小説

歌姫は背明の海に

04-1-3:ブルクハルトの危惧

 ふと、エディタは視線に気が付く。モニタルーム内にいるブルクハルトがエディタを見ていた。ブルクハルトは小さく右手をあげて、「こっちにおいで」とジェスチャーでエディタを呼ぶ。 「失礼します」  エディタはおずおずとモニタルームの...
歌姫は背明の海に

04-1-2:ハーディとの対話

 はたと気付けば、エディタの意識は暗いシミュレータの筐体の中に戻ってきていた。擦過音と共に天蓋が開くと、そこにトリーネの心配そうな顔が覗いた。 「だいじょうぶ?」「ああ、多分……。私、どのくらいこうしてた?」「一分くらい? たいした...
歌姫は背明の海に

04-1-1:深淵を覗く時……

 巡洋戦艦デメテルの進水から四ヶ月後、二〇九三年九月――。  エディタたち四名の|V級《ヴォーカリスト》歌姫たちは、それぞれシミュレータを経由して最前線の戦いの様子を見つめていた。  四人が見ているのは通常の艦対艦の戦闘ではな...
歌姫は背明の海に

03-1-3:ロジカル・レイヤー

 ヴェーラはほとんど真っ暗なコア連結室の中で、シートに背中を預けたまま、腕を組んだ。 「イスランシオ大佐とのコミュニケーションが成立した……!」  その事実は、戦闘をモニタリングしているブルクハルト中佐やハーディ中佐も認識した...
歌姫は背明の海に

03-1-2:イスランシオとの対峙

 二〇九三年五月、巡洋戦艦デメテルが進水して一週間後、薄暮の頃――。 「まったく! 次から次からぁっ!」  ヴェーラは数隻の防空駆逐艦、およびボレアス飛行隊を率いて、対空戦闘を繰り広げていた。数十機ものナイトゴーントが近海域に...
歌姫は背明の海に

03-1-1:巡洋戦艦デメテル

 二〇九三年四月末――ヤーグベルテ統合首都では、気の早い桜が開花し始める頃である。  ヴェーラは仏頂面で、眼下に佇む新型巡洋戦艦デメテルを睨んでいた。ヴェーラのいる司令室からは、広大な秘匿ドックが一望できる。このドックは貫通爆弾です...
歌姫は背明の海に

02-3-2:提督と女帝

 参謀部の車から、転げるようにして飛び出してきたのはヴェーラだった。|門扉《もんぴ》のセキュリティが解除されるなり、ヴェーラはカティに飛びついた。レベッカは運転手のプルースト中尉に礼を言ってから、落ち着いた様子で降りて……滑って転びそうに...
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02-3-1:地平線上の134340

 カティは紺色のジーンズに黒いタンクトップという軽装で、ソファに深々と沈んでいた。溜まりに溜まった疲労により、ついウトウトしてしまう。うたた寝と覚醒を小刻みに繰り返してしまうが、まだ午後八時にもなっていない。本気で寝るにはあまりにも早すぎ...
歌姫は背明の海に

02-2-3:ディーヴァとの対面

 トリーネの提案に従い、四人はやや暫くの間、自制心というフィルタを除去された空間で意見を交わしあった。その話題の中心にあったのは常にヴェーラやレベッカであり、そしていつ始まったとも知れず、いつ終わるのかもわからない、この戦争のことだった。...
歌姫は背明の海に

02-2-2:嘘のつけない空間、セイレネス・シミュレータ

 その翌日の夕方、エディタたち|V級歌姫《ヴォーカリスト》たちは、技術士官ブルクハルト中佐によって、シミュレータルームへと緊急招集された。四人はその日の講義を全て終えて、すでにクタクタになっていたが、緊急と言われて行かないわけにもいかない...
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