#02-03-02:自然な流れで同伴しちゃう

静心 :chapter 02 コメンタリー-静心
第二章ヘッダー

これは「02-03: 初雪の溶けゆく空に、暗澹たる気持ちを雪ぐ」に対応したコメンタリーです。

レオンとのお風呂トークが続きます。

蜘蛛の糸の話をしていますが、コレは現代のSNS社会を風刺したものです。って作者が言っちゃうのはどうかと思うけどいいよね、コメンタリーだし。目立ったら引きずり落とされておしまい。再び這い上がるためには大変な苦労を強いられる。どうしようもない亡者たちがうじゃうじゃしている。そんなことをコンパクトに書いてみました。レオンは上流階級のお嬢様ですから、そういうどろどろっとしたものを生々しく見聞きしてきたのでしょうね。

そしてレオンもマリオン歌姫セイレーン。つまり国家で最も「めだつ」存在というものになってしまった。必然、「足を引っ張られる側」に回ったということがはっきりしてしまったということです。後にマリオンさんはいろんな方面から責めたてられますが、このあたりが伏線になっていたということですね。

「ましてマリーとアルマはS級歌姫ソリスト。レニーに続く第二、第三の矢ってことになる」
「でも、エディタとか、一期生の先輩たちがいるじゃない」
「それはそうだけど、S級ソリストV級ヴォーカリストの間の実力差は天地だっていうよ。私とマリーの差を見てもわかるだろ?」

ここで各歌姫階級の実力差がそれとなく。
C級クワイアが1としたら、V級は100~1000、S級で10000~ということになり、最高ランクのD級に至っては数値にするのもバカバカしくなるほどの実力差があるというわけです。各階級で大きなブランクがありますが、これはひとえに3000とか5000とかいうレベルの歌姫が存在してないためです。レオンと1期生・92年四天王のエディタがだいたい1000(最強のV級)と言えます。マリオンやアルマは未知数ですが、まぁ、50万から100万くらいあります。S級? なんの話かな。
もっとも、C級ですら通常艦船は圧倒しますから、「V級一人+C級十人」程度の分艦隊でも、一個艦隊|(+航空戦力)と互角に戦えたりします。

というかですね、D級というのはランダム要素で出てくるものではないんですね。V級やS級は一定条件が揃った上で「歌姫の歌」に触れることで発現するんですが、D級は「在るべくして在る」存在なので、頑張ったところでなれるものではないし、偶然の発現を待ったところで意味がないと。全てジョルジュ・ベルリオーズおよび超AI・ジークフリートのたなごころの上の話です。

そんな深刻な話をしているさなかでも、レオンはマリオンを口説くチャンスを逃さない。

「レオンだってすごいじゃない」
「レオナだ」
「どっちでも良いでしょ」
「良くないから、キスさせてよ」
「だめ」
 新しいを持ち出されて少し動揺したのは内緒だ。
「マリーにキスしたい!」
「だぁめっ!」

マリオンは、「レオン=超イケメン」と認識していますから、そりゃ動揺もしますよね、と。ましてふたりともお風呂ですから、全裸です。そしてレオンによってマリオンは密着させられている。レオンがマリオンに好意を持っているのはマリオンも知っていて、マリオン的には別にLGBTQに関してどうという主義主張も持っていない。というわけですから、マリオン的には「自分を間違いなく好きな人が真っ直ぐに自分を口説いている」ように見えているわけです。

でも、マリオンさんも身持ちが固い(というかそういうのに免疫がない)ので、キスは拒否します。ましてお風呂場には他の学生もいるわけでして。なかなかハードルが高いわけです。

「キスしようよ、ねぇ」
「だーめ!」
「私のことが嫌いなのかい?」
「嫌いじゃない、けど。……って! それとこれは別!」
 むしろすごい好きかもしれない。だけど、それとこれとは本当に違う話だ。
「ちぇ」
 やっと諦めたらしいレオンに、一安心。あ、でもちょっとなんか寂しい?

