#02-03-03:口説き落とされるマリオンさん

静心 :chapter 02 コメンタリー-静心
第二章ヘッダー

これは「02-03: 初雪の溶けゆく空に、暗澹たる気持ちを雪ぐ」に対応したコメンタリーです。

さて、未だ部屋に着かないマリオンさんとレオンさん。とことこと歩きながらの会話は続きます。士官学校の寮ってめちゃめちゃ広いんです。そしてマリオンさん、ぶちかまします。

「私、未だによくわかんないんだけど。歌姫セイレーンってなに?」
「ふぇ?」

っておいっていう感じですね。とはいえ、士官学校に入って未だ二ヶ月ちょいくらい。歌姫の何たるかがはっきり説明されているわけじゃないんですね、この時期。もっとも、ヴェーラたちはもちろん、エディタら大先輩もいますから、「ふわっと」はわかってる。そんな状態。ちなみにレオンもそこまではっきり「歌姫」について理解しているわけではありません。

同室の先輩、レネ・グリーグ(レニー)に訊けばわかるかもしれないんですが、レニーさんてば現在超絶過労状態であるため、マリオンも、あのアルマでさえも質問をためらっているような状態です。ルームメイトとはいえ2ヶ月。そしてほとんど部屋にいない人ですから、気も引けようというものです。

レオン曰く、

「私だって歌姫セイレーンのなんたるかなんて、マリー以上には知らないさ。確かなのは、軍事バランスを完全にぶっ壊した、核兵器以来の軍事の大進化のきっかけだってことさ」

ということですが、これがこの時点の彼女たちに於ける模範解答。実際にはもっと強烈で残酷な兵器なわけですけども。それは第五章あたりではっきりします。

そしてその言葉を受けて二人の会話は暗い方向へと。

「軍事――殺す力……か」
「守るための力だって言うべきじゃないかな」
 そうかな。私はレオンの言葉に疑義を差し挟もうとした。が、レオンの荒んだ微笑を受けて、私は言葉を飲み込んだ。レオンはまたあの低い声で囁いた。
「専守防衛をこの国で、私たちは何を叫んでいるんだろうね」

ここまで一連。レオンの痛烈な嫌味です。この直後出てきますが、ヤーグベルテはずーっと専守防衛を貫き、攻めてくるアーシュオンからひたすら防衛行動をとっていたんです。が、ヴェーラたちが登壇してから、ヤーグベルテはその思想を明確に放棄します。そしてアーシュオンにいくつもの核ミサイルを撃ち込むわけです。「セイレネス・ロンド」に於いては、この核はヴェーラの「セイレネス」の力によって非核化されていますが、静心では「核」と認識されているのですね。実際に放射能がぶちまかれたかどうかは、マリオンたちは知りません。この核を打ち込んだ作戦はT計画(テラブレイク計画とも)の一環で、ヤーグベルテの新兵器、テラブレイカーの性能試験を兼ねたものだったのです。ちなみにこのT計画に対比する形でS計画というのがあり、そのS計画というのが「セイレネス計画」というわけです。

この時、ヴェーラはその膨大なエネルギーをアーシュオンに叩きつけるわけですが、その時にアーシュオンの超エース飛行士アビエイター、ヴァルター・フォイエルバッハの奥さんを殺害してしまっています。もちろんヴェーラの知るよしもなかったことですが。で、このヴァルターはヤーグベルテの捕虜になるわけですが、その時にヴェーラはその事実を知るわけです。ヴェーラが変わっていったきっかけとなった重大な事件の一つ、ということです。

 そしてあの核兵器を打ち込む作戦もまた、を用いたものだった。今、マスコミは、それすらヴェーラの独断だったのではと、もっともらしい理屈を付けては情報の海ネットに放流し続けている。殺戮者だとか、死神とか、うんざりするような誹謗ひぼう中傷が飛び交っている。

この部分もまた、マスコミや、マスコミ気取りのSNSユーザ、まぁ言ってしまえば大衆を批判していたりしますね。ええ。テノヒラクルーが常態化しているのは、今も昔も変わりません。

