これは「#03-05:イザベラの処女戦」に対応したコメンタリーです。
さてやってきました、2096年4月。イザベラ・ネーミアが初めて戦場でタクトを振るう時が。
イザベラの第一艦隊、レベッカの第二艦隊。最強の艦隊がアーシュオンを迎え撃つわけです。誰もが勝利を疑うことのない、完全勝利間違い無しの布陣。ただし今回は「初めて戦場に現れた歌姫」、イザベラがどの程度戦えるのか誰も知らない状態です。ピリピリですね。テレビ局はばばーんと派手なナレーションとテロップで戦争を演出します。この世界では戦争はまさに「娯楽」。殺し合いの生放送なわけです。剣闘士の戦いを見世物としていた時代と何にも変わらない。
もっとも、歌姫が出てきてからは興奮脳汁噴出ものの殺戮の生放送と化していたわけですが、先般のレベッカの戦い以降、「一方的に殺しまくれるわけじゃないのね?」という感情が国民の中でも出てきているのです。でも「(歌姫が死んでも)断末魔をゲットできるからそれでもいいや。どんどん殺して適度に死んでくれ」くらいに思っていたりもしています。なんてやつらだ。
現地時間十七時。黄昏を背負った第一、第二艦隊が遥か彼方――水平線にすっかり隠れるほど遠く――にいるアーシュオンの艦隊に向けて進路を固定して輪形陣を取る。
これ、「背中側が明るい」んですね。「背明」なわけです。これ、最後の戦闘ではイザベラが「朝日」を背負っている。つまり「背明」なんですね、こっちも。黄昏に始まり、払暁に終わる――という演出があったわけです。
これで四天王勢揃いなところが分かると思います。全V級がイザベラの指揮下に入ってるんですね、この戦闘では。
で、このM型、前代未聞の15隻もいます。これだけで大(潜水)艦隊です。ナイアーラトテップについては解説ページ見てね。
さすがに15隻もの超兵器に戦慄したエディタが増援を要請しようとします。合理的ですからね、エディタは。しかし、その要請をレベッカが拒否します。
『アーメリングより第一艦隊へ。第二艦隊からのこれ以上の増援は許可しません。ネーミア提督、よろしいですね』
『イエス。第二艦隊は手順に従い、対空警戒を』
『アーメリング、了解。第二艦隊、全艦、バトコンレベル最大で固定。AA戦闘シーケンス展開。ナイトゴーントに警戒せよ』
この辺は完全にイザベラとレベッカによる演出です。エディタたちをも欺いてはいますが、すべてメディア向けの「ポーズ」にすぎません。予定調和にも近い。そしてマリオンさん洞察スキルが発動。
まるで脚本でもあるんじゃないかという具合に、スラスラと進んでいく戦闘の序曲。
正解! マリオンさん正解!! そして序曲とか書いているのも(他にも音楽用語が多いのも)全部作者の仕込みですね。
オルペウスと呼ばれる特殊な空間認識フィルタを通さない限り、誰もがこの歌の影響を免れ得ない。
「オルペウス」というのが「セイレネス・ロンド」とはちょっと意味が違う。というか、「セイレネス・ロンド」のそれよりもだいぶ意味が狭い。まぁ、なんかあるよってくらいの存在感でしかありませんね、「静心」では。「セイレネス・ロンド」では、第二部がまるごとこの「オルペウス」の開発編みたいな感じなんですが。
私はこめかみのあたりにチリっとした違和感を覚えた。アルマも同じだったようで、「なんだ?」と呟いた。
マリオンさん、ナイアーラトテップの新型に気付きます。はるか遠距離、しかもセイレネスシステムを発動している状態ではないにも関わらず、実はイザベラやレベッカよりも早く気付いているんですね、これ。マリオンとアルマの超絶能力、まずここで書かれているんですな!
『亜音速魚雷の可能性は、否定――サイズは重巡洋艦相当、巨大すぎます。目標、なおも加速中! 情報を走査中。アーシュオン論理ネットワークへの侵入の許可を、提督!』
『却下。間に合わない。トリーネ、全速退避!』
水中をカッ飛んできたのはナイアーラトテップ改とも呼ばれるI型。あまりの超スピードの前に、なすすべがありません。イザベラのパワーでも距離があったために間に合わない!
