#01-03-01:ディーヴァのライヴ!

静心 :chapter 01 コメンタリー-静心
第一章ヘッダー

これは「01-03:私たちは、再会の約束をしたんだ 」に対応したコメンタリーです。

謎の大佐さんの導きにより、なんとヴェーラとレベッカ、二人の至高の歌姫ディーヴァの真正面。最前列中央センターに陣取ることに成功したマリオンとアルマ。このライヴ、もちろんオンラインでも配信はされているのですが、やっぱり生歌、生歌姫を目にしたいという思いは誰もが持っていて……つまり、最前列中央はまったくもって特別なのです。スペシャル!

もちろん、マリオンもアルマも、生ライヴは初めて。そりゃまぁ、普通に興奮しますよね。

感動もある。衝撃もある。周囲の観客の喧騒なんて、すぐに聞こえなくなった。私はヴェーラとレベッカの歌に、完全に取り込まれていた。左手にアルマの体温を感じる他には、なにひとつ――足の裏が地面にちゃんとくっついているのかどうかすら――確かめられずにいた。

ここのところなんですが、もー考えに考えた描写だったりしますよ。地の文はとても大事。
この「#01-03」は、「いかにライヴの臨場感を文字だけで表現するか」をテーマに書いたところです。そして実は、全編通して最も書き直ししたパートなんですね。ライヴ感が全然出なくて。さて、この最終稿ではどうでしょうか!(ゴゴゴゴゴ

ライヴはまだ続くんですが、マリオンは言います。

刺さると。わかります? すげぇいい歌を聴いた時とか、映画を見た時のこの「えぐられるような」感覚。マリオンはそういうことを言っていますな。アルマも同様です。二人とも、歌に対する感受性は非常に豊かで、すごく鋭いんですね。(この時点では未発現ではあるにしても、超強力な)歌姫セイレーンだから。

血が流れそうなほど、二人のが突き刺さるのだ。曲間の今でも、傷口は開いていく。
それは、嘆き? それとも、苦しみ?

こんなことまでわかってしまうのですね、マリオンは。
そして実際に、この時のヴェーラとレベッカは「怒り」の力で微笑んで歌っているのです。

叙事詩イリアス(Ἰλιας)の冒頭に「女神よ、怒りを歌い給え(μῆνιν ἄειδε, θεά/メーニン・アエイデ・テアー)」というのがありますが、これもまた本世界「セイレネス・ロンド」のテーマなんですね。この「怒り」が後にヴェーラとアレさせて、イザベラをアレさせるということになります。

 その瞬間、ステージがギラギラと無遠慮に輝いた。輝く雲の中から、ヴェーラとレベッカが悠然と現れる。白金プラチナの長い髪を揺らめかせるヴェーラ。灰色の髪をなびかせ、眼鏡の位置を直すレベッカ。レンズがキラリと輝き、一瞬だけレベッカの表情を消した。

ヴェーラとレベッカの「立ち絵」がバシッと浮かぶような描写……になっていればいいな! レベッカはしばしばメガネをキラッ★とさせます。そもそもヴェーラとレベッカは双子のような立ち位置で、常にニコイチで動いているわけです。で、どっちも超絶美少女→美女になっていくので、差別化が難しかったんですよね。で、ヴェーラはガチ「美」で攻めてもらうとして、レベッカにはメガネっ娘キャラとして頑張ってもらおうというアレデスね。まぁ、よくある感じ。

ちなみにレベッカのメガネは何の変哲もないメガネです。この時代のメガネは多機能・高機能のガジェットが満載されているのが普通なのですが、レベッカのはいわば「おしゃれメガネ」の域を抜けない。もちろんフレームはお高いものですが、レンズは度が入っているかどうかも怪しい。レベッカの目が悪いっていう描写は「静心」はもちろん「セイレネス・ロンド」にも出てこないので。

 誰もが言う。どちらも最高の娯楽提供者エンターティナーにして、どちらも戦争の切り札ジョーカー――勝利の女神だって。
 ヤーグベルテは六年前とは違うんだ、もはや。今はこの二人が戦場にいる。だから二度と、あの八都市空襲のような悲劇は起きない。私たちはみんな、そう信じている。

