本文-ヴェーラ編3

歌姫は背明の海に

18-1-2:平和な夜

 しばらくの沈黙の末、レベッカは絞り出すような口調で言った。 「イズー。私にはあなたの決意をどうしたら覆すことができるのか、全然わからない。けれどね、もう、あなただけに背負わせるのは嫌なのよ」「きみは今までのことを思い悩む必要はない...
歌姫は背明の海に

18-1-1:捨て去る勇気

 イザベラの宣言が、レベッカとマリアの頭の中を跳ね回る。  遠くない未来に、わたしは反乱する――。 「な、何を言ってるの」「酔っているのですか、姉様」  レベッカとマリアはほとんど同じ反応を見せた。イザベラは「ふふ……」...
歌姫は背明の海に

17-3-2:わたしはここに宣言する

 それからしばらく、ただ沈黙の時間が過ぎた。イザベラが最後に言葉を発してから、三十分近くが経過した頃になってようやく、イザベラが腕組みを解いた。 「ところでさ、新人|D級《ディーヴァ》の二人は元気にやってるのかな?」「え、ええ。そう...
歌姫は背明の海に

17-3-1:顔のない女神は、怒りを歌う

 レベッカ邸にて、イザベラは事の顛末を話して聞かせていた。今日はマリアは不在で、久しぶりの二人きりの時間だった。レベッカはイザベラの|斜《はす》向かいのソファに浅く腰掛け、眉間に皺を寄せている。 「それが本当にそうだったとすると、ア...
歌姫は背明の海に

17-2-5:バロックノート

 だがしかし、その|PPC《粒子ビーム砲》での一撃は、例の不審な駆逐艦たちによって張り巡らされたフィールドによって減衰させられる。先頭に打ち立てられた十隻の駆逐艦は無傷、せいぜいが小破だった。イザベラの力が乗っていれば、或いは殲滅も可能だ...
歌姫は背明の海に

17-2-4:エコード・コーラス

 《《コーラス》》……だって……!?  その不意打ちには、イザベラの力をもってしても対処できなかった。第一艦隊の約半数がその効果範囲内に入っていた。エディタやレネを中心にした、幾重にも重なるコーラスだった。  影響下にあった|...
歌姫は背明の海に

17-2-3:圧倒、からの――。

 アーシュオンの艦隊が、獰猛な牙を剥いた。死をも恐れぬ勢いで怒涛のように迫ってくる。普通に考えれば勝ち目のない戦闘。しかし、アーシュオンは攻撃一辺倒だ。 「背水の陣、というわけでもない」  イザベラはセイレネスを通じて敵艦隊の...
歌姫は背明の海に

17-2-2:イザベラの目

 マリア……?  コア連結室の中にいるイザベラは、マリアの不審な行動を追っていた。エレベータで別れた時にもどこか思い詰めたような表情をしていたし、確かに上の空でもあったからだ。  そしてその予感はすぐに確信へと変わった。マリア...
歌姫は背明の海に

17-2-1:ひずむ音

 二〇九八年五月――。  ヤーグベルテ三隻目の戦艦となるヒュペルノルが進水した。ヒュペルノルは唯一の|S《ソリスト》級歌姫、レネ・グリーグの専用戦闘艦である。  このハードウェアの追加により、イザベラ・ネーミア率いる第一艦隊は...
歌姫は背明の海に

17-1-1:ブラインドネス

 年が明け、カレンダーが二〇九八年に切り替わった頃――。  アーマイア・ローゼンストックは、バルムンクの作り出した闇の中に|在《あ》った。じっと佇んでいるアーマイアの視線の先にいるのは、ジョルジュ・ベルリオーズだった。ベルリオーズは...
タイトルとURLをコピーしました