小説

歌姫は背明の海に

02-2-1:エディタとトリーネ

 それから三ヶ月後、二〇九三年一月初頭――。  エディタは寮の自室に戻るなり、ベッドに倒れ込んだ。 「きっつい。年明け早々もきっつい……」  年末年始にはかろうじて休みはあった。だが、その間もエディタはジムに通い続けてい...
歌姫は背明の海に

02-1-2:四人のペルソナ

 講義室に取り残されてしまった四人の新人|歌姫《セイレーン》たちは、互いにおずおずと顔を見合わせた。昨日の入学式で一応挨拶程度のことはしたが、それきりだった。入学初日からスケジュールが過密で、いまさっきになってようやく一息つけたという状態...
歌姫は背明の海に

02-1-1:四人のヴォーカリスト

 ハーディとヴェーラたちの溝は埋まらない。それどころか急速に拡大しているようにさえ見えた。セイレネスが正常に運用管理されているという現状が奇跡とさえ言える――ハーディ自身はそう認識していた。  もっとも、軍上層部としては本人たちの間...
歌姫は背明の海に

01-3-2:拒否権なんてないから。

 それから一週間後、短い夏の終わりごろ――。  いつもの実験が終了するや否や、ヴェーラとレベッカはハーディの執務室へと召喚された。二人の|歌姫《セイレーン》は硬い表情のまま、プルーストに促されて室内へと入ってくる。プルーストはハーデ...
歌姫は背明の海に

01-3-1:半年間の懊悩と、凍てついた涙

 エディット・ルフェーブルの葬儀から約半年後、二〇九一年八月――。  かつてのエディットの部屋であった参謀部第六課執務室で、ハーディはデスクチェアに身体を深く沈めていた。 「うまくいかないものだ」「そりゃそうでしょう」 ...
歌姫は背明の海に

01-2-3:全部、ノー!

 入って来いよと、カティは静かに呼びかける。レベッカはゆっくりと身を起こし、立ち上がった。そして足音を忍ばせて洗面所へと向かう。涙でぐしゃぐしゃになった顔を洗おうとでもいうのだろう。  カティもおもむろに立ち上がり、ドアのところへと...
歌姫は背明の海に

01-2-2:ブランデー

 二〇九一年二月三日――。  エディット・ルフェーブルの葬儀や手続きの一切が終わり、また普通の日々が動き始めていた。エディットがいないことが普通の日常が、だ。 「姉さん、ブランデーだよ。高いやつ」  カティはエディットの...
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01-2-1:葬儀にて響く銃声

 二〇九一年一月三十一日――。  エディット・ルフェーブルの葬儀は、実に小規模に行われた。一応は軍による公式の葬儀であったから、参列者自体は数百名を数えた。だが彼らのほとんどは、一通りの儀式が終わると同時に潮が引くようにいなくなって...
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01-1-2:推測と直感

 リビュエ艦内に響き続ける分厚い重低音。それは当たり前のように常に存在し続けていて、だから普段は全く意識すらしない。だが、今はそれが酷く耳につく。ノイズだった。この|艦《ふね》にいる間は、決して逃れられない、悪意のないノイズだ。  ...
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01-1-1:報せ

 着艦直後に入ってきた情報に、カティは我が耳を疑った。真紅の愛機から飛び降りて、走りながら艦内通信用のヘッドセットを装着する。 「姉さ……じゃない、ルフェーブル大佐が暗殺だって? それは本当なのか。確度は」『間違いありません。参謀本...
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