小説

　あらあら――。 　アトラク＝ナクアはレベッカとイザベラのためだけに存在しているはずの論理空間を、|闇《バルムンク》の中から観測していた。アトラク＝ナクアのすぐそばにはツァトゥグァとベルリオーズが|泰然《たいぜん》として立っていた。...

　海は|静寂《しじま》に沈む。 　暗い海、星の消えた空、焼けた空気。 　しかしそこには風の音も水の音もない。 　漂うのは《《音》》というにはあまりにも微細な、セイレネスの《《歌》》だ。 　マリオンたちはセイレーン|...

　修羅――。 　その決意の表れに、レベッカもマリオンもすっかり圧倒されてしまう。アーシュオンのやりかたは、イザベラやレベッカの想像を超えていた。しかし、だからといって、ヤーグベルテのありようを「正しい」とは思わない。ゆえに、イザベラ...

　海域は夜の静寂に沈んでいた。続いていた暴風雪も嘘のように|鎮《しず》まり、月のない空は|燦然《さんぜん》たる様相を呈していた。その星たちの輝きが水鏡のごとき海面に落ち、|幽《かす》かに揺らぎながら瞬いていた。 　その美麗な風景の中...

　もはや思い悩む|段階《フェイズ》ではない。|理解《わか》っている。だけど。 　マリアのいない|艦橋《ブリッジ》で、レベッカは思考に沈む。 　本当にこれで良かったのだろうか。これが|採《と》り得る最良の選択肢だったのだろうか。...

　マリアの指示により、シミュレータルームからは|C級歌姫《クワイア》たちの姿が消えた。事情の説明は後回しにして、とにかく自艦に向かわせたのだ。|C級歌姫《クワイア》たちもイザベラのニュースにすぐに気付いたため、大いに動揺を見せはしたものの...

　レベッカは統合首都にて、静かに《《その時》》を待っていた。ガラスの向こうのシミュレータルームには黒い棺のようなシミュレータの筐体がいくつも鎮座している。その中ではマリオンやレオノールたち、新人|歌姫《セイレーン》たちが模擬戦での訓練を行...

　《《生首の歌姫》》が口を開いた。響いたのは絶叫だ。 　イザベラはそのあまりの音圧に圧倒される。至近距離で、しかも不意を打たれたからだ。 「黙れ！」 　イザベラの強烈な一喝が、絶叫を止める。 「お前はそんな姿になっ...

　レネ・グリーグが操る戦艦ヒュペルノルと合流した第一艦隊は、アーシュオンの三個艦隊と正対していた。イザベラはセイレネスで索敵を行って、眉根を寄せた。 「空母がいない？」 　いつもなら輪形陣の中央に旗艦である航空母艦がいる。 ...

　第七艦隊旗艦、航空母艦ヘスティアの提督席にて、クロフォードは小さく唸る。ヘスティアの展開する隠蔽システムの傘の下に入るため、艦隊はぎっしりとひしめきあっている。ヘスティアの隣には、青い最新鋭艦、|制海掃討駆逐艦《バスターデストロイヤー》...