これは「#07-01: This day…」に対応したコメンタリーです。
アーシュオンの奇襲攻撃により味方の二個艦隊が全滅したのを受けて、イザベラ率いる第一艦隊が出撃していきます。
その日は、第一艦隊にとっては、今年度初めての練習航海の日だった。出発前、アルマがずいぶんと緊張していたのを思い出す。レニーが子どもをあやすようにアルマを抱きしめ、そして手を繋いで出発していったっけ。
ラブラブですね。ラブラブなんですね。ラブラブなんですよ……。
そして留守番となっている第二艦隊は訓練中に、「第一艦隊行方不明」の報せを受けます。動揺する第四期生たちのいるシミュレータルームにマリアとレベッカが入ってくるんですが、この時、
その時、ドアが低い擦過音とともに開いた。
と「低い擦過音」と言っているところで、マリオンの動揺を感じてもらえたらパーフェクト。マリオンの耳だとドアの開閉音なら「●●Hz」とかそういう聞き分けができているはずなのに、そこに言及する余裕もないという。
レベッカもマリアも、「この日」が来ることは知っていたのですが、だからといって動揺しないはずもない。多分レベッカ一人だとここには来られなかった。マリアが機械的にレベッカを引き連れてきたのでしょう。
「現時刻を以て、第一艦隊を反乱軍と呼称します」
マリアの宣言。冷徹なる言葉ですね。
そしてイザベラの映像。そこで彼女は自らの口で「ヤーグベルテに反旗を翻す」事を宣言し、統合首都を陥落せしめんとすることもまた宣言します。
その挨拶と言わんばかりに、レニーの乗った戦艦ヒュペルノルに砲撃が加えられ……轟沈。セイレーンEM-AZの大火力にイザベラの力が乗っているわけですから、歌姫としては格下であるレニーの戦艦が耐えられるわけがありませんね。実際にはこの映像はヤーグベルテの政治屋が作り出したフェイクなんですけど。
イザベラは朗々と謳います。
『わたしは、ヤーグベルテのあり方に、愚かにして傲慢なる国民たちに強く抗議する! 安穏たる日々を過ごすのは良い。我々軍人の役割は、お前たち国民に安寧をもたらすことだからだ。だから、それは良い。
しかし! お前たちはわたしたち歌姫に何をした! わたしたち歌姫の命を何と考えた! わたしたちの歌に酔い、それを得るために戦争継続を是としたのは何者か!
知っての通り、ヤーグベルテは民主国家。そして、戦争は政治の手段。すなわち、裁かれるべきは政府である。そして、彼らと結託した軍である!』
ここの部分は、#03-03のイザベラ初の長台詞と温度感を合わせました。
『されど、国民よ。ヤーグベルテの国民よ!』
ここ↑はですね、ギレン・ザビです。はい、ほんと。まじめに。
『我らが国、ヤーグベルテは民主国家である! 而して現政権を選んだのは何者か。支持しているのは何者か。愚かな人よ、お前が誰にその票を投じたかは問題ではない。票を棄てたか否かも問題ではない。国家国民は総体として、今の政治のあり方を選んだ。その事実があるのみ! 繰り返すが、我が国は民主国家であり、ゆえに、多数であることが正義にして総意である。ゆえに! お前たち、ひとりひとり、例外なく。その全てがわたしの敵である!
歌姫を都合の良い娯楽の素材、断末魔を極めて都合の良い悦楽の素材として、我々の仲間の死ですら歓喜の下にて受け容れた! さらには戦死者なき戦いには、有識者とやらからのご丁寧な戦術指導すらあった――すなわち、程よく仲間を殺せと! そして多くの国民はそれに同調した。不遜なり! 不逞なり! 不埒なり! ヴェーラとレベッカによる圧倒的勝利より、早十年。ヤーグベルテは何かを学んだか! ――否である!』
イザベラ、いや、ヴェーラの「怒り」です。わたしたちが苦しんでいる間に、お前たちは一体何をしてきた。何をしようとしてきた。誰のために何を為した。いや、お前たちは何もしてこなかった。自分たちが肥え太る以外のことはなにも! というような。そんな底のしれない怒りがあったわけです。
『ヤーグベルテは何も学ばず、さらには、救いがたき享楽を覚えた! 我々の命が奏でる最期の歌という享楽を! そして政府は、その供給を続けるべく、アーシュオンとの不毛なる戦争を続けた。そう、戦争は政治の手段なのだ。我々歌姫という素質者をすりつぶし、その芥子の粉末を国民に供給し続け、国民を愚かたらしめ続ける、まさにその手段である!
