05-02-01:イゾルデ→イズー→イザベラ

静心 :chapter 05 コメンタリー-静心
第五章ヘッダー

これは「#05-02: ディーヴァとの対面」に対応するコメンタリーです。

ニーの実戦配備から1年、マリオンたちもいよいよ卒業。前話、本話と時間がものすごい流れてますが、ダラダラ学園生活書いてもしょうがないっていうので(あと勢いつけたかった)すぱーーーーーっとオミットした結果です。

卒業パーティという儀式が行われたりするわけですが、その間国土防衛はザル状態。第七艦隊と四風飛行隊が死ぬ気で守ってくれてるところで成立するパーティという、どこまでも業の深いイベントです。

一週間前にアーシュオンの超兵器オーパーツである「ナイアーラトテップ」を26隻撃沈とか言ってますが、アーシュオンの繰り出す速度も加速しているわけです。なお、このナイアーラトテップの跳梁跋扈ぶりをして「週刊ナイアーラトテップ」と呼んだりする人も少なくありません。ちなみにこの「週刊~」は、太平洋戦争中の米国の「週刊空母」にちなんでいます。カサブランカ級護衛空母がボコボコ生産されていたことを受けて「週刊」と呼ばれていたわけです。空母が量産されるなんて恐ろしいことなわけですが、ナイアーラトテップの量産にはヤーグベルテの人々にとってはそれだけのインパクトがあったということでもあります。相変わらず核を含んだ通常兵器が通用しないし。でもこっちもレニーというS級歌姫ソリストが追加されていますから、その超兵器オーパーツをボコボコにしているというわけです。レニーがいなかったら26隻というのは苦戦は免れない数ではあるのですが。

さて、そんなわけでパーティ会場。

海を割るようにして現れるイザベラレベッカ(とアルマとレニー)。めちゃくちゃ緊張しているマリオンとレオン。敬礼してみせるも、イザベラはひらひらっと手を振って言います。

「ああ、いい、いい。要らないよ、そんなの」

いきなり砕けた口調でございます。「わたしのために、死ぬのだ!」と言っていた人とは思えないフランクな感じ。マリオンとしてはイザベラ=ヴェーラと知っているわけで、また、レベッカもそこにいるわけで。憧れの人が二人も至近距離にいて自分を見ているという事実に、背中汗だく(お前本当に主役ヒロインか)。

「イズー、未来の司令官たちにアイスティーでもあげてよ」
「はいはい、かしこまり」

かしこまり~ですよ、イザベラ様。マリオン的には「私の知ってるイザベラ様と違う!」感がすごかったと想うんですよね。というか、これが「ヴェーラのノリ」なんですけどもね。イザベラ様もイザベラ様の仮面を演じるのがめんどくさくなってきたのかもしれない。中の人ヴェーラだし、あり得る。

そんなかる~いノリに驚くマリオンたち。その一方で、その人となりを知っているレニーは下を向いて笑っています。こういう反応は予想済みだったんでしょうね。

「わたしの艦隊の指揮はもっぱらレニーがってくれてるし、わたしは基本的には督戦席でぼけーっとしてるだけだからなぁ」
「ちょっと、イズー。あなた、コア連結室にも入ってないの?」
「だって暗いし?」
「子どもじゃないんだから!」

「セイレネス・ロンド」をクリアされた方ならピンとくると思いますが、この二人、だいたいこんなノリです。ヴェーラがレベッカを振り回して遊んでる感じ。ぷんすこ状態のレベッカさんがかわいいと思うんだな。

「まったく、何かあったらどうするつもり?」
「何かある時には、わたしはいつだってセイレネスにいるだろう?」
「……それは、ええ、そうね」

そして言い負かされるレベッカさんかわいい。言い合いが発生しても、だいたいヴェーラ(イザベラ)が勝ちます。

で、イザベラはウィスキーをかーっとあおったりします。イザベラは基本的にザルなので、いくらでも飲めるタイプ。ちなみにこの後2杯追加してます。その一方レベッカは酒がまるっきりダメで、グラス半分も飲むと気絶します。ということもあるので、レベッカは絶対にお酒を飲まないと誓っているのです。

「さすがわかってるね。ウィスキーだ」
「この子たちの前で酔っ払わないでよ?」
「ベッキーじゃないんだから。ベッキーこそ間違って変なもの飲むなよ? 何かとさぁ、大変なんだから」
「のっ、飲まないわよっ! アルコールは飲みませんよぉだ!」
「ああ、そうそう! ところでさ、レニーとアルマの話はいつも聞いてるんだけど、きみとレオノールはもう三年付き合ってるって本当?」

レベッカの「飲みませんよぉだ!」は、ちょっと動転してることの現れ。これはイザベラやカティといるときだけ現れる人格なので、レベッカさんちょっと失敗。こういうふうに翻弄され続けるのがレベッカさんの人生。

しかし、そんな渾身のレベッカさんの言葉を食い気味に、マリオンに対してレオノールと付き合ってんの? とフランクに訊いてくるイザベラ様。前のめりです。マリオンたちはカクカクうなずくわけですね。したっけ(北海道弁)、

「いいねぇ、百合百合ゆりゆりしい」

とのこと。百合百合しいものに理解のあるイザベラ様。ちなみにイザベラ様(ヴェーラ)は性的嗜好でいうといわゆるノーマルです。初恋の人(そして最後の想い人)も男性ですしね。

