04-05-01:のろいのことば

静心 :chapter 04 コメンタリー-静心
第四章ヘッダー

これは「#04-05: レイニー・セメタリー」に対応したコメンタリーです。

そして一同、お墓に到着します。この辺時間の流れがゆっくりですね。そしてマリオンさんてばマリアと手を繋いでいたりします。マリアとしては珍しく、大した意図のない行動のようにも見えますが、どうなんでしょうかね。うん。レオンさんがびみょーに嫉妬してたりしますが、さすがに「やめれ」とは言えなかった様子。

コロコロ芝刈り君に癒やされつつ、しかししっかり雨に濡れているマリオンさん。制服の撥水性なんかも語られていますが、これが「見習い」と「正規」の差ですね。「頑丈」ではあるんですけどね、制服。しかし、野戦を想定されているわけではないので、撥水性とかはほとんどないわけです。スプレーくらいはしてるかもしれませんが。

軍の墓地、真新しい墓碑。それが意味するのは、最近の海戦や島嶼とうしょ防衛戦で亡くなった軍人がいるということだ――。

という感じに、マリオンさんは改めて現実を見せられるわけです。艦隊ばかり取り沙汰されるけども、陸軍や海兵隊だってたくさん死んでるという。空軍ももちろんエウロス飛行隊みたいな化け物ばかりじゃない。当然KIA(戦死)も多発します。

で、たどり着いたのが、「逃がし屋」エディット・ルフェーブルのお墓。エディットに関してはキャラ紹介見てもらったほうがいいので、そっちをぜひ。現時点で全キャラ中、最長文字数で紹介しているので(笑)

そしてエディットがヴェーラたちの保護者であったことも確認されます。そしてその思い出の家をヴェーラは自分自身と共に焼いたのだということも。

 私たち三人の声が揃った。周波数の違う音が絶妙に混じり、雨の音に消えた。

全然関係ないですけど、この表現↑がお気に入りです(゜¬゜)

そしてその話をしている中で、マリアもまた涙するわけです。マリアにとって、ヴェーラとレベッカが拠り所のようなもので、しかし、彼女の立場は二人を利用しなければならないものであって。その二人のマリアの間のせめぎ合いがマリアを傷つけていくわけです。ほんと救いがねぇな、この物語。

そして「システムが正しい」という前話の話題になっていくわけです。

「ヴェーラは……ルフェーブル少将の暗殺から変わってしまった。いえ、違うわね。気付いてしまったのよ。ヴェーラはこの世界のに気付いてしまった。ルフェーブル少将が必死に押し留めていたものが、彼女の暗殺と同時に一息にヴェーラたちに流れ込んでしまった。それによってヴェーラは心に回復不可能なダメージを負った。
 ……いえ、これも、違うわね。社会が、国が、人々が、ヴェーラを追い込んだのよ。大切な初恋の人を失い、大切なルフェーブル少将を失い――。でも、その全ては、社会というシステムの生み出しただった」

エディットがヴェーラの中でどれほど偉大で大切なものだったのかが、ここで語られます。エディット、本編では一度もセリフが出てこないんですが、それにも関わらずこの重要ポジですよ。「セイレネス・ロンド」の方、つまりヴェーラ編でも、最も人間味のある、そして同時にスーパーウーマンなんですよね、エディットは。

そして、そのマリアの諦観したような言葉を受けて、マリオンさんが意を決します。

「そんな残酷なことを、そうやって受けれてしまっていいんですか」
カティ・メラルティンが幼少期に遭った虐殺事件にしても、その全てが政府や、あるいはもっと上の何かによる喧伝工作プロパガンダの一環なのだとしたら?」
「アイギス村の虐殺事件ですよね、それ。そんな二十年も昔の段階で、今のメラルティン大佐が想定できたはずもないでしょう?」
「どうかしら?」

マリオンの「そんなはずはない」という言葉に、マリアは「どうかしら?」と応じます。それが答えなんですね。このアイギス村の事件の時はマリアはまだこの世界に現れていないんですが、マリアにとってそんなことは些細な問題なのです。

ちなみにこの「アイギス」、AEGISと書きます。つまり「イージス」なんですね、これが。FFではおなじみ「イージスの盾」のイージス。カティが「守って守って守り抜こうとする」というのも、この「アイギス(イージス)」に設定上関係していたりもします。

