「空の女帝」カティ・メラルティンのためだけに作られた超攻撃型大型戦闘機、それがエキドナである。まさに主人公機と呼ぶに相応しいインパクトと威力を有した超新鋭戦闘機。そして実際にカティにしか扱うことのできないほどのピーキーなチューニングを施された戦闘機である。論理演算装置を備え、また、フォーミュラと呼ばれるエネルギー変換方程式の解析装置を搭載しており、そのジェネレータ出力は事実上無限である。つまり中の人(=カティ)さえ無事であればほとんど無限に戦い続けられるという、まさに悪魔のような戦闘機である。
カティはF108P→スキュラ→エキドナと乗り換えていくのだが、そのたびに「手のつけられなさレベル」が上がっていく。エキドナに至っては初めて搭乗したその瞬間に乗りこなしているほど、カティにフィットする戦闘機であるようだ。
具体的にはエキドナにはバレットリジェクトと呼ばれるバリアシステムが搭載されており、30mm程度の銃弾(この時代の戦闘機もおよそ20~30mmの機関砲を装備している)はほとんど無力化する。対ビームコーティングも施されており、この時代はまだ試作段階にすぎない粒子ビーム砲もほとんど弾き返す。……のだが、カティはそもそも被弾しないので無用の長物であるとも言える。攻撃面では機首に超高出力パルスレーザー砲(試作品ではある)を備えており、物理攻撃の機関砲弾が尽きたとしても、銃身の耐久性が持つ限りレーザーで戦闘を継続することができる。多弾頭ミサイルもF108Pを超える36セットを搭載しており、総弾頭数は360。カティは戦闘の頭でこの半数を一斉射(180発)し、それぞれを半手動で誘導して一気に敵戦力を半減させるような無茶苦茶な戦い方をする。そもそも超音速で飛ぶ弾頭の二百近くを一つ一つコントロールすること自体が神業であるのに、カティの場合はそれを「当てる」のだから始末に負えない。カティはそれらを効率よくコントロールするためのプログラムを自作し、戦闘時にはそれらを適宜組みかえているのである。天才の所業である。
航空電子機器のレベルという面でも、F108Pおよびスキュラで培った技術を更にバージョンアップさせている。大型戦闘機とは思えないほどの機動性であり、近接格闘戦に於いても異常だとか異様だとか言われるほどの強さを見せつける。もちろん操縦性の高さもあるが、そもそものカティのセンスが異常なのである。アーシュオンにしてみれば、「女帝とエキドナ」の組み合わせは悪夢以外の何物でもない。
実はこのエキドナ、ジョルジュ・ベルリオーズには「万象の母」と呼ばれている。カティという超素質者、言ってしまえば最強のD級歌姫と、セイレネス搭載機・エキドナによって、世界を作り変えるという目論見がベルリオーズにはあった。とは言っても、カティ&エキドナを使ったセイレネス・システム同士の衝突は「奥の手」とも言うべきものだった。その前段、正規ルートでの衝突というのが、この「静心にて、花の散るらむ」あるいは「セイレネス・ロンド第三部」で描かれる戦いである。
セイレネスの衝突によって放たれる歌によって、社会の構造を変革する――それがジョルジュ・ベルリオーズと、彼の生み出した超AI・ジークフリート、そして悪魔や天使と呼ばれる者たちの思惑である。
……という背景はあるものの、つまりエキドナは最強の機体であり、カティという人類史上最強の戦闘機乗りが搭乗したことでそれが更に上乗せされた。そしてカティはD級歌姫であるし、エキドナは「セイレーンEM-AZ」や「アキレウス」同様に超高性能セイレネス・システム搭載機であるから、カティとエキドナの組み合わせで倒せない敵はいないということになる。「静心」に於いて、エウロス飛行隊が超兵器・ナイアーラトテップ(←通常兵器では効果があげられない敵)を撃沈しているという記述がある。この時はまだエキドナは建造中であるから、F108Pかスキュラに乗っていたと思われる。つまり、カティにはもともと、エキドナを使うまでもなく超兵器を撃破せしめる力があったということである。
ちなみにそのことに一番最初に気付いたのは(マリアを除けば)ブルクハルト技術士官である。スキュラに(設計仕様書外の)カティの歌姫としての力を検知する装置を組み込み、そこで力を確信。しれっとした顔でそれらを踏まえたエキドナ建造計画を提出した。建設したのはいつものホメロス社であるが、その初期段階から完成まで、ブルクハルトは常時関与していたようである。ブルクハルトはつくづく偉大な男――あるいはマッドサイエンティストである。