#02-03-01:おふろ!

静心 :chapter 02 コメンタリー-静心
第二章ヘッダー

これは「02-03: 初雪の溶けゆく空に、暗澹たる気持ちを雪ぐ」に対応したコメンタリーです。

さてさて、時間は微妙に進んで12月。実は士官学校のあるヤーグベルテ統合首都の気候は北海道札幌市をモデルにしています。なぜなら私がそこ在住だから、季節感を嘘なく描けるから。3月や4月に桜が咲くなんて思うなよ!? 桜はな、ゴールデンウィークに咲くものなんだよ!!!

で、あっちゅーまに散る。そしてこの「5月」っていうのが最後の最後でちょびっと関係してくるのでアレですよ。

あ、今は桜はどうでもよかった。雪です。雪。12月ともなればいつ雪が降ってもおかしくないのが、このヤーグベルテ統合首都。マリオン的にもちょびっと楽しみなのかもしれませんね。季節が変わるのは少し気分が新鮮になる感じが……するのか、マリオン?

そして士官学校の寮(当然ここは女子寮ですが)には、なんと巨大な浴場があります。これは、「セイレネス・ロンド」でヴェーラカティたちが在学していた頃(以前)からの伝統です。温泉必須を声高に叫んだ権力者がいたのだと思われます。名も知られぬ人ですが、実にグッジョブと言えるのではないでしょうか。男子寮に温泉はあるのか? 知らないな!

ぶっちゃけ士官学校の訓練はめちゃめちゃ厳しいのです。身も心もボロボロになるような、ちょっと前時代的とも言えるような訓練を課せられている。だっていままさに戦時中なわけですから、四の五の言わずに戦えと言われてしまうわけです。実際のところ「セイレネス・ロンド」ではアーシュオンの特殊部隊によって士官学校は壊滅させられていたりしますし、本土空襲、島嶼占領などもしばしばあるのです。だから、軍人である以上、歌姫であっても例外なく、かなりのレベルの戦闘技術を仕込まれることになります。ついでにいうと、ヴェーラとレベッカも、拳銃はもちろんサブマシンガンから対物ライフルまで何でも扱えます。近接銃撃戦となったらカティより強いと思う、ヴェーラもレベッカも。格闘戦になったらカティ一択だけど。「空の女帝」カティ・メラルティンは、戦闘機操縦技術だけじゃなく、近接戦闘スキルも鬼のように高い人なのです。カティに「参りました」と言わせたのは、カティの親友だったエレナ・ジュバイルただ一人で、それ以来一人もカティを倒せた人はいなかったりしますよ。

大いに脱線している間にマリオンさんお風呂に浸かっています。マリオンさん、オフロスキーですからね。NHK教育のあの人を連想したあなた、さては子育て経験者ですね? 呼んだ? 呼んだよね? 呼んだ~。呼んでない。

マリオンさんは「風呂は命の洗濯」主義者なので、暗澹たる気持ちをお湯に流そうとしています。実際風呂は嫌なことを思い出すことが多いシンジ君タイプの人もいると思いますが、静心登場人物たちの多くは、お風呂でリラックスできるお得なタイプです。お風呂シーン大事。

同室の先輩・レニーことレネ・グリーグの多忙っぷりに同情と危機感を覚えつつ。ここでレニーがいかに有能で我慢強いかが書かれていますね。次世代組では頼れる先輩、人格者でもあるので当然です。マリオンたちのあこがれの先輩ですからね。そしてレニーは「艦隊司令官筆頭候補」と言われてもいます。S級ソリストですしね。

そして……

「どうしたの、シケた面しちゃってさ!」
「わあああああっ!?」

レオノール・ヴェガ登場! 彼女が後のマリオンさんのパートナーです。ちなみにこの静心からさらに数年後、二人は結婚したりします。女性同士ですが、西暦2090年ともなれば、そのへんの価値観は今よりもっと変わっているはず。歌姫の実力的には、マリオンよりも一個下のV級ヴォーカリストです。なお、マリオンと同学年では彼女しかいません、V級。

で、このレオノールさんは、ものすごく声が大きい。本気で歌うと窓ガラスが割れると言われるほどです。で、長身(175~180cm)でイケメン(マリオン曰く、「反則どころか罪」らしい)、ついでにイケボなので、女の子に死ぬほどモテます。そして本人も女の子が大好きなので、事実上ハーレムモード。あと、ものすごい金持ちの家のお嬢様でもあるという無敵条件揃いすぎ案件。更に本人は気さくな上に気遣いもできて後ついでにとても頭の回転が速いチートキャラ。マリオンが勝てるのは歌姫セイレーンとしての能力だけ(酷

