歌姫は背明の海に

歌姫は背明の海に

19-2-1:言葉にしないと、伝わらないよ

 卒業式から二週間が経過した頃、二〇九八年十月の半ば――。  ヤーグベルテ第二艦隊グルヴェイグは、訓練航海の帰路にあった。訓練とは言うものの、ベテランの|歌姫《セイレーン》たちをして「実戦のほうがまだ幾らかは楽」と言わせしむるほどに...
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19-1-1:卒業パーティにて

 二〇九八年九月末日、士官学校の卒業式が執り行われた。|D級歌姫《ディーヴァ》――表向きは|S級《ソリスト》――が二名、|V級《ヴォーカリスト》が一名、|C級《クワイア》が七十八名という構成だった。  |D級歌姫《ディーヴァ》である...
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18-1-2:平和な夜

 しばらくの沈黙の末、レベッカは絞り出すような口調で言った。 「イズー。私にはあなたの決意をどうしたら覆すことができるのか、全然わからない。けれどね、もう、あなただけに背負わせるのは嫌なのよ」「きみは今までのことを思い悩む必要はない...
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18-1-1:捨て去る勇気

 イザベラの宣言が、レベッカとマリアの頭の中を跳ね回る。  遠くない未来に、わたしは反乱する――。 「な、何を言ってるの」「酔っているのですか、姉様」  レベッカとマリアはほとんど同じ反応を見せた。イザベラは「ふふ……」...
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17-3-2:わたしはここに宣言する

 それからしばらく、ただ沈黙の時間が過ぎた。イザベラが最後に言葉を発してから、三十分近くが経過した頃になってようやく、イザベラが腕組みを解いた。 「ところでさ、新人|D級《ディーヴァ》の二人は元気にやってるのかな?」「え、ええ。そう...
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17-3-1:顔のない女神は、怒りを歌う

 レベッカ邸にて、イザベラは事の顛末を話して聞かせていた。今日はマリアは不在で、久しぶりの二人きりの時間だった。レベッカはイザベラの|斜《はす》向かいのソファに浅く腰掛け、眉間に皺を寄せている。 「それが本当にそうだったとすると、ア...
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17-2-5:バロックノート

 だがしかし、その|PPC《粒子ビーム砲》での一撃は、例の不審な駆逐艦たちによって張り巡らされたフィールドによって減衰させられる。先頭に打ち立てられた十隻の駆逐艦は無傷、せいぜいが小破だった。イザベラの力が乗っていれば、或いは殲滅も可能だ...
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17-2-4:エコード・コーラス

 《《コーラス》》……だって……!?  その不意打ちには、イザベラの力をもってしても対処できなかった。第一艦隊の約半数がその効果範囲内に入っていた。エディタやレネを中心にした、幾重にも重なるコーラスだった。  影響下にあった|...
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17-2-3:圧倒、からの――。

 アーシュオンの艦隊が、獰猛な牙を剥いた。死をも恐れぬ勢いで怒涛のように迫ってくる。普通に考えれば勝ち目のない戦闘。しかし、アーシュオンは攻撃一辺倒だ。 「背水の陣、というわけでもない」  イザベラはセイレネスを通じて敵艦隊の...
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17-2-2:イザベラの目

 マリア……?  コア連結室の中にいるイザベラは、マリアの不審な行動を追っていた。エレベータで別れた時にもどこか思い詰めたような表情をしていたし、確かに上の空でもあったからだ。  そしてその予感はすぐに確信へと変わった。マリア...
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