小説

歌姫は背明の海に

11-1-2:コンダクター・イザベラ

 二〇九六年三月――イザベラ・ネーミアが歴史の表舞台に現れてから一ヶ月が経とうかという頃。  ヤーグベルテ第一艦隊グリームニル、および、第二艦隊グルヴェイグが、アーシュオンの三個艦隊と激突した。第一艦隊旗艦・戦艦セイレーン|EM-A...
歌姫は背明の海に

11-1-1:わたしのために

 二〇九六年一月――年始は、《《ヴェーラ死去》》のニュースで埋め尽くされた。そのニュースはヤーグベルテ国内にとどまらず、同盟国のエル・マークヴェリアはもちろん、敵国であるアーシュオンでも大きく取り上げられた。ヤーグベルテの多くの人々はその...
歌姫は背明の海に

10-1-5:カティとの乾杯

 レベッカとレネの食事の日から二日後、二〇九五年の大晦日、夕刻――。  レベッカの邸宅にカティがやってきた。 「おかえりなさい、カティ」「ただいま」  自然に交わされる言葉に、カティは目を細める。出迎えたレベッカは、カテ...
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10-1-4:新たな提督

 レベッカはそれからしばらく口を|噤《つぐ》み、じっとレネを見つめた。レネは唾を飲み込んでその視線を受け止め、テーブルの下で落ち着かなく指先を動かした。 「あの、提督?」  レネがいよいよ|焦《じ》れてきた頃になって、レベッカ...
歌姫は背明の海に

10-1-3:レネとレベッカ

 レベッカは|携帯端末《モバイル》を|弄《もてあそ》ぶ。マリアは電話をしながら|何処《いずこ》かへと去っていく。レベッカとヴェーラの会話の内容を把握したマリアは、何の疑問を差し挟むこともなく、後の処理はすべて任せろとレベッカに伝えていた。...
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10-1-2:死の提案

 一人でICUに入ったレベッカは、ベッドに横たわるその人を見て、言葉を失った。これまでずっと顔は包帯で覆われていたが、今はそれは取り払われていた。白一色の頭部が、赤黒い肉の塊になっていた。その中ほどに空色の瞳が見えたが、それも以前のものと...
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10-1-1:年の瀬、その報せは。

 二〇九五年も間もなく終わろうかという頃、レベッカはまだ慣れてもいない新居の窓から、雪がしんしんと降る様子を眺めている。通りも庭もすっかり雪に覆われていた。雪は窓や街灯の明かりを受け、青白く世界を照らしている。通りに人の姿は見えず、行き交...
歌姫は背明の海に

09-2-3:その手を汚した感想は

 その日の夜、午後八時を過ぎた頃――。  エディタは艦隊旗艦エリニュスへと召喚されていた。|艦橋《ブリッジ》の直下に作られたレベッカの執務室には、レベッカの他にマリアもいた。昼間とは打って変わって、海は大荒れだった。エリニュスほどの...
歌姫は背明の海に

09-2-2:徹底粉砕

 セイレネスによって威力を|増幅《アンプリファイア》された砲撃が、数百キロ彼方のアーシュオン艦隊に大打撃を与えた。レベッカからの一撃だった。その射程は他の|歌姫《セイレーン》たちの誰よりも長く、その使用モジュールの威力も比肩する者はいない...
歌姫は背明の海に

09-2-1:血を流す意味

 エディタたちが軍に正式配備されてから約三ヶ月後、二〇九五年十二月――。  重巡洋艦アルデバランの|艦橋《ブリッジ》にて、エディタはメインスクリーンを睨んでいる。そこには現在の哨戒担当員であるとリーネが送ってきた海域検索情報が表示さ...
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