#02-04-02:歌わぬディーヴァ

静心 :chapter 02 コメンタリー-静心
第二章ヘッダー

これは「#02-04: 世界平和のために。」に対応したコメンタリーです。

さて後半。

そんな三人の時間に割り込んでくるのは携帯端末のアラート。彼女らがきゃいきゃいやっている間も、戦争は続いているのです。

第二艦隊、つまりレベッカの艦隊がアーシュオンに襲いかかります。歌姫による圧倒的な集団戦闘。レニー(陸上で後方支援してる)とエディタ(最前線で指揮を執っている)についても言及されつつ。そこでマリオンさんが主人公っぽい苦悩を吐露していたり。

 信じるって何を? レベッカに頼って、頼りっぱなしで。彼女が敵を殺す、ううん、を殺すのを礼賛らいさんするだけ。レベッカが憎いアーシュオンを撃滅してくださいますように、レベッカが次もまた多くを殺せるように生きて帰ってきますように、レベッカが圧倒的に敵を完膚なきまでに殺しまくって私たちにを存分に届けてくれますように。
 祈りか? そんなの、祈りと言えるのか?

礼賛らいさんとかいう語彙選択は完全に作者の趣味です。もちろん、エラスムスの「愚神礼賛」とかけていたりしますが、まぁ、知らなくても良いやくらいのアレですけども、「愚神礼賛」って何? くらい知っておくともしかするとちょっとだけ幸せになれるかもしれない。まあ、知らなくても全く問題ないんですけどね。

しかしコレ、後にマリオン、あるいはイザベラたちがぶつけ合う想いの欠片だったりします。

そんな無情感に苛まれるマリオンに、アルマが「あたしたちは世界を変える」と言い放ちます。でも、マリオンはそれに懐疑的。そしてこんな台詞を吐くわけです。マリオンのくせに。

「私たちは……兵器だよ、アルマ。抑止力の兵器なんだよ。そんな私たちに敵を殺す以外に何ができるの」

この「抑止力」というのも本作一つのキーワードかなと。「本当の抑止力」なら、実情内情はどうであれ【表向き】は「戦争は止められる」はず。だけどそうじゃない。そうでさえない。ディーヴァの力をもってしてもそうはならなかった。ということをマリオンは言いたいのですね。

そんなマリオンにアルマは冷然と言い放ちます。

「大切なレベッカ、あるいはヴェーラ。二人を守るためには、二人以上に殺すしかないんだ、マリー」
「アルマの言う通り」
 レオンが私の頭に手を置いた。テーブルの上では、いつもの一方的な殺戮劇が展開されている。
「――世界平和のためにね」
「世界平和のために人を殺せって?」
「ヴェーラとレベッカは、そう決意して、殺して、殺して、殺してきたんだ」

この辺のやり取りは個人的に結構痺れるところで。レオンのシニカルな面もここに出てるかなと。甘い言葉を囁くだけのお嬢様なんかじゃないんだよという。そしてアルマは言うのです。

「戦争は――いまや、娯楽なんだよ、マリー」

これは第一話の「戦争って、いつから娯楽サーカスになったんだっけ」「今から、なるのよジャスト・ナウ」を受けたものですが、アルマはこのやり取りを知っていたわけではありませぬ。彼女はレベッカの「心」を「見た」のかもしれないわけです。

そして実際の戦闘を見ながら――。

 私の携帯端末モバイルから投影されている立体映像の中から、が響き始める。歌――意味を持たない音素の羅列。歌姫セイレーンの奏でる怒りと絶望の歌だ。

というわけで、実際には歌は「言葉」の乗ったものではないことが明らかになります。「フィフス・エレメント」のオペラみたいなのを連想するといいのかもしれない。あれ、1997年なんですね。ミラ・ジョヴォビッチとブルース・ウィリスの。すごく好きだったなぁ。

って、そうじゃなくて。ともかく、ググったら映像出てくるから見てみて、「フィフス・エレメント オペラ」で余裕だから。うん、しっくりくるんじゃないかな! とにかく「美しい音」の羅列、重なり合い、津波。そういうものがオーロラグリーンの輝きとともに飛び交うのが、歌姫の戦場、セイレーンの海域なわけです。そしてそこから遠く離れた陸上にいるヤーグベルテの人々は、その「歌」の「上澄み」だけを受け取って、酔いれる。この【歌】には麻薬的な中毒性があり、実際に聴いた人の脳に影響が出るという危険極まりない代物なんですね。後(第八章)に「お嬢ちゃんたちは阿片アヘンみたいなもんなんだよ」とか言われたりしますが、それは全く正確な話で。

そうそう、「セイレネス・ロンド」においては「オルペウス」という遮断システムが出てきて、「中毒になると不都合な人たち」はこれで防御されます。「静心」ではオルペウス出そうかどうか悩んだ末にオミットしました。「セイレネス」というシステムで全て賄おうということで。100万文字使えるなら載せてたけどね。

で、「オルペウス」の話が出たのでついでに言うと、これは「アンチ・セイレネス・システム」とも言える代物で、セイレネスの影響を限りなく小さくする防御装置です。実はこれ、エウロス飛行隊エンプレス隊とかには全機搭載されていたりしますし、「歌姫の素質のある者」であれば何なら攻撃にも使ってしまえるので、それでナイアーラトテップを撃沈したりもしてます、エウロス半端ないから――カティだけじゃなく。

そしてその「オルペウス」の開発に一役も二役も買ったのが、ヴェーラ、レベッカ、カティの保護者でもあったエディット・ルフェーブルなんですね、これが。そのヒントをもたらしたのはカティで、その開発に協力したのがヴェーラの初恋の相手、敵国の飛行士アビエイター、「白皙の猟犬」ヴァルター・フォイエルバッハだったりするわけですが。まぁ、このへんは「セイレネス・ロンド」の第二部らへんで語られてます。時期的には2088年以降になりますね。そう、戦艦初陣の後の話です。

そんなことより、マリオンはとても重大な事に気が付きます。

「レベッカが歌ってない!」

この重大な事実に。確かにここまでの戦闘は「殺戮劇」と呼ぶに相応しい一方的なものではあったんですが、レベッカが歌っていればもうとっくに決着はついていたはずの戦闘。だからマリオンは「随分時間経ってる気がする……」って気付いたんですね。

ヤーグベルテの第一・第二艦隊のそれまでの戦術(とすら呼べない戦い方)は、だけでした。しかしそれによりアーシュオンは抵抗もできずに粉砕される――それが当たり前だったわけです。難しいことを考える必要はない。ただ殴りつければ勝てる。だから国民の誰もが圧倒的勝利を疑っていない。被害が出るなんて考えもしてない。そういうのをして「戦闘だ」と、国民は誤解し始めていたわけです。

しかし、レベッカはここで重大な決断をするのです。

……圧倒的なきな臭さを残して、第三章へなだれ込むのであります。

→次号

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