これは「#04-03: 夏の休暇の頃」に対応したコメンタリーです。
エリオット中佐との話からあっという間に時間が流れます。3,4ヶ月くらい。で、9月くらいになってます。
一年生終盤にして、膨大な事務処理を手伝わされているわけですね、マリオンたちは。ぶっちゃけいえば、人件費削減です。また、歌姫による台頭を快く思わない軍部有力者からの嫌がらせの結果でもあります。どこの時代にもこういうことはあるのですね。代表格が参謀部第三課、主に空軍を主幹している部署。アダムスの野郎ことアダムス大佐の率いる課で、第六課の統括だったエディット・ルフェーブル存命中からずっと仲が悪い。アダムスや彼に肩入れする、T計画の主幹部たちが色々やってくる。それを第六課関係者が阻止して、妥協の産物としてこういった雑事を学生にやらせる事になっている、というわけです。
戦闘では未だ戦艦はほぼ飾りになっていて、C級歌姫たちはぽろぽろ戦死していく。アイドルでもある歌姫たちが戦闘のたびに一人、また一人と欠けていく。もはや誰も悲しまない。その「死」すら利用して資金を調達する軍。その「死」の間際の歌声――断末魔を摂取して陶酔する国民。なんて救いがないんだ! 誰だよ、こんな鬼畜な社会システム作ったやつは!
「歌姫損害ゼロの時、ネットは荒れたね」
「麻薬中毒者のそれさ。麻薬が勝手に降ってくる世界に住んでるんだ、みんな。理性なんてもうどこにもない。ジャーナリスト気取りの奴らも、したり顔で戦術批判だ――誰も死ななかったことについての、な」
……という実情。そりゃマリオンたちの眉間に縦皺も寄ろうというものです。マリオンは、
「それにしてもこのログファイルの量! こんなの三日でチェックしろだなんて鬼。悪魔。カワセ大佐のばかー!」
なんてことを言ってるし、実際マリア・カワセは鬼で悪魔なんですが、これもマリアなりの気遣いのひとつなんですよ。忙殺させることでこのくそったれすぎる現実から解放できるんじゃないかというような。実際にこの状況でヒマだったら、それこそマイナスの特異点まで落っこちてしまうんじゃないかなぁ。
で、ログを見ているうちに、マリオンはセイレネスの仕組みがわかってきています。マリアの教育の成果だ!
あとLCとかそういう言葉が出てきますが、これは最後の最後で明かされます。LCはLogical Combat(論理戦闘)のことで、セイレネス同士がぶつかった時に発生するタグなんですね。「セイレネス・ロンド」ではヴェーラたちがセイレネスのLC空間で銃撃戦をしたりしますが、そういうことです。マリオンたちは体験しませんが、エディタたちはこの論理空間銃撃戦をくぐり抜けているわけです。イメージとしては「マトリックス」って映画の銃撃戦ですね。マトリックスも20年も昔の映画ですが、未だアレを超えるスタイリッシュでマンガ的な銃撃戦を他に見てない気がする。
で、ここでマリオンとアルマがちょっと重要な話をします。
マリオンは「自分たちって別にD級歌姫じゃないじゃな?」と訊くんですが、アルマは「そうかな?」と。
で、二人のシミュレータのコンフィグ値と、セイレーンEM-AZの実測値を比較するアルマさん。アルマはもはやデータ解析のプロフェッショナルでもあるので、こんなことはお茶の子さいさいです。
「大事なところは見えないけど、周辺情報だけだとこの一致率。それどころか、一部のメソッドの戻り値とその処理係数は」
「嘘だ。イザベラのものより大きい」
なんてこったい。というわけで、アルマは「自分たちってイザベラより強くなるってことじゃね?」って気付いてしまったというわけです。アルマさん、正解!
そんなふうに機密データにアクセスしていると、カワセ大佐からTELがきます。カワセ大佐、二人がセイレーンEM-AZのデータを見たことを知っているんですね。常に監視している……わけではないですよ。マリアは文字通り特殊能力があるだけです。
アルマはカワセ大佐に「自分たちのシミュレータのコンフィグの数値おかしくね?」と尋ねるんですが「全て私の指示通りです」と。つまり、マリアはとっくにふたりがD級歌姫だってことを知っているというわけです。
『レニーと共に、あなたたちが艦隊を率いることになるのは、参謀部第六課にて決定事項です。大統領の事前承認も得ています』
というわけですから、もうかなりの……というか、これ以上ないっていう確度で実現される事項という状態なわけです。まだマリオンたち1年生なのに。
そして、現艦隊司令官のイザベラ、レベッカの意思を問われ、マリアはこんな答え方をします。
『二人はもう十分に役割を果たしたと、私は考えています』
物語を知ってる方にはこのセリフの意味がわかるんじゃないかなと思います! わかるよね!! だからもう、マリアは「その時」のための下準備に入っているという。マリアの個人としての気持ちは、「そんな日は来てほしくない」。だけど、マリアの本質ARMIAとしては「任務を遂行しなくてはならない」。その狭間で彼女も苦しんでいるというわけです。ARMIAとしての描写は「静心」ではオミットしていますが、「セイレネス・ロンド」では無敵に見えるマリアのメンタルがグラグラっと揺れ動いていたりします。
そしてマリアは、マリオンとアルマを「お墓参り」に誘うわけです……。