レオンさん、押すときはグイグイ押しますが、引き際も見誤りません。コミュニケーションの達人か。
そしてマリオンのガードはもう既にグラッグラであります。マリオンはとにかく人たらしなので、モテるんです。女子・女性に。無自覚なのがタチが悪い。

そして未だ心臓バクバク言ってるマリオンさんを尻目に、レオンはヴェーラについて言及したりしますね。

「ヴェーラ・グリエールは、どこまでいってもヴェーラ・グリエールだよ。だから、誰がなんと言おうと、私たちは私たちのヴェーラを信じる。だろ?」

この台詞は後にヴェーラがイザベラ・ネーミアとして復活を果たすことを仄めかしているわけです。
もっともレオンはそんなことになるなんて知っているはずもないんですが。
※この時点でそのヴェーラの計画を知っていたのは、レベッカマリアエディタたち先輩V級ヴォーカリストレニーだけです。

そしてヴェーラとレベッカの関係性についてなど、二人は意見を交換しています。
二人が非常に仲が良いというのは周知の事実ではあったものの、どんなふうにどの程度どういう意味で仲が良かったのかは、当事者と一部の関係者以外誰も知らなかったわけです。それは歌姫候補生たる彼女らにしてももちろん同様。結局、軍やマスコミの発表が情報ソースの全てなんですね。だから後にイザベラやレベッカと対面した時に、マリオンたちは持っていたイメージとのギャップに大変驚いたりします。彼女らにしてもそうなのですから、一般人が「知らない」ことを責めるわけにはいかないんだよね……という意味も含まれています。

そして二人は手を取り合ってお風呂場から出ていくわけですが、この時点でかなり百合百合しくなっています。

「今更でしょ、レオン」
「レオナだってば。というわけで、これから遊びに行っていい?」
「どういうわけ? って、え? 部屋に?」
「それ以外どこが?」
「私を襲ったりしない?」
「いいねぇ!」
「何が!」

ショートコントみたいになっていますが、コレはマリオンのペースにレオンがバッチリ合わせているから成立しているやりとりです。基本コミュ障のマリオンの扱いを心得ていますね、レオンさん。

 私はレオンの背中をペチンと叩く。すべすべの白い肌だ。同い年なのに、レオンの方がずっとお姉さんな感じがするのは何故だろう。終始リードされっぱなしだからかな。

マリオンさん、段々と自分のポジションがわかってきていますね。ちなみにマリオンさんも相当な美少女なのですが、本人無自覚。みんなに「かわいい」と言われるほど「私はかわいくないから、みんなで私を励まそうとしているんだ」と思っちゃうような思考回路のマリオンさんなので、自己肯定感が超低いんです。施設でも目立たないように振る舞っていたし、誰からも褒められた経験もないしなので、致し方ない。まして家族も故郷もISMTによってぶっとばされてますからね。本土空襲もままあるこのご時世なので珍しい話でもないのですが、それでもやっぱりトラウマにもなるでしょうし。施設の暮らしもマリオンには苦痛でしかなかったと。

向かう先は私の部屋だ。そして私はなぜかレオンと腕を組んでいる。どこでどうして組んだのかよく覚えてないけど、とにかく私の右腕はレオンの左腕に絡められている。

結局お部屋に押しかけられることになるマリオンさん。押しに弱い子なんです、マリー。そして多分レオンがごくごく自然な動作で腕を組ませたんでしょうね。マリオンさんふわっとしてるから、こういうのに簡単にひっかかる。チョロイ……! ていうかレオンさんの女の子の扱い方がうますぎるというのがアレですね。モテモテ女子高生みたいなものなので(15~6歳だから)、きっと中学校(この世界で現代の「中学校」をなんと呼ぶかは決めてないんだな、実は)時代にも激しくモテてたんでしょう。実際、今の士官学校でもレオンさんにときめいている同級生や先輩は大勢いるんですね、これが。V級ヴォーカリストっていうのもものすごく目立つ要因ですし。

そして二人は連れ立って愛の巣……には「まだ」なってないですが、マリオンのお部屋に向かうのでありました。

次回……まだ部屋に着きません(‘д’)
――待て、次号!

→次号

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