そして話の流れで、マリオンが考えていることをレオンはピタリと言い当てます。マリオンびっくり。

 ……なんで私の考えてることがわかったの?
「聞こえた」

さぁ出ました、歌姫セイレーンの能力。これはテレパスというより、共振能力なんですが、波長が合った時に相手の思考が垣間見えるんですね。レオンの言う通り、狙ったとおりに見えるわけでもなければいつでも発動しているわけでもないのですが。それはマリオンやアルマにしても同様。もっとも、マリオンはそんなことに気づきもしなかったようですが、マリオンにしてみれば「他人の声が聞こえてる」というのは常日頃からそうだったので、意識してないんですよね。洞察力が高いマリオンには、「他人が発している思考」と、「自分が他人を分析してそう考えているであろう予測」の区別がつかないんです。ありません? あの人はきっとこう思ってるに違いない――というのがあまりに常習化して「その人が何考えてるかわかった気になる」状態。マリオンは基本的に内向的なので、そういう傾向がとても強い。対してレオンはそれとは正反対なので、「そういう事象」に気づくことができたと。

レオンは他人の心を覗けることに対してこう述べます。

「人の心は醜いよ。私たち歌姫セイレーンだって、同じさ」

これは絶対言わせとかなきゃならんと。その後で「マリーを不愉快に思ったことはない」と言ってマリオンを安心させてからの……。

「私が本当に、本当の本当に、心の底から好きになったのは、マリーが初めてなんだ。これは茶化してるわけでもお道化どけてるわけでもなくて、本気の告白だよ、マリー」

しかも頬を挟み込みつつ。目を合わせて。このままキスしちゃうくらいのポジション取り! です! マリオンさん、多分動悸で死にそうになったと思う。マリオンとレオンのその後のやり取りを見てみましょう。

「えっと、あの……そんなこと、いわれても。私たち、女同士だし……」
「好きになるのが同性じゃ、だめなの?」
「だめじゃないけど、その、なんていうかな」
 廊下に誰もいないのを確認してから、私はレオンに抱きついた。不意を打ってやった。レオンもさすがに驚いたようだ。

はい、こういうの大事。とても大事だと思う。百合~! とかいうだけなら簡単なんだけど、ちゃんと互いのことを思って互いを理解して自分も理解して、その上で行動するってのは大事。レオンはものすごく筋が通っている。そしてマリオンはそれまでそんなこと考えたことがなかったわけですが、それでもレオンの好意には応えたいな、なんてことを思っている。優しい子なんです! マリオンは優しい! 押しに弱いとも言うけど、根が優しいのです。だからこその優柔不断だったり甘ちゃんだったりもする。

ここからしばらく一種LGBTQ+の話になるんだけども、それは物語上必要だと思ったから付け加えたのであって、作者的には「好きなんだからいいじゃん」でも良かったかなぁと思っている。でも、ここの考察というかキャラクターそれぞれの視点って、しっかり定義したほうが実体感があるよなって気もしている。難しい主題ではあるけど、ただ「百合いいね~」だけだったらなんかこの「静心」の重さが失われる気がする。

そのへんのやり取りは本編見てもらうとしてですね。先にいきましょう。

「心を読んだ?」
「いや、今読んだのは空気」

マリオンの問いかけにさらっと応じるレオンさん。頭いい子だな~って。静心のキャラクターたちは総じてエリート。とても頭がいい子が多いんですね、これが。成績とかじゃなくて、思考力がすごい。歌姫は共感能力が個人差はあるにしても総じて非常に高いので、なおのことそう見える。

そしてレオンの性格美人が次でまた。

「でも、私、マリーが男の人が好きだ、女じゃ嫌だって言うなら、潔く身を引く。こういうのって、ほら、強制できないからさ」
「あ、ううん。そうじゃないよ。わかんないだけ。全然恋愛経験なくて。それに誰かに好かれるとか、考えたこともなくて、その、なんだろ。ちょっと戸惑ってる」
「そういうところだぞ、私を落としたのは」

決して利己主義に陥らず、相手を慮った上での言動が非常に多い、気配り上手なレオンさんです。と、見せかけて、完全に口説いてるんですね、これ。離れるのも仕方ないと思ってる → え、いや、そうじゃなくて → 私は君に本当に惚れてるんだ ……のコンボですね。駆け引きと言うか押し引きというか、そういうののスキルも、上流階級であるレオンの特性なのでしょう。

そんな感じで、二人はマリオンのお部屋の前に、ようやく到着であります~! 遠かったな~!!

→次号

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