歌姫は壮烈に舞う

歌姫は壮烈に舞う

16-1-1:面白いから。

 二〇九〇年六月の末――。  捕虜交換は無事に完了し、ヴァルターはアーシュオンにて収監された。一部で助命嘆願の動きが出ていたりはしたのだが、情報部はそれら全てを封殺した。 「それで、事実関係には間違いはないな?」  ミツ...
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15-2-1:最後の日、別離の日

 一ヶ月という月日は、矢のように、そして至極当たり前のように過ぎた。  その間も実験は継続され、オルペウスの性能は一段、また一段と向上していった。また、ヴェーラたちは陸軍、海軍の作戦に終始随伴させられていた。ヴェーラに至っては、トラ...
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15-1-5:だいじょうぶじゃないと、言ってみろ

 その日の夜、カティは一人、エディット邸のリビングのソファに埋もれていた。目を閉じてはいたが、意識は嫌になるほどはっきりと覚醒していた。  これまでヴェーラとは週に一度は電話で話をしていた。だが、この一ヶ月はその役目はレベッカに代わ...
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15-1-4:覚悟の距離

 捕虜交換……。  ヴェーラは目を見開いて繰り返す。ハーディは金属のように冷たい顔をヴェーラに向ける。 「フォイエルバッハ少佐と交換に、我々ヤーグベルテは四風飛行隊の捕虜十四名を取り戻す」「十四! そりゃまた高い買い物だ!」 ...
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15-1-3:傷付いた歌姫の迷走

 それから約一ヶ月が経過した。ヴェーラは度々戦線離脱をしなければならないほどの心労を重ねており、医師から大量の精神安定剤を処方されていた。気分が落ち着いている日のほうが少ないくらいで、普段はほとんど自室に引きこもっているような状態が続いて...
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15-1-2:それがわたしの役割ならば……

 ヤーグベルテの陸軍と海兵隊は、破竹の勢いで|島嶼《とうしょ》部のアーシュオン軍を駆逐していった。たった二年弱の期間で、取り戻した島の数は五十にも及び、不沈空母とされていた人工島も七つを破壊ないし占領することに成功していた。その実績の裏に...
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15-1-1:命を、全てを。

 二〇八八年から二〇九〇年にかけては、ヤーグベルテは圧倒的な勝利を収め続けた。その主な要因は|対《カウンター》セイレネスデバイスである「オルペウス」の開発が成功したことである。この技術により、四風飛行隊ら超エース級の|飛行士《パイロット》...
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14-2-3:復讐心の行方

 奥さんのこと、赤ちゃんのこと、ごめんなさい――。  ヴェーラの言葉が頭の中でぼんやりと反響し続けている。  午前中の実験の後、ヴェーラがヴァルターの所へ駆け寄ってきてそう言ったのだ。その時は何も言えなかった。今でもあの様子の...
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14-2-2:苦いコーヒーを飲みながら

 その時、エディットが帰宅した。 「何を大騒ぎしているの。外まで聞こえたわよ」  ブラウスの襟を緩めながら、エディットはソファの指定席に腰を下ろす。立ったままの二人の|歌姫《セイレーン》を見上げ、ヴェーラの左頬が真っ赤になって...
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14-2-1:罪咎の意識

 しかし落涙はヴェーラを癒やすことはなかった。家に帰ってからもヴェーラはソファの上で膝を抱え、じっとテレビを見つめていた。あれから一言も発することなく、レベッカが入れてくれた紅茶にも手をつけず。時刻は午後五時。まもなく日が暮れる。 ...
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