これは「#03-06: 参謀部第六課の会見」に対応したコメンタリーです。
さて、先の戦いで大勝利を挙げた歌姫たちですが、それに関する記者会見が開催されます。大きな戦闘後には定例なんですね、これ。
というわけで出てきました、「歌姫」たちの最高指揮官であるところの、参謀部第六課統括、アレキサンドラ・ハーディ中佐。猛禽類のような、とか、人間らしい体温を感じない、とか、マリオンさんが散々なことを思っていますが、実際にハーディは感情を抑制していますし、スナイパーという前歴もあって常に獲物を狙う目をしているのも事実です。
とにかく歌姫たちにとっては「よくわからないけど畏怖すべき人」なわけです、ハーディ中佐は。
そういえばこの時、レオンさん発熱してマリオンに膝枕されてるんですね。ただの風邪らしいですが、イケメンでも風邪をひくんですね。ええ。いや、単にマリオンの太ももを味わってもらいたくて入れたシーンなんですが! イケメン(女子)に膝枕、じゃなくて、イケメン(女子)を膝枕というのがいいじゃないですか、ねぇ????(威圧
で、ハーディ無双の始まりです。ダイジェストで。
『今回の作戦は予定通りだったといえますか?』
『貴方の言う予定通りというのは、V級歌姫の喪失を含めて――という極めて愚かな問いだと解釈してもよろしいですか?』
完全に新聞記者を殺しにかかってますね。新聞といってもペーパーメディアの時代ではないので、配信という形ですが。これ、アスカ風に言えば「あんたバカぁ?」です。
さすがに記者も鼻白みます。
『極めて愚かな問いというのは、国民への挑戦のような言動ですよ』
『それは一記者に過ぎない貴方が、まるで国民の代表でもあるかのような口ぶりですね』
どこかで聞いたようなやり取りに思えますが、多分気のせいです。新聞記者は国民の代表じゃないんですよね。忘れてる方々が時々現れますが。ましてや国民の代弁者でもない。ハーディは「お前、何勘違いしてんだ?」てなことを丁寧な口調で糾弾したわけです。で、追い打ち。
『ではまず確認させていただきますが、貴方はどなたに選ばれたのですか』
『それは……』
『答えられないのであれば、以後、そのような発言は慎むように。そもそも、ここにいる者は誰一人として、国民の代表などではありません。貴方は自らの所属する会社のためにその愚かな口を開き、私はその愚かな貴方のために、無意味な会見を開くのです』
参謀部第六課は、連日マスコミにボコボコに言われていたんだと思います、多分。レベッカの戦い方とか、そういうのの(無責任な)責任追求の矢面に立っていたのは誰あろうハーディですし、ハーディは恐ろしく責任感の強い人なので、レベッカに向けられる言葉の暴力の防波堤になっていたのだろうと思います。ハーディ、そういうことアピールする人じゃないので誰にも理解されてはいないんですが。つら。損な性格だなと思うんだ。ハーディ、めっちゃいい人なのに。あと、死ぬほど仕事ができる人でもある。
第四章の行動とかを見るに、さしものハーディもこの時点で相当キていたんじゃないかなって思いますな。また、新聞記者との全面戦争になったとしても、もはや(歌姫たちの力がある以上、世論的にも)押し負けることはないという計算も、軍の上層部にはあったわけです。でなければ、ハーディのこの発言もどこかで止められていたはずです。
そしてトリーネの喪失を引き換えに、敵の新兵器、ナイアーラトテップI型の性能がわかったことを告げます。そして――。
『現時刻をもって、当該の兵器をナイアーラトテップI型と呼称します。分析の結果、I型は、あの八都市空襲に用いられた自律飛行爆弾インスマウスと同等の性能を持っていることが判明しています』
ここで密かにポイントなのは「インスマウス」と言っているところなんですね。
私を含め、ヤーグベルテの国民の多くは、「インスマウス」という音にアレルギー的な反応を示すようになっているのだ。
とあるとおり、ヤーグベルテの人々は「インスマウス」という音に激しいトラウマを持っているので、軍は正式呼称として「ISMT」を採用しているんです。そこを敢えて「インスマウス」と呼ぶことで、強烈なインパクトを与えることを狙っているんですな。
『ネーミア提督はヴィーケネス中尉を助けようとしたのでしょうか』
『無論です』
『しかし――』
『私は貴方の望む回答をする必要性を感じません』
バッサリとその記者を切り捨てるハーディ中佐。中佐の声は、凍え切った刀のように、冷たく鋭い。
どこまでも鋭いハーディ中佐。回答を誘導しようとする新聞記者の手に負える相手ではないということですな。伊達に「逃がし屋」として名高い伝説の参謀エディット・ルフェーブルの右腕をやっていたわけじゃない。
『アーメリング提督はずっと後方にいたように見えましたが、その意図は? もし、艦隊旗艦ウラニアが前に出ていれば――』
そしてこの記者の言葉に対して、ハーディは間髪入れずに切り返します。
『戦場にもしもを持ち込むほどくだらない事はありません』
一刀両断。ちなみにこれは全国放送・生中継です。ハーディは個人の感情と、国民の低落ぶりへの警鐘と、記者たちへの激怒に、同時に対処しているのだ。
『貴方たちは!』
ハーディ中佐が声を荒げた。中佐のこんな声、初めて聞いた。
『誰がこの国を守っているのか、知らないのですか』
『国防は軍の責務――』
『黙りなさい!』
そしてここの部分を受けて第8章のマリアの激怒があります。マリアとハーディ、目的は違えど、歌姫たちに対する思いは似たようなものだったわけです。
そして恒例となっていく長台詞。
『レベッカ・アーメリング提督も、ヴェーラ・グリエール提督も! 何の痛みもなしに戦っていたのだとお考えか! その手でいったい何万、何十万と殺させてきたか! 我々、軍が不甲斐なかったことは認めましょう。無力にして無策だったという誹りを否定することは到底できません。しかし! 貴方たちマスコミもまた、提督方に何をしてきた! ひたすら、国家のためにと殺し続けてきたあの子――失礼、あの方たちに、いったい何を言ってきた!』
『ヴェーラ・グリエールが命を絶った原因がどこにあるか。貴方たちは一度でも自省したのか! なればいかような結論を出したのか! それを今、自らの社の代表としてカメラの前で総括できるか! できるのならば、いくらでも私に向かって石を投げるがいい!』
これはハーディなりの覚悟の言葉だったと言えるでしょうね。「あの子」と思わず口にしてしまっている所に、ハーディらしからぬ感情の奔りが見えるんじゃないでしょうか。ハーディはヴェーラたちの十代の頃を知っている人です。ちなみに第一話でヴェーラ、レベッカの戦闘指揮をとっているのは当時の参謀部第六課統括のエディットですが、実際に指示を出しているのは副統括のハーディです。
ハーディ無双はまだ続きます。そして新聞記者サムも登場します。
が、一端ここで〆。