この現実に、この世界のありように、わたしは強く抗議する。わたしたちの生み出すものを受け取るだけ受け取り、騙し、貶め、奪う。血を流すことのみならず、我々に死ぬことすらも求め、自らは安全な場所から石を放り、考えもなしに囃したて、そして傷まず、日々享楽に耽溺し、与えられることを当然の権利と考え、信じて、疑えない暗愚卑陋なる者たちに、わたしは本心より憤怒る。
わたしたちは強い。たしかに、強い。されど、戦いの度に恐怖し、後悔し、苦悩し、摩耗していくわたしたちに対し、いったい何人が思いを馳せただろうか! いったい何人が声をあげただろうか! わたしたちが敵の返り血に、そして仲間の死に、何の感情も抱かぬとでも思うのか!』
どうしてお前たちは当事者たろうとしない。どうしてお前たちは苦しみ続けることを強要される当事者たちに罵詈讒謗あるいは投石などということができるのかと。……これは「戦争」のみならず、あらゆる現場で作業している人たちの言葉だと思うんですよ。
『戦争をゲームのように眺め、娯楽のように愉しみ、好き勝手な御託解釈を並べ、断末魔を貪欲に求め、さらには我先にと飢えた豚の如くに奪い合う。その凄惨たる現状に、なんぴとも変わろうとしない現実に、わたしの忍耐は限界を超えた。わたしたち歌姫がただ利用され続けることに対して、わたしはこうして立たねばならぬと考えた!』
お前たちが良い方向へ変わろうとしないなら、変わることができないというのなら、わたしが力を貸してやろう――というようなことをいうわけです。ちなみにここはキャスバル・レム・ダイクンな感じで。
『ゆえに、わたしの持つありとあらゆる権能をもって、わたしはヤーグベルテを滅ぼそう!』
「滅ぼす」とまで言わないと、国民には理解できない――イザベラはそう考えたんですね。お前ら一人残らず殺すからな、例外なく――という死刑宣告を発したわけです。「お前らはもう部外者じゃない、お前らはすべて裁かれる」という事を実効的な言葉で示したわけです。コレには国民も流石に肝を冷やしたと思うんですよ。だけど、国民にはまだ「第二艦隊」がいる。「レベッカならなんとかしてくれるに違いない」――という甘えがあった。どこまでも成長しない。でもそれはイザベラもレベッカも分かっていたことで、だからこそ、次の命令を出させるように仕向けた(仕向けなくても出ていたと思いますが)
マリアが黒い瞳で無感情に告げます。
「主目的、反乱軍の殲滅。第二次目的、アーシュオン艦隊の殲滅。反乱軍の捕虜の要を認めず。第二艦隊は全戦力を投入し、反乱軍を殲滅。最優先目標、イザベラ・ネーミア座乗艦、戦艦・セイレーンEM-AZ」
人々の目を覚まさせるには、最強のふたりが全力を持って殴り合うほかないと。凄惨な戦いを見せつけるしかないと。完膚なきまでに潰しあい、歌姫の恐ろしさを見せつけるしか無いと。
――そしてその結果「きれいになった」世界を、次世代に渡そうという。そういう計略なわけです。
レベッカの心の声がマリオンに伝わります。
――来てしまった。この日が、本当に来てしまった。
この日が来るのを知っていながら、来ないで欲しいと願いながら、しかしこのままではいけないんだと信じながら、レベッカもイザベラ(ヴェーラ)も、じっと耐えていたわけです。しかし、「自分か愛する人が死ぬ」事が現実に限りなく近づいてきて、レベッカは打ちのめされるわけです。
しかしその悲しみのさなかにいるレベッカはこう言って、マリオンたちの言葉を封じるわけです。
「皆さん、言いたいことはたくさんあるでしょう。疑問もたくさんあるでしょう」
誰もが衝撃に呆然としている中、こんな事を言われては何も言えなくなると思う。
そしてマリアが「全軍に戦闘態勢を指示している」と言ったことに対し、レベッカが精一杯の皮肉を返します。
「……にも関わらず、イズーと戦うのは私たち第二艦隊だけなのですね」
勿論そんなことは百も承知なレベッカです。そして歌姫たち以外が邪魔だということも事実でした。だからこれは皮肉なのです。そしてマリアもまた、軍や政治に対して皮肉を伝えているのですね。「役に立たないことは知っているが、体裁上戦闘態勢発令させておいてやるよ」というような冷淡な命令なんです。「お前らは書類の上だけの存在で十分、国家をあげて戦闘準備を行ったというエビデンスのための。お前らは戦場の数合わせにもなりはしない。いわんやその他の国民をや」という。また「歌姫が永続的に味方であるとはゆめゆめ思うな。レベッカが負けたら次はお前たちだ」という死刑宣告の執行順序を明示したという意味でもあります。
こうされたら誰もが否応なしに「レベッカが勝つこと」を祈らざるを得ない。漠然とゲームのような殺し合いが続くのを観ているのではなく、「レベッカの次の出場選手は自分たちだ」というように、ゲームから逃げられないのだということの明示ですね。マリアだって「歌姫計画」のボスではあっても、諾々と現状を受け入れてるわけじゃないのです。
だから、マリアは一言で答えます。
「抗し得ません」
役立たずめ……! という思いも多分に含まれていたと思いますね。
誰も救われない戦いが始まる……。