「あなたとアルマに偶然めいた出会いがあったのも、士官学校で再会したことも、マリーとレオナが恋仲になることも、ここにこうして四人で立っているのも、全て社会というシステムがと判断したことの結果。しかし、それを人はと呼ぶわ」

すべてが「運命」なんだと言い切るマリア。しかしそれはマリアにとっては「なんだかよくわからない何かが決めた人々の道筋・道程」ではなく「あいつが定めた決定事項」なんです。あいつってのはあいつです、ジョルジュ・ベルリオーズとかそれにまつわるものです。

「そうよ。現今のAIは圧倒的に人間よりも。全ての社会システムはそれを前提に動く。AIがAIを創り、さらに自ら成長させていくことができる以上、人間はそれに従うのが最も合理的だと思っている。社会システムを目に見えないところから操っているAIの判断は常に――ゆえにと誰もが信じて疑わない。だから多くの人々は、自ら思考する事をやめた。ありとあらゆる行為の結果をと呼び、自らの行為おこないに対する免罪符インダルジェンスとしたの。だから、私たちの全ての巡り合わせは、何一つ偶然なんかじゃないの。この世界の全ての構造アーキテクトは、ね」

さらっとシンギュラリティが到来してしまっていることを告げていますが、この世界の人にはそんなことは当たり前なので誰も驚きません。

社会システムに依存して、自分の思考を放棄する――というのは別にこの世界の人だけに言えることではなくて、現今の我々、或いはその前の世代、或いはもっと前の世代の時代からずっとそうだったと思うんですよね。「こうなんだからしょうがない」「自分が何言ったって世の中変わらない」「だからこの世の中の動きに従わないやつはおかしい」位まで行っちゃうかもしれない。

でも、それもこれも「社会システム」の「是」とする所に拠って立つ(と信じている)人たちのモノサシですよね。つまり多数派マジョリティなわけです。で、多数派は世の中の原理的に正義ですから、彼らは「確信的」にそれを標榜すると。で、それゆえに「少数派(の意見)を誹謗中傷する権利」を持っていると信じて疑わない。それをして「免罪符インダルジェンス」とマリアは言うわけですね。

「セイレネスはね、同調するの。のように、波が合えば高まるものなの。だから、私たちはあなたたちのような歌姫セイレーンを集めているの。一定数の歌姫セイレーンが集まることで、セイレネス活性がより高まることは、ヴェーラとレベッカが証明してくれた。だから、マリーとアルマ、そしてレニーには同じ部屋にいてもらってるの。レオナも考えなくはなかったけど、さすがにあの部屋に四人は厳しいわ」

ここ(↑)で「セイレネス」の特性が明らかになりますね。

そして登場するハーディ中佐

その表情が友好的とは言い難いものに変わった。あからさまな敵意、嫌悪感、憎悪、そういった負の感情をぐちゃぐちゃにまぜこんだような表情になっていた。

マリアの持つ複雑な思いが全部叩きつけられてる感じですね。雷鳴も鳴り響いてますし、とてもやばい空気です。思わずマリアの後ろに避難するマリオンさん。マリアも殺気十分ですが、ハーディもまた「殺す気満々」ですから、その迸る殺意は雷鳴以上にビリビリするものだったのでしょう。

この時点でハーディはマリアを始末する気でいます、本気で。ハーディはこの世界のカラクリに気付いてしまっているんですね。なんとなくでも。で、歌姫たちを守るには、マリアを始末するしかないと、そういう結論に至ったという。

「あなたは、マリア・カワセ大佐」

このハーディの問いが、まぁ、そう、全てですね。お前はどこから来て何を目的にしてここにいる、という。ハーディの能力で調べても「何もわからなかった」というのがもうすでに「怪しさ大爆発」状態ですからね。人間、なにかすれば必ず痕跡が残る。にもかかわらず、マリアに関しては「マリアに都合の良い情報」しか残ってないんです。が、マリアはハーディが調べると「わかっていた」ので、敢えてそういう「都合の良い情報」も消し去っていた――可能性がありますね。ハーディを誘き出し、歌姫主幹の権力を自分に「合法的に」集中させるための計略です。ハーディは聡明な人なので「罠」であることは察していたと思います。だからこそ、「射殺」を目的として現れたと。

しかし、マリアの方がやはり何枚も上手でした。「撃ちたいなら撃て」と言い放ち「そんな事をしたって私の代役はいくらでも訪れる」と。魔王的なセリフですね、マリア様。しかし、そんなマリアにも更に上の存在がいることが示唆されています。「最上位のレイヤー」という表現が出てきますね。また「T計画」こと「テラブレイク計画」についても言及されていますね。

