エイドゥル・イスランシオは、「初代暗黒空域」カレヴィ・シベリウスの親友にして、ともに国家防衛の双璧として君臨していた超エースパイロットである。四風飛行隊所属・ボレアス飛行隊を率いていた。圧倒的な戦闘技術を持った飛行士で、シベリウスとはまったく互角の技術を持ち、無敵とさえ言われていた。なお、シベリウスとは「エイディ」「レヴィ」と呼び合うほど仲が良い。なお、「静心」には登場しない。「セイレネス・ロンド」では重要人物の一人として現れる。
操縦技術そのものだけではなく、論理戦闘に非常に優れており、そのため敵機のレーダーを欺瞞したり、ミサイルを誤誘導させたりとやりたい放題にすることができた。これが二つ名「異次元の手」の由来である。なお、「論理戦闘」の概念を打ち立てたのは誰あろうこのイスランシオであり、それを「技術」という方面でカバーして実際に確立させたのが、セイレネス技術責任者でもある ブルクハルト技術士官である。この二人がいなければ、セイレネスという技術が戦争のパラダイムシフトを引き起こすまでは至らなかったかもしれない。
また、彼は情報戦のプロでもある。その情報収集能力を使って、度々シベリウスやルフェーブルたちを助けている。むしろ、彼がいなければ誰も彼もが「確信」をもって戦えなかったかもしれない。
そして更に重要なことに、そのロジカルな部分(プログラムとか)に関しては、カティの師匠でもある。少なくともヤーグベルテに於いて、彼に情報戦能力で勝てる人間は存在しない。情報処理能力という点に於いては、ブルクハルトがもしかすると勝るかもしれないが、当のブルクハルトはそんなことで競争するつもりは毛頭ないので不明。記憶力や情報連結力なども、空軍の同僚であり、英雄とも呼ばれた飛行士(負傷によりパイロットを引退した)であるエリソン・パウエルにすら「化け物」と言われている。なお、カティが初めてシミュレータに乗った時に見せたプログラムの戦闘並行書換技術を見たパウエルは、この天才・イスランシオを連想したりもしている。
イスランシオは、その類まれな論理戦闘能力によって十倍の敵機を翻弄するなどということも少なくはなかった。また、イスランシオが支援に回ったときは、アーシュオンにしてみれば更に厄介であった。その戦闘空域の論理ネットワークを簡単に制圧してしまい、僚機とのレーダーリンクを切断、あるいは偽情報を流されてしまうため、連携攻撃が主流となっているこの世界に於いては、致命的な状況に陥る。その点、純粋な物理戦闘技術で押し切ってくるシベリウスの方がまだ良心的と言えた。
しかしながら、2084年11月、アーシュオンの超兵器「ナイトゴーント」の処女戦に遭遇し、戦死している。最強の飛行士をしても、超兵器には歯が立たなかったという証明である。
……のだが、それでは終わらなかった。
その後、彼の愛機、F108P+ISは、度々アーシュオンの超兵器たちの先陣を切っているところが目撃され、ヤーグベルテ航空部隊の最大の脅威となって、カティたちの前に立ちはだかることになる。
ヤーグベルテ在籍時の撃墜数は、ギリギリ4桁に届かなかった程度――と言われている。また、彼が亡き後、ボレアスは後継者問題に苦悩し(またトップエース部隊をイスランシオと共に喪失してしまったこともあり)、結果としてエウロス飛行隊に水を開けられることとなってしまった。
八都市空襲にて基地のあったセプテントリオ市ごと蒸発してしまった副官、ヘレーネ・アルゼンライヒには全幅の信頼を置いており、恋心のようなものさえ(お互いに)抱いていた。ヘレーネの理不尽な死が、イスランシオが後に迫られる「重要な選択」の答えを決定づける。イスランシオは「歌姫計画」の裏側にある超存在(「銀」とか「金」)に最初に気付く人物でもある。そしてそれゆえに「銀」に目をつけられたのだとも言える。