小説

歌姫は背明の海に

24-1-1:運命の出撃

 二〇九八年十一月末――。  アーシュオンは驚くべき作戦を展開した。アーシュオン本土を縦断するように、巨大なトンネルを造ったのだ。そのトンネル「ムリアスの道」は、艦隊が悠々通過出来るほどの巨大なものだった。北部への陽動攻撃に目を|眩...
歌姫は背明の海に

23-2-3:二人と、四人

 それから三日後。  エディタは暗いセイレネスシミュレータの筐体に乗り込むと、大きく息を吐いた。エディタが部屋に着いた時には既に五基のシミュレータが使用中となっていた。招集した全員が既にログインしているのだとわかった。 「ログ...
歌姫は背明の海に

23-2-2:私たちはもう、とっくにどっちも正気じゃないわ。

 そこまでして、命を捨ててまでして、いったい何が得られるというのですか――エディタが掠れた低い声で尋ねる。イザベラは髪を後ろに払った。 「何も」「それではっ!」  エディタは腰を浮かせる。 「ディーヴァを失えば、ヤーグベ...
歌姫は背明の海に

23-2-1:わたしは反乱する

 二〇九八年、十一月も間もなく終わる頃――。ヤーグベルテ統合首都の秋は足早に過ぎ去り、間もなく初雪が観測されるだろうとの予報が出ていた。例年通りだった。すでにコートなしでの外出は厳しい。  その日、オリオン座が雲一つ無い南天に輝いて...
歌姫は背明の海に

23-1-1:ARMIAの振り子

 床も、壁も、天井も、ない。色もない――黒や白の感覚もない。上下左右の概念すら消失してしまっているこの場所は、果たして「空間」と呼べるものなのだろうか。それすら判然としない。ただ《《音》》だけがある。意識を水のように満たしていく、そんな《...
歌姫は背明の海に

22-2-1:カオス⇔システム

 バルムンクの創り出した闇の中から、アトラク=ナクアは「あらあら」と戸惑うカティを眺めていた。アトラク=ナクアの傍らにはツァトゥグァが、そしてそこから少し離れたところにジョルジュ・ベルリオーズが立っていた。 「思い通りに事態は動いて...
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22-1-4:アタシが……!?

 無事に着艦を済ませ、艦上に降り立った時の疲労感は、今まで感じたことのないほどのものだった。水の中にでもいるのではないかというくらいに身体が重く、風音も人の声も、全てが|歪《ひず》んで聞こえた。今すぐベッドに倒れ込みたいくらいに、脳が疲弊...
歌姫は背明の海に

22-1-3:救い無き、狂哭

 この、一方的な力が、セイレネス!?  カティの一撃で空域が焼け焦げた。それを目にした瞬間に、カティは寒気を覚えた。その空域には|薄緑色《オーロラグリーン》のセイレネスの|残滓《ざんし》があった。  粉砕された戦闘機の残骸が、...
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22-1-2:エキドナは歌う

 翌日正午過ぎ、カティはさっそくエキドナに搭乗していた。移送と慣熟飛行を兼ねた無茶なプランだったが、カティには特に不満はなかった。それよりも一刻も早くこの新型機に触りたいという思いが強かったからだ。 「確かにスキュラの上位互換だな」...
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22-1-1:エキドナの受領

 イザベラが人間弾頭を処理した戦いから三日後、十一月も中旬に差し掛かり冬の前触れのような寒風がヤーグベルテ統合首都に吹いていた。そんな中、カティは新型機エキドナを受領するために、統合首都空軍本部へとやってきた。  指定された会議室に...
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