小説

歌姫は背明の海に

17-3-2:わたしはここに宣言する

 それからしばらく、ただ沈黙の時間が過ぎた。イザベラが最後に言葉を発してから、三十分近くが経過した頃になってようやく、イザベラが腕組みを解いた。 「ところでさ、新人|D級《ディーヴァ》の二人は元気にやってるのかな?」「え、ええ。そう...
歌姫は背明の海に

17-3-1:顔のない女神は、怒りを歌う

 レベッカ邸にて、イザベラは事の顛末を話して聞かせていた。今日はマリアは不在で、久しぶりの二人きりの時間だった。レベッカはイザベラの|斜《はす》向かいのソファに浅く腰掛け、眉間に皺を寄せている。 「それが本当にそうだったとすると、ア...
歌姫は背明の海に

17-2-5:バロックノート

 だがしかし、その|PPC《粒子ビーム砲》での一撃は、例の不審な駆逐艦たちによって張り巡らされたフィールドによって減衰させられる。先頭に打ち立てられた十隻の駆逐艦は無傷、せいぜいが小破だった。イザベラの力が乗っていれば、或いは殲滅も可能だ...
歌姫は背明の海に

17-2-4:エコード・コーラス

 《《コーラス》》……だって……!?  その不意打ちには、イザベラの力をもってしても対処できなかった。第一艦隊の約半数がその効果範囲内に入っていた。エディタやレネを中心にした、幾重にも重なるコーラスだった。  影響下にあった|...
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17-2-3:圧倒、からの――。

 アーシュオンの艦隊が、獰猛な牙を剥いた。死をも恐れぬ勢いで怒涛のように迫ってくる。普通に考えれば勝ち目のない戦闘。しかし、アーシュオンは攻撃一辺倒だ。 「背水の陣、というわけでもない」  イザベラはセイレネスを通じて敵艦隊の...
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17-2-2:イザベラの目

 マリア……?  コア連結室の中にいるイザベラは、マリアの不審な行動を追っていた。エレベータで別れた時にもどこか思い詰めたような表情をしていたし、確かに上の空でもあったからだ。  そしてその予感はすぐに確信へと変わった。マリア...
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17-2-1:ひずむ音

 二〇九八年五月――。  ヤーグベルテ三隻目の戦艦となるヒュペルノルが進水した。ヒュペルノルは唯一の|S《ソリスト》級歌姫、レネ・グリーグの専用戦闘艦である。  このハードウェアの追加により、イザベラ・ネーミア率いる第一艦隊は...
歌姫は背明の海に

17-1-1:ブラインドネス

 年が明け、カレンダーが二〇九八年に切り替わった頃――。  アーマイア・ローゼンストックは、バルムンクの作り出した闇の中に|在《あ》った。じっと佇んでいるアーマイアの視線の先にいるのは、ジョルジュ・ベルリオーズだった。ベルリオーズは...
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16-2-2:an end

 そこは頭が痛くなるほどに、真っ白な空間だった。イスランシオは目眩を覚えて額に手をやった。何度訪れても慣れることのできなかったその空間で、イスランシオは《《それ》》を待っていた。  あらあら――。  《《銀》》の炎のようなもの...
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16-2-1:世界を終わらせる手段

 カティの真紅の機体――スキュラが、薄緑色に輝く|F108+IS《インターセプタ》と正対する。双方の多弾頭ミサイルが彼我の中央で|相殺《そうさい》される。二機は生じた爆炎を貫き、なおも追いすがってくる小型ミサイルから逃げる。双方ともにミサ...
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