突然の大声に水没するマリオンさん。なんとか復活して抗議します。

「もう! いきなり大きい声出さないでしょ! あーほんとびっくりした。心臓バクバク」
「悪い悪い! で、心臓がバクバクだって? どれどれ」
「ってやめっ! 他人ひとの胸触らない! あぁっ、もうっ! だめだってば!」
「生存確認だよ、生存確認!」

これ、完全に揉んでますね。敢えて何をとは言いませんが、レオノールさん、マリオンさんのを揉んでます。
マリオンさん一応抵抗していますが、多分そんなにバシャバシャしてないと思う。というのは、「いつもだいたいこんな距離感」のような記述がある通りで、レオノールさんはマリオンさんに事あるごとにボディタッチしてるので。色んな所は既に揉み済みだと思う。

あと、レオノールさん、マリオンは「男っぽく=レオン」と呼び、マリオン以外は「レオナ」と呼びます。

「私で良ければお相手致しますよ、お嬢さん」

マリオンの肩を抱きながら、レオンさんは囁くのです。超絶イケメン女子にこんな囁きをされたらイチコロっすよ!(何が
そしてレオンはマリオンスキー会員第二号(第一号はアルマ)なので、超積極的にマリオンを口説くのです。お前本当に16歳かよ。

「それで。私と裸のお付き合い、なんていかがですか、マリオンお嬢様」
「間に合ってるから大丈夫」
「間に合ってるぅ? そうは見えませんなぁ?」

そんな事を言っているうちに、真正面から抱きしめられてしまうマリオンさん。百合百合しいですね。実に百合百合しい。実はマリオンさんも本音ではまんざらでもなかったりするんですが。洗い場にいた先輩たちからも「ラブラブ」に見えているので、多分そうなんでしょう。マリオンさんの優柔不断さがいい方向に発揮されてますね。

「で、どうしたのさ、マリー。センチメンタルな顔しちゃって」
 私をその引き締まった腕と豊かな胸から解放してレオンは訊いてくる。私は「むぅ」と唸ってから応えた。

レオンさん引き締まってるんですね。イケメンですからね。当然ナイスバディであるのです。そしてちゃんと胸もある。スラッとした巨乳なのかもしれないですね。「空の女帝」カティと体型は似てるかもしれない。

「そりゃ感傷的な気分にもなるよ、レオン。テレビもネットも毎日毎日ヴェーラ特集ばっかり。ある事ない事、みんな好きなことをわぁわぁ騒いでる。誰も自分たちの吐いた言葉に責任なんて負わないくせに!」

これはまんま、古今東西マスメディアとそれに容易たやすく煽られる大衆心理についての批判ですね。こういうのが今後バカスカ出てきます。それが一つの静心風味でもあります。

「真実を語れる人が沈黙してるしね」
「レベッカは……沈黙で誠意を語ってるんだよね」

そんな人々の好き勝手な妄言に動じることなく沈黙で応じる歌姫、レベッカ・アーメリングを思って、沈鬱な気持ちになるマリー。「沈黙で誠意を語る」って表現は作者的にお気に入り。ただ、後に「思いは言葉にしなければ伝わらない」「言葉をててはならない」とマリオンはレベッカに言います。なぜなら沈黙の言葉を聞けてつ理解できるのは、沈黙の言葉を扱えるほんのわずかな人間だけだからです。

「マスコミはヴェーラ・グリエールその人を見てない。ヴェーラが被り続けていた偶像アイドルという仮面ペルソナだけを見て、好き勝手言ってるだけだからね。だろ、マリー?」
「うん。ヴェーラがどんだけ苦しんだかとか、どんだけのものを背負ってたかとか……考えてくれている人はとても少ないんだ。それに私は本当にうんざりしてるよ。ただ搾取できるだけ搾取して、いざ……になったらみんな一斉に手のひらを返した。無責任だ、逃げた、ずるい、自分をなんだと思ってる――うんざりだ、ほんとに、ね」
「全員が全員そうじゃないとは思うけどね、マリー。しかしながら、残念なことに、この国は民主国家なんだ。だから、多数派マジョリティが正義なのさ」

台詞が続くときには、どこかで相手の名前を呼ばせるのが私のやり方。ここでは一個目の文章で「マリー?」と尋ねていることから、ここだけ見てもレオンが話していることがわかります。

