これは「#06-01: 帰還」に対応するコメンタリーです。
さて、帰ってきた第二艦隊。ダウェル艦長の無骨な気遣いと想いが伝わったでしょうか! ヘタな慰めの言葉など言わず、考える時間を与える男。コレは相当な余裕と経験がなければできないと思うんですよね。落ち込んでいる人を見ると、うっかり言葉をかけちゃったり慰めちゃったりしません? それをあえてこらえるのも、胆力だと思うんですよ。ダウェル艦長かっこいい。かっこいいよな!?
港に着くと、そこにはレオンと多数のC級歌姫が待っています。エディタもいたんですが、レオンに後を託して去っていきます。エディタもここですっと去っていくあたり、大人の余裕がある感じがします。この後のシーンでも、エディタが一喝すれば終わるんですが、エディタはそれをヨシとしなかったんですな。
マリオンは四人もの仲間と、艦の乗員を死なせてしまったことに凹みまくっています。レオンに慰められつつ、なんとか立っている状態。ここで逃げずに出てきたところがマリオンの強さかな~と思ったりする。ごめんの一言、言わんでも良いのに言ってるところがマリオンの良いところかなと。言い訳もできたと思うんだけど(初陣だし)、それを言わないところがマリオン最高なところです。
なおも痛々しい空気が漂う中、レオンが言うわけです。
「戦死者が出たのはつらいさ。だけど、それを、一緒に戦って、一緒に傷ついた誰かのせいにするのはおかしい。違うかい?」
レオンは騎士ですからね。マリオンの騎士。無条件で守ろうとする騎士なわけです。しかしそのレオンをもってしても、なかなかうまいこと行かない中、イザベラ様が登場します。
「マリーを責めても死んだ四人は帰ってこないよ。初陣で二個艦隊撃破。損害四隻。感情的にはともかく、数値的には大勝利さ」
スパーっと空気を引き裂くイザベラ様。言いにくいこともつらっと言っちゃう。これはイザベラ、あるいはレベッカにしかできない芸当なわけです。彼女らが言うことで、それは実効力を持つようになるというか。
で、イザベラ様はレオンとマリオンを同時に正面から抱きしめたりしますが、めちゃめちゃイケメンなアクションだと思うんですよ。で「ついてこい」ですからね。イザベラ様、かっこいい!(落ち着け
ぶっちゃけイザベラ様はかっこいいと思うんですよね! ね! 吹っ切れまくったヴェーラですからね。強い。
「あー、うん。ベッキーを恨まないでやってくれよ、マリー」
「恨むなんて……」
「あの時、ベッキーが助けてくれていれば――そう言っているきみの声が、今もはっきりと聞こえているよ、わたしには」
イザベラ様、何でもお見通しです。というか、リアルに聞こえているんですよね。
「きみの気持ちはすごくわかる。伝わってくる。わたしだって泣きそうだ。だけどね、理解してやってほしい。力あるベッキーが、その力を振るわない決断をした勇気を」
力を使えばみんな助かる。みんなを助けられる。自分だけが犠牲になればみんなが……という思いで戦い続けてきたレベッカとヴェーラは、しかしそれではだめだと結論したわけです。それは同時に「自分が戦えば死なずに済んだ人がいる」というわけで、つまり「戦死者は自分のせいで生じた」というわけでもある。だから、その苦痛と罪悪感を引き受けたことをして「勇気」と言ったわけです。
マリオンはやや納得がいかず……。
「でも、その結果、誰か死ぬのでは、その」
「死ぬんだよ」
イザベラ様の言葉の圧力を感じてもらえれば嬉しいなということで、敢えて「どすの利いた」的な形容詞は入れませんでした(゜¬゜)
「誰であろうと。簡単に。それが戦争。特別な人なんていない。誰も彼も、運が悪ければ死ぬ。これはごっこ遊びなんかじゃない。それはわたしたちの時代で終わったんだ。きみたちの時代は、もう始まっている」
「仲間がどんどん死ぬ時代が、ですか?」
「そうとも言える。そして、正常な時代だとも言える」
これ、第四章のレオンとマリアのやりとりを受けてますね。以下の「#04-04:絶対的な正義となるもの」を受けた感じで。
「そんなのが、社会システムの生み出した正しさなんですか、カワセ大佐。だったら私たちはシステムが作り出した人身御供にすぎないのではないのですか」
「イエス。そして、イエス」
……なんていう冷たいやりとりなんだと改めて思いますな。
イザベラは言います。
「歌姫の犠牲は、全てきみたちの時代のための生贄みたいなものなのさ、酷な言い方をするとね。きみたち力ある歌姫が、一人の人間として生きられる社会を作るための礎として、絶対に必要だった。わたしたちの時代でカタをつけておくべき問題だったのに、残念ながら間に合わなかった。申し訳ないと思っている」
そして、
「わたしもベッキーも、きみたちへの贖罪の気持ちでいっぱいなんだ。だけど、バトンはもうわたしたちの手を離れようとしている。だから、ね、アルマ、マリー。きみたちに受け取って欲しいんだ」
で、
「それはきみたちの考えることだ。無責任との謗りは受けるよ、もちろん。でも、わたしたちはわたしたちの時代のケジメはちゃんとつける。だけどね、終わらないよ。歌が人を殺す時代はね」
と。
これはあれなんですよ。イザベラの遺言と言ってもいいセリフなんですね。第七章がアレですからね。イザベラも「その時」が迫ってきていると悟っているので、一つでも多くの「言葉」を伝えようとしているわけですね。
マリオンはレオンの手を握りながら訴えるのです。
「私は怖いんです、イザベラ。私のせいで敵が五千人死んだ。私のせいで味方が百人以上死んだ。一緒に訓練して、名前も顔も知ってる歌姫も四人も死んだ」
行くも地獄帰るも地獄。厳しい話ですね。とてもつらい。世界を救えるほどの力を有するマリオンですが、それは「平和」をもたらす力じゃない。「敵を殺す」力なんですね。それはイコール平和じゃない。立ち止まれば味方が死に、前に出れば敵が死ぬ。「人を殺す」という事実は変わらないんですよね、これが。
その訴えを聞いて、イザベラは沈鬱な気持ちになるわけです。
「それはとても……とても、悲しいことさ」
その訴えや不安に対して、なんらの「答え」を見せてあげられないことに対して、イザベラは「悲しい」と言っているわけなのです。
とてもとても悲しいことさ……。