これは「#03-05:イザベラの処女戦」に対応したコメンタリーです。
前回は敵航空戦力300機が押し寄せてきて……というところでした。
レベッカもさすがに「やばい!」と感じて前に出ようとした、まさにその時!
登場! エウロス飛行隊! そして「空の女帝」カティ・メラルティン大佐! このときは未だ量産機(と言いつつ傑作機でもある)F108Pに搭乗してますね。ただし、赤い。
陽光の残滓を引き裂いて飛来する真紅の戦闘機、F108P。紛れもない、空の女帝こと、カティ・メラルティン大佐の愛機だ。
赤い戦闘機=カティの機体、ということは、全国民が承知しているわけです。「空の女帝」は伊達じゃない。
しかし、その数はたったの12機。エンプレス隊一番隊だけです。つまり、300 vs 12。圧倒的な戦力差があるわけです。
どう考えても増援と呼べる数ではなかった。
と、マリオンは思いますが、皆そう思ったはず。
『エウロスより眼下の歌姫たちへ。敵艦隊へ注力しろ』
『ネーミアより、メラルティン大佐。我々は――』
『黙れ、イザベラ。ヤーグベルテの空はアタシたちのものだ』
有無を言わせぬカティ。ものすごい言葉の圧力を前に、イザベラでさえたじろぎます。
『ネーミアよりメラルティン大佐。数に差がありすぎる。増派あるいは撤退を推奨――』
『誰に指図している!』
この時点で完全にイザベラを圧倒していますね、カティは。カクヨム掲載時にも、この部分でカティに心掴まれた人が多数いた模様。もうここからはエウロス飛行隊、およびカティの単独公演です。多弾頭ミサイルが飛び交おうが敵が群れで向かってこようが、カティたちは鮮やかに空域支配を進めていきます。
空戦シロウトのマリオンには、何がどうなっているかさっぱりわかりません。というか、空戦プロフェッショナルでも半数くらいは何が起きてるか説明できなかったでしょうね。マリオンにはカティの凄さもエンプレス隊11機の凄さも、もうほとんど同じくらいに見えてますが、実際には実力差は天地です。通常のパイロットがレベル20くらい、四風飛行隊が70くらいだとすると、エンプレス隊はだいたいレベル85。それに対してカティはレベル99ステータスカンストくらいです。が、シロウトマリオンさんにはもう85だろうが99だろうが同じようにしか見えてないんですね、これが。我々がピアノやバイオリン演奏聞いても、ある程度以上の技量の演奏になると差がわからなくなりますよね、それです。
『エンプレス隊、敵航空戦力を磨り潰せ! 一機たりとも逃がすな! 奴らは自殺攻撃をしてくるぞ!』
カティの指揮ですが、これ、カティさん超音速機動をしつつ、一ダース超のミサイルを半手動操作で誘導しながら喋ってます。無茶苦茶無茶やってますが、カティさんにはできるんです。天才ですから。
マリオンさんも
あんな戦闘行動をしながら喋れる事自体が驚きだ。史上最強――その呼び名は伊達ではなかったということが、今全国民の前で改めて証明された格好だ。
と感想を述べてます。そう、カティさんは史上最強なんです。自分でリアルタイムにガシガシ戦闘アルゴリズム組み替えていくしね。敵機のデータリンクを破壊したり欺瞞したりするし、敵機のシステムをクラッシュしたりもできるんですな。つまり、「暗黒空域」シベリウスの戦闘技術と、「異次元の手」イスランシオのシステム支配のスキルの両方を持っているチートキャラ、ということです。ありえん強さの二人のありえん強さのスキルをどっちも持っているわけなので。
そしてさらなる艦隊攻撃を行うかと尋ねたカティに、イザベラは応えます。
『わたしたちの活躍の場まで奪わないでもらっていいかな、メラルティン大佐』
『イザベラ、意地で戦争はできんぞ?』
『……全艦、複縦陣!』
これ、カティは最初から断られる前提で尋ねてます。カティは空軍および参謀部(第三課)から「イザベラを目立たせろ」という指示を受けているはずなんですね。あくまでコレは「イザベラのためのショーゲーム」という位置づけなので、どこまで国民を熱狂させられるかに軍と政府は重点を置いています。
それで、このやり取りでイザベラに再びバトンが戻り、イザベラの圧倒的な「歌」が戦闘海域を制圧するわけです。
「これが、イザベラ・ネーミア提督の力……!?」
その音圧は、ヴェーラやレベッカを遥かに上回る。
「信じられない」
そう、ヴェーラをも上回るんです、イザベラは。というより、ヴェーラやレベッカが「理性」で抑えていた部分をまるっと取っ払ってしまった状態がイザベラの能力。リミッターが外れた状態とでもいいますかね。ヴェーラにはまだ「ためらい」があった。しかし、イザベラには今や確固たる目的があるので「そんなもの」には目もくれない。その差ですね。
『セイレーンEM-AZ、セイレネス、再起動! 安全装置解除! 天使環、および装甲翼展開!』
第一話でも出てきた変形です。ヴェーラではなく、イザベラによる。
戦艦・セイレーンEM-AZがごごごごごごっと変形してどかーんと。
マリオンもその模様は覚えています。「うっすらと記憶にある」と言っていますが、あの戦闘は繰り返しメディアで使われているので、断片的ながらもかなり鮮明におぼえているはずです。ただ、ヴェーラとイザベラが上手く結びついてないんだと。
『ヤーグベルテ第一艦隊司令官イザベラ・ネーミアより、アーシュオンの侵攻艦隊に警告する。この警告はわたし個人の善意により発されるものである。本攻撃は国際法を犯すものに非ず。なれど、本攻撃は一撃で貴艦隊を殲滅するに足る威力を持つ。故に、わたしは貴艦隊への本警告を実施する。繰り返すが、これはわたし個人の善意である。今より三十秒以内に退却の意志を示せ。さもなくば、我々は戦闘行動を続行する!』
コレも完全に「SHOW」ですね。見せるための殺戮の準備。艦隊の意思決定が30秒で済むはずがないとイザベラは知っているのです。
戦闘は一瞬で集結します。最初から必殺技・雷霆をつかえよ! と思われるかもしれませんが、それじゃ軍司令部、参謀部あるいは政府からのリクエストに答えられないのでできない相談なのです。「勝つ」のは最低限当然の条件で、実際には数多くの「チェック項目」があって、それらを1つでも満たしていかないといけないわけです。めんどくさい世界だなぁ。
『こちら、エンプレス1・メラルティン。エウロス、損害ゼロ、いつもどおりだ。我々も母艦へと撤収する』
そして颯爽と帰っていくエンプレス隊。「損害ゼロ、いつもどおりだ」というあたりに女帝とその騎士たちの貫禄があります。なお、このときはまだ戦艦空母アドラステイアは完成してないので、「母艦」というのはリビュエのことです。
そんな感じで、残酷なショーゲームは終わりぬ、でございます。
次回は#03-06、ハーディ無双の回です。