そしてその新型の発する微妙な「音」をマリオンは拾い、そしてあの忌まわしき「ISMT(インスマウス)」の別の形であることに気付きます。マリオンは耳が良いのです。
その直後、トリーネは死にものぐるいの抵抗することでデータを取得することには成功しますが(物語上ではあっさりしか書かれてないが、ものすごく大きな功績です)、結果としてはI型の自爆攻撃の直撃を食らって蒸発してしまうわけです……。この時一番精神的ダメージを受けたのは、92年四天王のトップ、エディタです。親友でしたからね、トリーネは。だから普段クールなエディタがめちゃめちゃに取り乱すんですね。
そんなエディタに、レベッカは「冷静になれ」と冷徹に言い、イザベラも「戦闘は終わってないからちゃんとやれ」と言い放つわけです。イザベラ様の恐ろしさは次の言葉でもわかります。
『エディタ、呆けている場合ではない。V級のこれ以上の損耗をわたしは認めない。いいな、V級の生存を第二次目標と設定する』
敵の殲滅を最優先にして、「可能であれば」V級は損耗させるなと言うわけです。動揺する余裕さえ与えてもらえないエディタは、かなり辛い役回りを演じさせられているというべきでしょうね。
そしてそこに追い打ちをかけるかのように、敵の超兵器である特殊戦闘機・ナイトゴーントが五十も飛来してきます。ナイトゴーントはものすごい無人機です。まず通常攻撃が効きません。機動性が異常で、火力も凄まじい。つまりいわば無敵の無人機……なんですが、そして実際に通常の戦力や飛行士にとってみれば脅威なのですが――。
『アーメリングより全艦、敵特殊航空戦力は私が相手をします』
ということで、レベッカと戦艦ウラニアが一瞬でナイトゴーントを殲滅します。が、アルマはその「いつもよりやばいくらいすごい」レベッカの秘密を看破します。PTCという、C級歌姫御用達の技を使ったとアルマは断言するのです。
しかし、このPTCというのは三人一組じゃないと使えないと言われている技なんですね。しかも同格くらいの。だからレベッカが発動させられるとしたら、その相手はイザベラだけってことになるんですが、そうするとどうやっても一人足りない。だからマリオンは「そんなんできないじゃん」というわけです。が、アルマは「そうじゃないと説明がつかない」と言い張ります。
具体的には射程は二倍、破壊力は三割増、みたいな。まぁ、D級に倍率ドンしたらアホみたいな数値が出てくるわけで。その結果が、敵の必殺兵器50機の瞬殺でありまして。トリーネの時に発動しとけよ、と思われるかもしれませんが、アレは完全に不意打ち。レベッカ、イザベラの力をもってしても対応ができなかったのは事実です。
『こちら、アーメリング。AA戦闘を中断。敵特殊航空戦力、殲滅を確認。第二艦隊、バトコンレベルは現状を維持します』
『ネーミア、了解。敵通常航空戦力に関しては第一艦隊で十分だ。協力に感謝する』
レベッカは「もう仕事は終わったから見てるだけにするからね」と宣言し、イザベラも「通常艦隊、通常航空戦力なら余裕だぜ」と了解しちゃいます。まぁ、実際余裕なんですが、被害はある程度甘んじて受ける――という意味の「余裕」ですね。
でも、航空戦力はD級でもないかぎり、やっぱり怖い相手なんです。亜音速魚雷、対艦ミサイル、そういうものの直撃を喰らえば、重巡洋艦級ですら一発轟沈ありえますから。駆逐艦以下の小型艦なら機関砲ですら沈む可能性があります。アーシュオンはとにかく大戦力で襲ってくるので、歌姫による対空砲火ですら戦闘領域をカバーしきれないことがしばしばあるのですね。
この時点でイザベラ、レベッカは敵の通常航空戦力はだいたい150~200程度と見積もっていました。が、実際に飛んできたのは……。
水平線の彼方から、うんざりするほどの攻撃機が飛来する。二百、いや、三百はいる。こんな数の攻撃機、今まで見たことがない。暗くなった空を埋め尽くす、より暗い影。その数は――悪夢だ。
三百機。今風に言えばF-35とかが300機で攻撃仕掛けてくるわけです。おっかねぇ。艦隊の空母だけでは賄いきれないその数ですが、遠くに潜水空母などが潜んでいたのでしょう。歌姫艦隊には「航空戦力がある程度有効」であることは、レベッカの連日の戦闘で証明されてしまっているので、アーシュオンはそれを押さえたということです。しかし、その大戦力を前にしては、第一艦隊だけではさすがにやばくね? ということで、あの冷徹なレベッカも前のめりになります。
『アーメリングより、ネーミア提督。敵航空戦力が想定を上回る。我が第二艦隊の支援の要を認――』
……というわけで、待て、次号!