これは「#08-08: ことづて」に対応したコメンタリーです。
いよいよ本編ラストエピソード。これにエピローグがついておしまいです。コメンタリーもおしまい。
ヴェーラの死を受け止めきれないまま、マリオンさんわんわん泣きながらブリッジの自席に辿り着きます。そして沈みゆく戦艦を目にしてまた号泣。誰もが彼女に言葉はかけず、ただ見守るだけというのが、ブリッジ要員の大人っぷりを表しています。そして多くのブリッジ要員、マリオンと同じく何も喋れなかったのでしょうね。ダウェル艦長もまた然り。親しかったレベッカを失い、ヴェーラの死も目の当たりにし……。
私は涙を拭く。拭いても意味がないほど次から次へと涙はこぼれる。白い手袋は涙で飽和していた。
ここの「白い手袋」というのがちょっとしたアレで。「白い手袋」が強調されたのって、レベッカとの対話があった#05-04だけなんですね。なので、ここでちょっとレベッカを思い出してもらえたら、ということで、敢えて「白い手袋」と記述しています。
そして視界に飛び込んでくる赤い大型戦闘機・エキドナ。言わずとしれた「空の女帝」カティ・メラルティン大佐の専用機です。さしもの女帝でも、もはや何をできるわけでもなく――。
「さきほど、エウロスのエリオット中佐から連絡がありましてな」
ダウェル艦長が私に背を向けながら言った。
「うちのバカが一機でそっちに行った。間に合ったらよろしく頼む、とね」
この出撃、エリオットは止めてるんです。危険過ぎるし、間に合いっこないって。そのへんは「セイレネス・ロンド」で出てきますが、とにかくエリオットはカティを行かせたくなかった。けど、カティはすべてを振り払って無許可で出撃したんですね。「人の気も知らないで!」という意味で「うちのバカ」という表現になっています。
もちろん、マリアが色々手を回していますが。一応これ、後付で「参謀部第六課発の出撃要請」に従ったことになっています。現場に向かっているカティに、マリアが「行ってください」って言ってるんですよね。ヴェーラがカティを大切に想っていたのは知っている。だから、ヴェーラの最期を看取って欲しいという願いもあったはずです、マリアには。
「間に合わなかった……間に合わせられなかった」
私は呻く。ダウェル艦長は頷いた。
「それが、ヴェーラ・グリエールという一人の人間の答えだったのでしょう」
その推察が正しかったのか否か。もはや誰も知り得ない答えです。でもマリオンにかける言葉としては最適解ですね。
そしてヤーグベルテ最後の戦艦、セイレーンEM-AZが沈みます。
『マリオン、アルマ』
エキドナから空の女帝、カティ・メラルティン大佐が音声のみで通信してくる。
音声のみ。顔はとても見せられなかったんですね、カティは。マリオンには「声の震え」を察知されていますし。マリオンは耳が良いですから、そういう「音」には極めて敏感なんですね。
カティは「全部見えてたし、聞こえてた」というわけです。この時点では「静心」においては誰もカティが歌姫であることは知りませんから、とても不思議な現象なわけです。
そしてカティは
『がんばったな、みんな……』
と、言い捨てて飛び去っていくのです。
しかしマリオンには伝わっていました。女帝の慟哭が。
こうして、イザベラの反乱は静かに幕を閉じます。マリオンとアルマに世代を繋いで。