小説

歌姫は壮烈に舞う

09-2-3:冷たい身体

 それから一ヶ月半、十二月も半ばの頃。ついに恐れていた事態が起きた。いつもなら誰かが帰宅するなり立ち上がり、頭を撫でろと前足をバタバタさせていたクレフだが、今日はエディットの姿を見ても、横になったまま身動きをしなかった。いつもより呼吸が早...
歌姫は壮烈に舞う

09-2-2:昏い提案

 ウサギが「クレフ」という名を与えられてから約一ヶ月後――まもなく十月が終わる頃のことである。クレフの食欲がなくなり、あまり動かなくなったことから、ヴェーラたちは近くの動物病院へと駆け込んでいた。 「安楽死――!?」  診察室...
歌姫は壮烈に舞う

09-2-1:動物保護施設にて

 そのやり取りから二時間後には、エディットたち三人はハーディの従妹が働いているという動物保護施設に到着していた。施設入り口にはタガート兵長がいて、エディットの後ろにはジョンソン兵長がついてきていた。大型のペットショップも幾つか存在はしてお...
歌姫は壮烈に舞う

09-1-2:休日の午後

 それから数日後、九月三十日になってようやく、ヴェーラとレベッカは休暇を手に入れた。実に二週間ぶりの完全オフ日である。軍としてはその休暇すら取り消そうとする動きを見せたのだが、セイレネス技術責任者であるブルクハルト少佐が断固としてそれを拒...
歌姫は壮烈に舞う

09-1-1:静かすぎる夜

 二〇八六年八月二十八日――《《暗黒空域》》、戦死。  このニュースは「八・二八の悲劇」として、瞬く間に世界中を駆け巡った。イスランシオに続いて、シベリウスを喪失したヤーグベルテの防衛力評価は急落し、また、四風飛行隊も急激に発言力を...
歌姫は壮烈に舞う

08-2-3:海に開いた穴を見つめて

 あんなもの、戦闘でもなんでもない。  第四艦隊旗艦、ニック・エステベスに着艦したシルビアは、コックピットの中でヘルメットを投げ捨てた。汗に湿った灰色の髪を|掻《か》き|毟《むし》り、そのまま頭を抱える。ヤーグベルテが持ち出してきた...
歌姫は壮烈に舞う

08-2-2:カティの見た景色

 こいつ、読めない――!  カティはひらひらと蝶のように不安定な機動で攻防を繰り返す|預言者《フォアサイト》の機体を睨みながら唇を噛む。システムによる予測が全く役に立たない。それどころか逆に足枷になるほどだ。ロックオンの機会はおろか...
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08-2-1:エウロス vs マーナガルム

 四十八機の戦闘機が、一路アーシュオンの第四艦隊に向けて飛行していた。エウロス飛行隊である。シベリウスは稼働戦力のほとんど全てを持ち出し、その圧倒的戦力でアーシュオンの艦隊戦力を殲滅することを目論んでいた。その破壊対象には無論、マーナガル...
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08-1-3:銀と金とマリア

 二〇八六年八月二十八日、一四一五時――アーシュオン第四艦隊二所属する遊撃分艦隊が、ヤーグベルテ第二艦隊に強烈な先制攻撃を浴びせかけた。先の|AX-799《テラブレイカー》処女戦の際に航空戦力が半壊してしまっていた第二艦隊は、未だ満足な補...
歌姫は壮烈に舞う

08-1-2:青い火花

 ヴァルターと別れたシルビアは、俯いたまま早足で自室へと向かっていた。靴音が狭い通路で跳ね回る。  私は、落ち込んでいるのか?  シルビアは少なからず混乱していた。胸が痛いし、頭の奥が重い。そんな気がする。  私は何を一...
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