持っています。だから、おびすくむことしかできない声の大きな無力な存在たちを守らなければならないのです。そしてそれを完遂かんすいするための行為には、善も悪もないのです』

しかし、レベッカとてそれを是としているわけではない――ということを言ってますね。無理矢理理性で感情を抑え込んでる、レベッカの得意技です。しかしそう言われて「そうですね」とは言えるはずもなく。

 私は完全に怖気おじけづいていた。どうあれ、私はこの顔の見える人たちを殺すことになる。初めての殺人を、この手で行うのだと思うと、心が鋭く萎縮してしまう。

こうなるのも当然だと思うんですよね。何百何千の人生、未来を奪うわけですから。

『マリー。命令です。敵艦隊に気付かれる前に、航空母艦を二隻沈めなさい。二隻は私が対処します。今から三分以内にやれなければ、味方が死ぬ可能性が上がります』
「こ、航空母艦二隻を三分……!?」
『これが、よ』
「わ、私が、仕留めそこなったら」
『味方が何十人かは死ぬでしょう』

レベッカが「鬼も哭く」と言われる所以は、この物言いにもありますね。とことん事実しか伝えない。しかし、その言い方がマリオンに理性を取り戻させたと言えるかもしれない。

 助けてはもらえない――私は悟る。
 私の失敗は、すなわち、私以外の誰かの死だ。私の同期も死ぬかもしれない。レオンだって無事じゃすまないかもしれない。
 いやだ、そんなの……!

ここでレオンを思い出したことで、マリオンさんは「やらなきゃならない」という思いを持つわけです。実際の所、レオンは通常艦隊戦力にやられるようなことはまずないんですが、初陣ですからね。まだ味方の能力もよくわかってない。シミュレータはやっていても、セイレネスについては実戦とは相当乖離があるので。

『マリー。これは、艦隊司令官からの命令です。何の呵責かしゃくも要らない。あなたには命令に従う以外の一切の選択肢はありません。

この「やりなさい」はエヴァのミサトさんの「いきなさい、シンジくん」のような勢いで。レベッカ的な気遣いのあるセリフなんですよね、これ。「命令だ。私のための行動だ。そこにはあなたの罪はない」というような。そして、この時にはもうマリオンは戦闘モードになっています。「やらないと仲間が死ぬ」ということだけを見て、マリオンは動いているんですね。

で、セイレネスを使った戦闘が始まるのです。

圧倒的な殺戮劇ジェノサイドが。

しかし、マリオンはやっぱりもたついてしまって、航空母艦からの発艦を許してしまいます。それは味方の犠牲に繋がるものでした。動揺するマリオンに、レオンが声をかけ、マリオンさん少しステータス異常が回復します。

「レオン、私、私、どうしたら」
『マリーが狂ったって、私はマリーを愛し続ける。私たちはいつまでも一緒だ!』

どさくさにまぎれてすごいことを言っているレオン。このくらいの勢いが無いと、マリオンを正気に返らせるのは難しかったんでしょうね。そこにエディタさんが割り込みます。

『レオナ!』
 そこにエディタの鋭い声が飛ぶ。無駄な通信をするなと、怒られると思った。
『……は、ほどほどにな』

エディタは氷のような美女ですが、心は実は熱い人。後に「専恣せんし」を語ったりするんですが、外面はともかく内面はとても熱い人なのです。

それに対してレオンが、

『了解、のろけます』

と、おどけていますが、コレはレオンなりの気遣い。レオンはレオンにできることをやろうとしているわけです。

 そのおどけた言葉がレオンなりの気遣いだということはわかる。レオンにだって余裕なんてないはずだ。なのに――。
 そうだ、だから私は守らなきゃならないんだ。

そしてそれはちゃんとマリオンにも伝わってるわけです。マリオン感受性は強いですからね。伊達に次世代最強の歌姫じゃない。

「ありがとうございます、レスコ中佐」
『私は艦隊の士気を考えたまでだ。もう一隻、任せるぞ、マリオン』

エディタはこういうところがありますね。ツンデレっぽい。エディタはライトな返しができない性格なんです。自称コミュ障ですしね、この子。

そしてマリオンさん、超必殺技をセレクトします。セイレネス・システムが「提案」してきたという形をとっていますが、コレは実際の所マリオン自身から発されたコマンドです。状況に合わせて無意識領域で適宜選択を行っていたりします。それをシステムに吸収させてリターンすることでマリオンはそのコマンドが選択肢にあると気づくのです。

「セ、セイレネス、再起動リブート。モジュール・タワー・オブ・バベル、起動プリペレイション!」

セイレネスによる「最強の技」の一つ、タワー・オブ・バベル。セイレーンEM-AZ雷霆ケラウノスとかは艦自体の武装を使っている技なんですが、この「タワー・オブ・バベル」は純粋にセイレネスの力を練り上げた攻撃です。そこにはもちろん艦の武装によるエネルギーも注入されるんですが、それはあくまでサポート。雷霆ケラウノスは逆です。タワー・オブ・バベルのような技は恐ろしく疲労がたまるんですが、武装のリチャージ状態を問わず、集中力の続く限り連発できる恐ろしい代物です。雷霆ケラウノスとかは、多少集中力が乱れてても、武装の力でゴリ押しできるのでそれはそれで使いやすいという。

ちなみに終盤でイザベラもこの「タワー・オブ・バベル」を使います。

タワー・オブ・バベルは塔の形にあるうちにあらゆる攻撃のエネルギー(砲撃の運動エネルギーとか)を吸収し、強化され――。

崩壊せよブレイク・ダウン!」

します。

その攻撃力たるや圧倒的で、敵の空母も護衛の艦船もみんな消滅させてしまいます。

 私はこの数分で数千人の命を奪った。
 殺したのだ、この手で。

救われない、マリオン救われない!!!

でもこの思いは、一年前にレニーも味わってるんですよね。で、段々と「(殺戮に)慣れていく」のに気付いちゃったんですよね、レニーは。なんて残酷なんだ。ひどい話だなぁ。

その上、マリオン、システムから弾き出されちゃうんですよ。これは新米歌姫が「タワー・オブ・バベル」なんていう超大技を繰り出したことで安全装置が働いちゃった、くらいな感じです。「生命の危険があるから、しばらく休め」ということで弾き出されてる。レベッカが解除すれば再び乗れるんですが、それはされなかったと。

で、何もできない状況の中、マリオンが空母を仕留めるのが遅れたために飛び立ってしまった航空戦力によって味方に被害が出ていることだけが伝わってくるのです。拷問ですね。

 何隻かが亜音速魚雷の犠牲になったという通信が――そしてが聞こえてきた。私は何もできないままだ。

マリオンのことですから、もうここは「私のせいだ、私のせいだ、私のせいだ」くらい泣きながら呟いているくらいでしょうね。ひどい話だ!!!

「レオン、無事でいて……!」
 全員の無事を祈れるほど、私のキャパは大きくは、なかった。

愛する人をも守れないかもしれない――という不安は耐え難いものがあるでしょうねと。で、普通に考えたら、レベッカが守らないはずがないんですが、もうこの時点でマリオンは「レベッカの助け」をアテにしてないんですね。そうならざるを得ないと言うか。「味方の犠牲」を甘受するような発言すらしてるレベッカですし、「それらの犠牲はすべてマリオンのため」とも言ってますし。それに、これまでのレベッカの戦い方を見てきているというのもありますし。あまりにつらい状況に陥った時、人は途轍もない冷静さを得ると思っていて、いまマリオンはそういう状態かと。

という、マリオンがつらすぎる回でございました。

→次号

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