小説

歌姫は背明の海に

13-1-1:カティの出撃

 二〇九六年十一月――。  アーシュオンが着々と|M《量産》型ナイアーラトテップの頭数を揃え、また、|I《改良》型ナイアーラトテップの量産体制に入りつつあるこの時期において、ヤーグベルテもただ黙って指を咥えて見ていたわけではない。 ...
歌姫は背明の海に

12-3-1:インサイド・ザ・プリズン

 シルビアの執務室から出た直後に、ミツザキはふわりと姿を消した。もっとも、誰かがその瞬間を見ていたとしても、その現象を知覚することはできなかっただろう。  その一瞬後には、ミツザキは《《闇》》の中にいた。何処を見ても自分自身以外、何...
歌姫は背明の海に

12-2-2:再戦の機会を

 ミツザキは無遠慮に室内に入ってくると、そのままフォアサイトの隣に腰をおろした。その表情には僅かな陰りが見える。フォアサイトは露骨に迷惑そうな表情を見せたが、さすがに何も言わなかった。 「それで大佐、ご用件は」「まぁ、そう|急《せ》...
歌姫は背明の海に

12-2-1:狙い撃つは――

 ヤーグベルテの|V級歌姫《ヴォーカリスト》を仕留めてから半年後、二〇九六年十月――。  シルビアは硬いデスクチェアに深々と身体を沈め、指を組み替えてはため息を繰り返していた。つけっぱなしになっている空中投影ディスプレイには、新型の...
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12-1-1:ARMIAとベルリオーズ

 あなたは……なぜ私にこんな|役割《ロール》を与えたのですか。  バルムンクが生成した闇の中で、マリアはベルリオーズに詰め寄った。ベルリオーズは背中でゆるく手を組みながら、「なぜだって?」ととぼけるように応じた。 「簡単だよ、...
歌姫は背明の海に

11-2-3:ヴォーカリスト、三人

 ちょうどその頃、エディタ、クララ、テレサの|V級歌姫《ヴォーカリスト》三名は、士官学校のセイレネス・シミュレータルームに集まっていた。隣接するモニタルームではブルクハルト中佐が何やら忙しそうに作業をしていたが、それはいつもの事、もはや風...
歌姫は背明の海に

11-2-2:諦観

 イザベラ・ネーミアの初陣、大勝利――。  ほとんどあらゆる|情報媒体《メディア》が、その戦闘をそのように総括した。もっとも、貴重な|V級《ヴォーカリスト》および重巡レグルスを喪失したことについては、轟々たる非難が出たことも事実であ...
歌姫は背明の海に

11-2-1:エディタのタクト

 イザベラはアーシュオンの残存艦隊に向けての第二射を放つことを決意する。|薄緑色《オーロラグリーン》の輝きが、セイレーン|EM-AZ《イーエムエイズィ》から同心円状に広がっていき、やがてその海域を覆い尽くす。今度はその輝きが急激に収束し、...
歌姫は背明の海に

11-1-4:自己犠牲と憤怒の剣

 エディタとトリーネは、新型の|クラゲ《ナイアーラトテップ》との交戦を開始しているようだ。物理的には対潜攻撃を繰り出す二隻の重巡と、距離を詰めようとするクラゲというような構図が見えるだけだったが、二人は論理戦闘に突入しているはずだ。イザベ...
歌姫は背明の海に

11-1-3:圧倒せし咆哮

 先陣を切る三機の白い戦闘機――確認するまでもない。マーナガルム飛行隊だ。マーナガルムに率いられた各航空隊の連携も見事だ。艦隊戦力だけでは、航空戦の段階で大損害が出ていたに違いない。|歌姫《セイレーン》は強力な戦力ではあったが、|C級歌姫...
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