このへんでまた「女神」という表現が出てきますが、もちろん前述の「イリアス」の「女神よ~」を意識したセンテンスです。そして無条件に二人が戦場にある限り負けない、悲劇は起きない、そう信じてると。これはマリオンだけじゃなくて、ヤーグベルテの全国民(10億人)がそう信じているのです。無条件に。で、ただ漠然とそう信じているんですね。ヴェーラとレベッカは、その事実に対しても怒っている――というか失望しているのです。自分以外の誰かが無条件に自分を守ってくれるのだ――という甘えた思考というか世情に対して。

すでに「静心にて、花の散るらむ」を読了された方ならわかると思いますが、ヴェーラ、そしてイザベラは、徹頭徹尾「怒り」によって突き動かされます。「静心」はバージョン4.0くらいなのですが、1.0のときからメインとなるエモーションは「怒り」でした。その怒りばかりで書くとなるとただの温度の高いだけの作品になるので、そのへんをうまく調整しなきゃなーってことで、当て込まれたのが「ぼわーっとしてる性格」のマリオン。ヘタに共感したり盛り上がっちゃったりする性格だと、イザベラ様大正義になって終わってしまう。それはちょっと違うよねっという。

そしてライヴは続く!

 前奏が終わる。アウフタクトから、歌が始まる。変幻自在な衣装。一瞬一瞬で移り変わっていくステージエフェクト。見たことのない映像。音――音――音! ステージからただよい降りてきた冷たい雲が、私たちの体温を少しだけ盗んでいく。二人の歌姫がステージを駆け巡る。規則正しい硬質な足音が、伴奏に華を添える。

ここで出てくる「アウフタクト」って、多分音楽やってた人じゃないとわからない言葉だと思いますが、すげぇ簡単に言うと、小節が始まる前に1音入り込むというようなアレ(ちゃんと解説しろよと言われそうですが、そういう人は実際にYoutubeあたりででも探したほうが良いのです。文字で説明するのはとっても難しい)です。あ、ちなみに作者(私)は元々ギタリストでもあります。もう弾けない(笑)

漂い降りてきた冷たい雲が、私たちの体温を少しだけ盗んでいく――というフレーズはドライアイスのエフェクトを意識しています。とはいえ、2090年ですから、大真面目に考えると「ドライアイス」なんて使ってないと思うんですよ。でもここはあえて、ドライアイスな感じで。後ほどまた出てきます。
そして「足音」の描写。わかるかなー、わかるかなー。つたわるかなー。爆音で音楽が奏でられている中、足音がカンカンカンと響くような。そんな描写ができてればなーと思うところ。ちょっとアニメ的な演出ではありますけどね。

 アルマが手を握りなおしてくれた。良かった。一瞬遅かったら倒れていたかもしれない。アルマのおかげで踏みとどまれた。でも、私の中でノイズが重なり合って、重なり合って、重なり合って、次第に心が真っ黒くなっていく。黒よりももっとずっと暗い色に落ちていく。

気絶しそうになってるマリオンさん。そんなマリオンを支えるアルマ。そんな関係は士官学校で再会してからも続くわけです。
ここで出てくる「黒よりももっとずっと暗い色に落ちていく」ですが、コレ知ってるかな~「Darker than black」ってアニメ。「黒より暗く」っていう意味のタイトルですが、そのフレーズをパk……参考にしました。

なんだろう、この――冷たさは。この会場はものすごい熱気なのに。なのに、なんで私の心はこんなに冷たいのだろう。ドライアイスの雲なんか比較にならないくらいに、私の内側はこごえている。

マリオンさんの圧倒的感受性……が見えていたら良いよね! という願望とともに書いたところ。ここで「ドライアイス」が反復的に利用されていますね。最初は「体温を奪っていく」という描写だけだったところに、ここで「ドライアイス」という使い方。

さて、次はいよいよ、ヴェーラ&レベッカとのファーストコンタクト!
――待て、次号!

→次号

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