ヴェーラが被り続けていた偶像アイドルという仮面ペルソナ
この意趣返しとして、後にヴェーラはイザベラに変じ、そして仮面サレットをかぶるわけです。

そしてマリーは、他人の視線にはとても敏感なので、ヴェーラが現在受けている一方通行の仕打ちに我慢ならないものを感じているんでしょう。忸怩たる、というのがぴったりくるかな。

しかしそれが「多数派」なんだとレオンは言います。で、

多数派マジョリティが正義なのさ
と、民主国家であるところのヤーグベルテを痛烈に皮肉るわけです。

「民主主義って、みんなで幸せになっていくのが理想なんだよね。だけど、実際には、他人の不幸を願う人がこんなにもたくさんいる。足を引っ張り合っているようにしか――」
「他人の足を引っ張るのが目的になっている人も少なくないからね、実際さ」

民主主義の理想が実際のところどうなのかはともかく、マリオンにはそう思えている。自分自身もまた幸福な境遇ではなかったからこそ、感じるところが多いんでしょう。で、これまたレオンのシニカルな返しがありますが、「他人の足を引っ張るのが目的になっている人」って無茶苦茶多いじゃないですか。引っ張らないまでも、引っ張られてもがいている人を嗤う人はとても多い。あまつさえ引っ張られた被害者に対して引っ張られたのはお前が悪いからだと安全地帯から匿名で責め立てるような卑しい人もいるわけじゃないですか。

2090年もやっぱりネットの時代ではあるという前提なので、多分人間の精神性は変わってないと思うんですね。というか人間なんて有志以来、精神性の根源部分は進歩なんてしていない。道具に応じて道具の特性に振り回されて変わっているように見えるだけだ――てなことを私は思うんですよ。

「これって、みたいな話だね、レオン」

この世界にも「蜘蛛の糸」という文学作品はあるのです。というかこの世界、文学や絵画、音楽はリアルな我々の世界をそのまま踏襲しています。後にシェリーとか出てきますし、もちろんシェイクスピアはバンバン出てきますし、あまつさえ和歌も出ます。タイトルが「静心にて、花の散るらむ」ですからね。コレはもちろんのこと「ひさかたの 光のどけき春の日に 静心花の散るらむ」が元ネタ。「セイレネス・ロンド」では「武士道」なんかも出てきますね。

「マリー。この国はね、もう随分と狂ってるんだ。ヴェーラとレベッカが現れて、たった二隻の戦艦で敵の艦隊をあっという間に殲滅してしまったその瞬間から、この国は狂ってしまったのさ」
「ヴェーラたちが悪いみたいな言い方――」
「そんなことは思ってないさ、マリー」
 レオンは首を振る。
「ただ、人々はヴェーラたちを言い訳にする。パンとサーカスを寄越よこせ。少なくとも過半数はそれしか叫ばない――叫べないんだ」

レオンの批判は続くのです。2088年のあのデビュー戦以後、世界の様相はすっかり変わってしまったと。もちろんレオンもマリーたちと同い年なのでそのパラダイムシフトを体感したわけではないですが、彼女は良いところのお嬢様ですし、両親や兄弟も存命なので、色々見聞きし勉強してきたんだと思いますね。社会批判的姿勢が目立つのは、多分レオンの父や母が体制側、現状維持を強く望む姿勢でいるからだと思われますな。レオンと両親では、ヴェーラ、レベッカについての意見が合わなかったのではないかと。両親は歌姫の戦争のための力としての可能性にしか目が行っていなくて、ヴェーラたちを「兵器」として扱う。レオンはそれはおかしいと主張する。……という家庭内抗争構図は珍しくもないんです、この時代。レオンは「若者らしい」主張をしているとも言えます。

さて、ここで「パンとサーカス」って表現が出てきますが、これは古代ローマ社会についてのユウェナリスの記述の中にある表現です。


「panem et circenses」という表現。私は「サーカス」を「娯楽」としていますが、原義的には「見世物」という方が当てはまります。「愚民政策」のための方法論なんです。原義的に「人々はパンとサーカスを求める」という表現なので、2088年の戦闘以来(正確には「セイレネス・ロンド」第一部・士官学校襲撃事件のとき以来なんですが)人々はというわけです。

この「パンとサーカス」って表現も「セイレネス・ロンド」シリーズでは頻出なので覚えておきましょう(笑)

レオンとのダイアログはまだ続きますよ。
――待て、次号!

→次号

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