「大変良いな。ね、ベッキー」
「え、わ、私は別にそんな関心ないし……!」
「ベッキーはわたしのことが大好きだもんね」
「好きは好きでも、私のはそういう意味じゃないわよ。私たちはどっちかっていうと相棒でしょ」
「いいね、相棒バディ。そういう関係も嫌いじゃないね」

ということで、二人はなんというか、「双子」的な愛情を持ってるんですね、お互いに。

その後、マイペースを貫くイザベラ様はちゃっかり二杯目のウィスキーを飲みつつ、マリアに電話します。携帯端末モバイルの電話機能の使い方は今とあんまり変わってないですね。

で、機密事項話していいべか? みたいな感じのやり取りをしつつ、マリオンとアルマをパーティ会場から連れ出しちゃいます。二人の専用戦闘艦、制海掃討駆逐艦バスター・デストロイヤーをお披露目しようと。

イザベラは言うわけです。

「ベッキーはね、いつだってわたしにはんだ。それが自分の役目ロールだって思ってるのさ」
「それはあなたがいっつも暴走するからでしょ」
「それは主客転倒だよ、ベッキー。きみがノーと言うってわかっているから、わたしは全力で暴走するのさ」

このセリフが、第七章以後の展開を強く示唆していたりしますね。イザベラがなにかする時は、レベッカもまたそれを知っていると。そういうことを示唆しているのですな。

これは事情を知る人にしてみれば極めて深刻なやり取りではあるんですな。が、最後はヴェーラ(イザベラ)が煙に巻くわけですね。こんなふうに。

「あなたはいつもそうやって! 私に心配ばっかりかけて!」
「ごめんごめん。ベッキーには苦労かけっぱなしだから、そろそろ結婚しようか?」
「けっ、けっ……けっこん!?」
「だめ?」
「な、なに言ってるのよ、あなた」
「だめかな」
「……べ、べつに――」
「残念! 冗談!」
「なっ!?」
「でも本気!」
「えっ!?」

エディタ・レスコがここで初登場。声と名前だけはいっぱい出てきてるんですが、実際の容姿の描写はこれが初めてです。

 銀髪に青い瞳にしてヤーグベルテの血を強く受け継いでいる純白とも言える肌の持ち主

という、アニメ系美女を地で行く感じ。あと、超怖い上官という。敵にも味方にも容赦がない――というのは、ヴェーラ(イザベラ)とレベッカの想いに応えているからなんですね、これが。エディタの信念というか、哲学というか。ただの美女ではないということですね。

そんなエディタもこの会場では少し砕けています。

「結婚云々は、確か去年もやってたな」

という具合に。誰も彼も普通の人間なんですな。決して超然となんてしていなくて。超然として見える人も、その仮面の下は普通の人間だと。

エディタも「セイレネス・ロンド」第三部ではものすごく人間的だしアツいし。マリオン視点になるとどうしても「怖い上官」になってしまうので、「静心」では印象が「論理クール」みたいになってますけど。第三部のV級ヴォーカリストの仲間との別離を決めるシーンとか、マジでエディタ主役ですからね。というか「セイレネス・ロンド」第三部、裏の主役がエディタという位置づけだったりもするので。エディタは作者のイチオシだったりしますよと。

そして三杯目のウィスキーを飲み干して、マリオンとアルマの肩を抱いて会場を出るわけです。

「イズー、ちょっと! 二人が困ってるじゃない」
「じゃぁ、きみにはマリーをあげよう」
「そっ、そういう意味じゃないし!」

結局翻弄されるレベッカさんでした。

あ、そうそう、ここで「イザベラ」を「イズー」と呼んでますが、これは「トリスタンとイゾルデ」をイメージしています。これ、「トリスタンとイズー」とか「トリスタン・イズー物語」などと邦題がついていたりしますが、とにかくイズー。

「トリスタンとイゾルデ」って、元はといえばケルトが発祥の説話で、12世紀にフランス→ドイツと広まった物語なんですね。(ちなみにシェイクスピアは1600年前後の人なので、それよりも300年くらい古い物語ということになります)

また、私の大好きなワーグナーの楽劇でもあります。で、この物語なんですが、「恐ろしく救いがない!」んです。いや、最後の解釈にもよると思うし、多くの人は「ああ、それでもまだ救われたよね」と思うと思うんですが、私は「なんて無情なんだ」という印象の方を強く持ちました。大学生の頃に読んだこの作品は、実は私の作る世界にすごい影響を与えているんですね、これが。ワーグナーの楽劇とかではまた印象が変わりますけど。

ということもあって、イザベラはイザベラなんです。イゾルデ→イズー→イザベラ、というふうにネーミングしました。

「トリスタンとイゾルデ」のあらすじとかはググってもらえばいいとして、大事なのは「きっかけはなんであったにせよ愛し合った人」と「たとえどんな運命が訪れようと」「添い遂げる」、そして「死してもなお」というところ。つまりこれ、ヴェーラとレベッカの話なんですね。ヴェーラは焼身自殺に失敗した後、自ら「イザベラ」という名前を名乗るんですが、そこにはこういう意味が込められていたというわけですが、作中で語るとそこがクドくなっちゃうのでオミット。分かる人は分かって! という隠しイベントになりました。

中世ヨーロッパ最高にして最大のラブストーリーとも言われる「トリスタンとイゾルデ」。それと「セイレネス・ロンド」って実はすごくリンクしてるんですね、これが。

というわけで、待て次号。

→次号

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