で、「歌姫計画セイレネス・シーケンス」が、この場の(マリア以外の)誰もが考える以上にヤバイ、世界規模の計画であることも明かされます。

ハーディはこの時点で敗北を悟り、銃を収めます。「殺しても意味がない」事を(薄々勘付いていたとはいえ)知ってしまったんですね。この潔さもまたハーディらしい。ハーディは自分の目的を通すよりは、たとえマリアに実権を握られたとしても影から歌姫セイレーンたちを助けていこうと決意していたりするんですね。

ヴェーラにをさせてしまったことに関しては、ハーディも痛いほど責任を感じているんです。それは「セイレネス・ロンド」の第二部を見てもらえればわかるところだったりします。ハーディ、見た感じはとってもクールな人なんですけど、エディットやヴェーラとのやり取り(「セイレネス・ロンド」のほうね)を見るにとても徳の高い性格なんですよ、これが。あのエディットが誰より頼りにしていたという点でも、その人間力の高さは折り紙付きなわけですけど。

ハーディは捨て台詞のように言い放ちます。

「我々が必死に戦っているのを、歌姫セイレーンたちが命を賭けて戦っているのを、実験と称して眺めている者がいる。そういう理解でよろしいですね、大佐」
肯定アファーマティヴ、と言っておきましょう」
「大佐、あなたも、その一人だと」
「……そう考えて頂いても良いでしょう」

超常の何かがいることが改めて示唆されます。ここでさっくり肯定するあたりに、マリアの不気味さがあります。ハーディも「これ以上は無駄」という事実を知り、立ち去ります。

不安だけを募らされたマリオン。思わず問いかけます。

「実験って、世界規模の実験って……」
「忘れなさい」

この「忘れなさい」というのがちょっとしたトリックで。意味としては逆なんですよ。「覚えておきなさい」という意味で、マリアは「忘れろ」と言っているんです。「忘れられるわけないでしょ」という意味でも。これは「セイレネス・ロンド」第一部でアンドレアス・フェーンがエディットに言い遺したセリフに被ってますね。

「世界はね、あなたたちが考えているほど、狭くもなければ単純でもないの」

このセリフはマリア→マリオン(たち)だけじゃなくて、もっとこうリアルな方面に向けた言葉で。主語でかくして語る人とか結構いるじゃないですか、ついったらんどとか見てると。そういう人たちの世界って「狭くて」「単純」なんだと思うんです、私は。それがまだ十代とか言うなら分かる。経験値が足りないことが多いんだからそうなる(こともある)から、まだわかる。けど、でかい主語使う人って「なんとなく世情がわかったつもりになっている大人」が多いように見えるんですよ。実際に統計はとってないにしても、肌感覚的に。だからこそ性質タチが悪い。そういう人、作中における「当事者ではないと思っている圧倒的多数の人たち」のようなリアルな人たちに向けての言葉でもありますな、ええ。

「……そう遠くない未来に、あなたたちはその片鱗を見るでしょう」
 ――それはカワセ大佐からののろいの言葉だった。

呪いの言葉。実はこの最後の一文は、最初はなかったんです。が、コレは「はっきり」とした「不吉な予言だ」とわかるようにしたほうがリーダビリティ的に良いに違いないという判断で入れました。なくても通じるんだけど、明らかに「(マリオンたちにとっての)悪意の文脈」であることを明示するほうがインパクト増すかなって。使い方的には、「鬼滅の刃」の映画(無限列車編)で言うところの「煉獄さんの勝ちだ!」のセリフに通じるところがあるかなと思っていたりします。視聴者(読者)にとってわかりやすさって大事だよなということで。それで最後、「そうか、これは不吉な言葉なんだな」とわかって(あるいは再認識・確認して)もらえればと。

そしてこのセリフは物語(静心のみならず、セイレネス・ロンドシリーズ全般に渡って)に於いて重要な意味を持ってくるんですが、実際にこの言葉が効いてくるのが、第七章。まだ間に二章ありますから、その間を引っ張り続ける力が必要だったと。じゃないと、各章でぶつぎり物語になってしまうので……という考え。

という感じで、第四章は〆です。

第五章、いよいよレネ・グリーグが実戦配備されます……。その後、マリオンたちも……。

→次号

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