小説

歌姫は壮烈に舞う

03-1-1:支配者の憂鬱

   全くの闇の中に、黒いスーツを身に着けた男が一人、浮かんでいる。システム・バルムンクによって生成された暗黒の空間は、ジョルジュ・ベルリオーズにとっては唯一の安息の領域と言っても良かった。その整った白い顔には、|仄《ほの》かに笑み...
歌姫は壮烈に舞う

02-2-6:燦めく夜の中で

   半袖では寒く、長袖では少々おおげさ――そんな風がベランダに出たヴァルターとエルザを弄ぶ。煌々たる月は薄い雲の彼方でもその存在感を示している。上空の視界は良好、水平線まで見通すことができるだろう。空は平穏、されど地上は、自国内で...
歌姫は壮烈に舞う

02-2-5:反戦集会を穿つ者、穿つ者を利用する者

   ヴァルターはエルザとその両親、ローラとアンゼルムとともに夕食のテーブルについていた。大型のテレビの中ではいわゆる芸人たちがゲームに興じている。ヤーグベルテと戦争状態はあまりにも長く続き過ぎてしまったために、多くの民間人たちはそ...
歌姫は壮烈に舞う

02-2-4:シルビアとエルザ

   ヴァルターはシルビアの車載音楽プレイヤーの中に、「LOVE SONGS」というプレイリストを見つける。|高BPM《ハイテンポ》の独特な曲が途切れると同時に、そのリストをスタートさせる。それに気付いたシルビアがとっさに|自動運転...
歌姫は壮烈に舞う

02-2-3:ハイスピード・トラフィクス

   地下深くにある駐車場でヴァルターを出迎えたのは、クルマ素人のヴァルターにでもわかるほどの高級車だった。艶のある黒色をベースに、マットな赤がアクセントカラーとして配置されているカムテールだ。相当なクルママニアしか手を出さないと言...
歌姫は壮烈に舞う

02-2-2:個人的な質問

   ヴァルターが自分の執務室へと向かって移動していると、後ろから誰かが追ってきた。むき出しのコンクリートの廊下は、軍靴の音を高らかに反射する。忍び歩きは不可能だ。ヴァルターはその音の主が誰かも把握できていたので扉を開けながら音の方...
歌姫は壮烈に舞う

02-2-1:ミーティング

   それから三ヶ月。五月も半ばに差し掛かろうという頃まで、アーシュオンは一切の軍事作戦行動を中止した。アーシュオンの兵士たちにしてみればそれは平和ボケするのに十分な期間でもあった。 「確かに、うちらの|超兵器《オーパーツ》が...
歌姫は壮烈に舞う

02-1-2:歌が繋ぐ世界

   その日の夜、ヴァルターはなかなか寝付けなかった。日中のクリスティアンとの会話が尾を引いたような感じだった。そして何か、気持ちが焦っていた。渇いていた、と言っても良いかもしれない。  ヴァルターは取り憑かれたかのように、軍...
歌姫は壮烈に舞う

02-1-1:アーシュオンのアビエイターたち

   遡ること二ヶ月半。ヤーグベルテ士官学校襲撃事件から二週間後、二〇八四年二月二十日のことである。  アーシュオン共和国連合の最前線基地、軍装港湾都市ジェスターは相変わらずの慌ただしさの中にあった。ヤーグベルテに最も近い基地...
歌姫は壮烈に舞う

01-1-4:あなたの心の声は――。

   デリバリーされた寿司の半分はヴェーラの胃の中に収まった。エディットはもともと酒さえあれば良い性分だったし、レベッカも少食に属する。カティは精神的にそれほど食べられる状態でもなく――というわけで、ヴェーラは二人前以上を平らげるこ...
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